コミックナタリー Power Push - 伊坂幸太郎 / 大須賀めぐみ「Waltz」
オリジナル原作×マンガの方程式
特徴を強調して、インパクトのあるキャラ作り
──今回、これまで描いたことのないキャラクターのイラスト化に挑戦していただきましたが、この3人を選んだ理由は。
「好きだから」という、本当に単純な理由なんです。城山は以前から描いてみたいと思っていたのでイラストが描けてうれしいですね。
──城山というキャラクターを気に入っているのはどうしてですか?
インパクトが強くて、こいつのやることは「わっ!」って思うんですよ。主人公の彼女に全裸でラッパを吹かせようとするなど、とにかく本当に意地が悪くて。悪いヤツって気になるんですよね。
──イラスト化に当たり意識したポイントなどあります?
城山のねっちょりとしたイヤらしさが好きなので、そのあたりを表情であらわそうと思いました。警官の制服や敬礼のポーズと表情のアンバランスさで、城山という人がどんな人か伝わったらいいなあ、と……。
──大須賀さんの脳内にできた城山像を、そのまま絵にしてみた?
うーん……ただ自分が感じたものをそのまま絵にしてもインパクトが足らないので、噛み砕いて描いてはいます。
──噛み砕くとはどういうことか、もう少し具体的に教えてもらえますか。
キャラクターの人となりが、服装や小物などからも伝わるようにアレンジを加えたりすることが、噛み砕くってことなのかな……。そこまで考えず、勢いだけでデザインしてしまったキャラもたくさんいますが(笑)。
──確かに、絵から性格の悪さがにじみ出てくるようです。
当然ですが小説って文章なので、画面の派手さはマンガよりかは求められないと思うんです。例えば平凡な見かけをした一般人が内面に恐ろしい性格を秘めていたりするほうが小説ではリアリティがある。でもマンガは一番最初に飛び込んでくる情報が絵なので、キャッチーじゃないと読んですらもらえないじゃないですか。「魔王」の初期は、今よりもキャラデザの大切さがわかっていなかったので、おとなしいデザインのキャラクターばかりになってしまって……。だから届いたサンデーをめくっていたときに、他の連載作品と比べて画面がすごく地味なんで焦りました。
──地味なキャラクターデザインから脱したきっかけってありました?
「Waltz」の主人公にもなっている殺し屋・蝉を出したことですかね。それまで地味なキャラクターばかりで画面がパッとしなかったので。少年マンガ的なキャラクターを登場させようと思って、蝉のファッションにパンクテイストを盛り込んだのが功を奏したのかな。
どんどん巨大化するウサミミと尻尾
──人となりが伝わるようアレンジを加え各要素を強調するとおっしゃってましたが、例えば蝉なら、どんな特徴を増幅させたりしました?
ウサミミフードですかね。当時の私はなぜか「パンクと言えば、耳付きフード?」という思い込みがあって、担当さんに「蝉にウサミミ付けていいですか!?」って提案したんです。直感で提案したので「なんでウサミミなの? 蝉だよ?」って疑問をぶつけられたんですけど……。まあ当然ですよね(笑)。
──耳付きフードと言ってもいろいろ種類がある中で、ウサミミをチョイスした理由は。
ネコミミっていう案も考えたんですけど、割と小さいからかぶってないとわからないんですよ。常にかぶらせておくわけにいかないし、それじゃあ特徴として弱いかなと。ウサミミだったら長さがあって、いつでもベロベロ垂らしておけるので目立ちますよね。
──なんか「Waltz」のエピソードが進むにつれ、ウサミミが長くなってきてるように感じたんですが……。
あ、気付きました? なびかせたほうがカッコいいかもーとか思ってるうち、どんどん伸びていってるんです。それにこのパーカー、実は尻尾も付いてて、それもどんどん大きくなってて……。
──え、この尻尾ってパーカーに付いてるんですか? ジーンズに付いてるものだとばかり。
そもそも尻尾があることは、担当さんも最初は気がつかなかったぐらいで。そっと付けたはずなんですけどね、いつのまにか大きく……(笑)。気持ちが前に出すぎてしまいました。
──同じように、興に乗ってしまったというようなエピソードは他にあります?
キャラが勝手に動きだすということはあります。「魔王」にスズメバチという女性の殺し屋が出てくるんですが、太ももの露出もアクションも多いのにパンチラが全くない。こんだけ動いて見えないってことは「パンツをはいてないからだな」「むしろ、パンツいらなくね?」と思い込んだり。
──少年誌での連載なのに過激な。
担当さんにもノーパンなんて設定は言ってなくて。どうしてもパンツが気になるシーンが出てきたとき「パンツどうなってるの?」と聞かれたので「パンツはいてないです」と……(笑)。
──特徴付けで、これは失敗したってエピソードはありますか。
失敗談というわけじゃないんですが、「Waltz」は「魔王」の4年前という設定ですよね。蝉のパートナーを務める岩西は「魔王」では40歳のオッサンという設定で描いていたんです。でも「Waltz」で36歳として描くことになったとき「あれ、担当さんと同い年?」とか「福山雅治はいくつだっけ?」というようなことが頭に浮かび、40歳っていうイメージを年上に考えすぎていたと気がつきまして。それから自分のオッサン像をアップデートして、少し絵柄を若返らせました。
──4年前という設定は、蝉にも影響してます?
蝉は外見よりも内面の変化が大きいですね。「魔王」ではプロの殺し屋という意識が強いけれど「Waltz」では、まだプロ意識が芽生えていない時期ということで。殺し屋という特殊な題材ではありますが、少年の成長を描くという真っ当な少年マンガ的テーマもあったりします。
あらすじ
街を彷徨う、名もなき、若き殺し屋。孤独な彼の前に現れた「岩西」と名乗る男は、彼を「蝉」と呼んだ。
今、最も注目される小説家、伊坂幸太郎の原作「魔王」を大胆にコミカライズした前作「魔王 JUVENILE REMIX」からさかのぼること数年前。あの人気キャラクター、蝉と岩西の出会いを描く、殺し屋たちの円舞曲!!
大須賀めぐみ(おおすがめぐみ)
12月21日生まれ。千葉県出身。2002年、少年サンデーR増刊(小学館)にて「トンパチ」でデビュー。2007年、週刊少年サンデー(小学館)にて伊坂幸太郎の小説「魔王」を少年向けにアレンジした「魔王 JUVENILE REMIX」で連載デビューした。