映画ナタリー Power Push - 「極道大戦争」

三池崇史インタビュー 常識とジャンルの壁を超えた原点回帰作

ブルース・リーを通して知った、映画の“理屈を超えた感動”

──監督ご自身には、幼少の頃に「なんだこれは」と思ったような映画体験があったんですか?

「極道大戦争」より

ちっちゃいときは“まんがまつり”とかそういうものしか観なかったんですが、スティーヴン・スピルバーグが「激突!」っていう……子供の目から見ても「これお金かかってないな」とわかる映画を撮っていて。

──本来はテレビ用に作られた映画ですね。

ヨーロッパの一部と日本では劇場公開されましたけど、アメリカではテレビですよね。でもこれが面白いんですよ。車とトレーラーだけで映画って成立しちゃうんだって。それから子供の頃の僕にとって一番大きかったのは、ブルース・リーを知ったことですね。でもそのときすでにブルース・リーはこの世にいなかった。「燃えよドラゴン」が日本で公開される少し前に死んでいて、僕らはすでにこの世にいない人間に憧れを感じていたという。でもスクリーンの中ではブルース・リーは躍動している。そのとき「ああ、映画って面白いなあ」って。それは理屈を超えた感動ですよ。映画そのものの持っているエネルギーというか、奇跡的なものがそこにあった。

「悪魔のいけにえ」を観ていなければ映画を撮っていなかったかも

「極道大戦争」より

──三池監督の映画原体験はスピルバーグとブルース・リーだったんですね。

でもその次にまたびっくりすることがあって。高校生になってから「街の灯」のリバイバル上映を観に行ったんですよ。

──チャールズ・チャップリンの。

そうです。でも劇場に行ったら満員で。せっかく映画館のある街に出てきたので、そのまま帰るのももったいないなって思ってたら、なんか金髪の若いお姉さんがパニクった顔してる看板があったわけですよ。で、「エッチっぽくていいな」と思って入ったその映画は、「悪魔のいけにえ」だったんです(笑)。

──(笑)。

若い男がハンマーで頭をガーンと殴られるシーンがあって、足がバタバタけいれんするんですよ(笑)。そのシーンの影響から、自分の映画の中でも頭を殴られた人間の足がけいれんする演出をしてます。でもそうやって作ったものを観ると、自分が「悪魔のいけにえ」から受けたほどの衝撃ってないんですよね。そもそも、ホラー映画とかあんまり好きじゃないんですよ。お金払って怖い思いするなんて信じられない。

──それは意外ですね……。もしそのとき予定通り「街の灯」を観ていたら、ご自身の作風が違っていたということもありえますか?

三池崇史

全然違ったと思う……っていうか、映画を作ってないかもしれませんね。「悪魔のいけにえ」のトビー・フーパー監督とは、2006年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭で僕の「インプリント/ぼっけえ、きょうてえ」を一緒に観ました。「完璧だ。この映画は面白い」と褒めてくれたんですけど、僕は「あなたのおかげですよ……いや、お前のせいだ」と言ってやりたかった(笑)。

──「悪魔のいけにえ」を観たときのエピソードは話されなかったんですか?

話しましたよ。そしたら、彼はニヤニヤしながら「そうか」って(笑)。そういうことを言われるのって、映画を作ってる人間はうれしいんですよね。黒沢清監督の「回路」を観たとき、あまりに怖くて「だめでしょこの映画は……『死は永遠の孤独』はまずいでしょ」と思った。死が永遠の孤独だったら生きてることの価値はなんなんだっていう。それで黒沢さんに「怖すぎますよ」って言ったら、いたずらっ子みたいに「そうだろ、そうだろ」って(笑)。なんだ、いたずらしてんのかこの人っていう。でも映画監督って、そういうものなのかもしれませんね。

“共犯者”になってくれる俳優・市原隼人の魅力

──「極道大戦争」で主人公の影山亜喜良を演じた市原隼人さんですが、影山と市原さん自身には共通した部分があるように見えました。

狂犬(ヤヤン・ルヒアン)と対峙する影山(市原隼人)。

影山があんなキャラクターになったのは、市原隼人が演じたからですよ。自分の中では最初から彼に演じてもらうと決めていました。あとは向こうが応えてくれるかどうかっていうだけの問題でした。

──それは「神様のパズル」で初めてご一緒されたとき、市原さんに何か共鳴するものを感じたからでしょうか?

