コミックナタリー Power Push - 伊坂幸太郎 / 大須賀めぐみ「Waltz」
オリジナル原作×マンガの方程式
相談の末、額に「肉」と書いた
──「Waltz」は書き下ろしのオリジナル原作付きですが、制作進行はどのように?
物語全体の骨組みに当たるプロットをいただいてるんですが、ここまでが1話分、みたいな細かい指示はないので、自由に進行させてもらってますね。描いたネームは毎回、伊坂先生にチェックしていただいてます。
──ネームに対するダメ出しなどは。
ほとんどありません。逆にこちらが迷ってる部分にアドバイスをいただいたり、作品が良くなるようこちらからご相談したりしているくらいで。
──具体的にアドバイスをもらって反映させた点とかあります?
「Waltz」第1話に出てきたヤクザたちの額には「肉」という文字が入ってるんですが、もともとは普通のヤクザだったんです。そうしたら伊坂先生から何か特徴をつけたほうがいいんじゃないかと提案を受けまして。敵は組織で動いてるということがわかるマークのようなものが必要ということで、担当さんとふたりで考えた案が「キン肉マン」の「肉」の字だったんです。
──特徴を強調するという得意技がここでも!
「キン肉マン」のアイデアを伊坂先生に試しに見せてみたら「面白いですね!」って言っていただいて。「じゃあデコに字があるから、デコーズって名づけましょうか」という提案を伊坂先生からもらい、ネームに組み込みました。
──伊坂先生はアドバイザー的な役割も果たしているんですね。
ええ。それに伊坂先生は、ネームを見てからの返事もすぐにいただけるんです。作中で名前と名言だけが登場するミュージシャン「ジャック・クリスピン」の言葉も伊坂先生に考えてもらってるんですが、あのクオリティをあの速さで考えてるのかと思うと本当にすごい。
──「ジャック・クリスピン」の台詞は原作からの引用だと思ってましたが、マンガ用の書き下ろしだったとは。
引用もしてたんですが、なにぶん岩西がことあるごとに「ジャック・クリスピン」を引き合いに出すので足りなくなってしまい。自分たちでも考えたんですがキレのある言葉が浮かばず、伊坂先生にお願いしたら一瞬で3パターンくらい送られてきて驚きます。
──さすが原作者、頼りになりますね!
「今回ちょっと良い引きが思いつかないんですけど、どうしたらいいでしょうか」とか、そんな相談もさせてもらってます。そんなこと言われても困りますよね(笑)。
マンガとして独立して面白い、それが理想のコミカライズ
──コミカライズの面白さってなんだと思います?
マンガならではの表現ができるところだと思います。私は伊坂先生のファンでもあるので、好きな作品をマンガにするという作業自体が役得です。
──逆にコミカライズならではの悩みなどは。
原作ファン一人ひとりの方の中にそれぞれのキャラクター像があるので、最初はアレンジを加えて、ファンの方から「違う」って言われることを恐れていました。担当さんでさえ、私とキャラの捉え方が微妙にずれてたりしますし。蝉はこういうことをしない! とか意見の食い違いはあります。
──みんなで同じビジョンを共有するというのは、難しそうですね。
そうですね。だから「原作に縛られるよりマンガとして独立した面白いものを作ってほしい」という伊坂先生の言葉にはとても勇気づけられました。
──マンガとして独立して読んでも面白いものを作る。コミカライズの真髄を聞いた気がします。
特徴を強調したり、派手な演出を考えたり。原作の筋を使いながら、マンガ家がオリジナルの要素を付け加え膨らませていく。伊坂先生の蝉と私の中の蝉は違うんだって思いながら今は描いてます。
──自分の中にキャラクターが住み着いて、動き出しているんですね。
動いて…………くれてるのかな(笑)。
大須賀めぐみ直筆イラストプレゼント!
このインタビューのために描き下ろしていただいた3枚のイラストを、それぞれ1名様にプレゼントいたします。希望する方は本文に氏名と連絡先メールアドレス、希望のキャラクター(「城山」か「佳代子」か「桜」)をご記入の上、「大須賀めぐみイラストプレゼント」という件名で comic_present@natasha.co.jp までメールを送信してください。
応募受付は2010年4月16日(金)必着(応募は1人1回のみ)。当選者にはこちらからメールでご連絡します。
あらすじ
街を彷徨う、名もなき、若き殺し屋。孤独な彼の前に現れた「岩西」と名乗る男は、彼を「蝉」と呼んだ。
今、最も注目される小説家、伊坂幸太郎の原作「魔王」を大胆にコミカライズした前作「魔王 JUVENILE REMIX」からさかのぼること数年前。あの人気キャラクター、蝉と岩西の出会いを描く、殺し屋たちの円舞曲!!
大須賀めぐみ(おおすがめぐみ)
12月21日生まれ。千葉県出身。2002年、少年サンデーR増刊(小学館)にて「トンパチ」でデビュー。2007年、週刊少年サンデー(小学館)にて伊坂幸太郎の小説「魔王」を少年向けにアレンジした「魔王 JUVENILE REMIX」で連載デビューした。