そうですね、面白い男だと思ったんですよ。波長があわないと手ごわい相手かもしれませんが、仲間になれるというか、共犯者になってくれるというか。あんまり細かい役作りとかは必要ないんですよね。例えば衣装の靴をこうしようかって言うだけで、こっちが求めているものを感じ取ってくれる。彼が演じた影山はヤクザで、世間から見ればはぐれものといえる存在ですが、影山は影山なりにきちんと筋を通してまっとうに生きている。人を裏切ることもなく、組長の神浦を陰でしっかり支える。まあそういう人間なんですよねきっと。

──やはり、市原さん自身と影山には重なる部分があると。

「極道大戦争」より

うん。まあもちろん野心があったりね、自由を求めてるっていう部分もあるのかもしれないけど、リスペクトする人間、信頼する人間のことは全力で支える。そういう市原くん自身の人間性が、僕らの映画作りを役者として支えるときにリンクしてくるんですよ。そして、性格そのものを自分の思うような芝居に持っていけるように改良しちゃえる。だから、すべての歯車がちょっと狂うと大変なことになってしまう役者だと思いますね。

──ギリギリのバランスを保ち続けている俳優なんですね。

例えば(影山と戦う狂犬を演じた)ヤヤン・ルヒアンは、アクション俳優だからもちろん強いわけですよ。市原くんは「なんだこのスピードは」とか感じてるんだろうけど(笑)、「負けてらんないよな、そういう役だしな」とも思える。だからヤヤンに手加減してほしくなくて、「全開で来てくれ」って言っちゃう(笑)。それで本当に全開で来られて骨にヒビが入ったりとかしても、その程度は彼の中ではけがのうちに入らないみたい。だからあれは影山亜喜良であり、市原隼人なんですよ。しかも、彼は共演する相手を見ながら、さらにその先を見て自分自身とも戦ってる。お芝居を超越してますね。

「極道大戦争」

「極道大戦争」
ストーリー

敏感肌を持つ半端者のヤクザ・影山亜喜良は、カタギの人々からも慕われる組長・神浦玄洋に憧れて神浦組に入った。だがある日、神浦は突如街に現れた2人組・狂犬と伴天連の襲撃に遭遇し、駆け付けた影山とともに倒される。最期の力を振り絞り、影山の首に噛み付いて「我が血を受け継いで、ヤクザ・ヴァンパイアの道を行け!」と叫ぶ神浦。影山は超人的な力を身に付けて覚醒するが、噛んだ人間をヤクザ化させてしまう能力も継承してしまう。自身の変貌に苦悩しながらも、神浦の敵討ちを果たすため激闘を繰り広げる影山。しかし彼の敵は狂犬たちだけではなかった。世界最強の殺し屋・KAERUくんがやってきたのだ……。

監督:三池崇史
脚本:山口義高
主題歌:KNOCK OUT MONKEY「Bite」
出演:市原隼人、成海璃子、青柳翔、渋川清彦、ヤヤン・ルヒアン、ピエール瀧、でんでん、リリー・フランキー、高島礼子ほか

Blu-ray / DVD

「極道大戦争」2015年11月3日発売 / 発売元:日活 販売元:ハピネット
プレミアム・エディション [Blu-ray Disc 2枚組] 5616円 / BIXJ-0211
プレミアム・エディション [DVD 2枚組] 4536円 / BIBJ-2870
初回限定特典

オリジナルスリーブケース

音声特典

コメンタリー:三池崇史監督×市原隼人×でんでん×モルモット吉田(進行役)

映像特典

極道の現場~メイキング&インタビュー~ / イベント映像(三池崇史Presents大人だけの空間、ヒット祈願イベント、初日舞台挨拶、MX4Dイベント) / アニメ「極道酒場でんでん」 / 特報、劇場予告、TVスポット

三池崇史(ミイケタカシ)

1960年8月24日、大阪府八尾市出身。今村昌平、恩地日出夫に師事し、1991年にオリジナルビデオ「突風!ミニパト隊」で監督デビュー。1995年の「新宿黒社会 チャイナ・マフィア戦争」で劇場公開映画の初監督を務め、以来ジャンルを問わず多種多様な作品を次々に手がける。ヴェネツィア国際映画祭、カンヌ国際映画祭、ローマ国際映画祭のコンペティション部門に監督作が出品されるなど、その手腕を評価する声は日本国内にとどまらない。2016年のゴールデンウイークには伊藤英明、山下智久らが出演する「テラフォーマーズ」、2017年には木村拓哉が主演を務める「無限の住人」が公開される。