コミックナタリー PowerPush - るーみっくわーるど35~SHOW TIME & ALL STAR~

全作品のカラー画集&圧倒的データ量の大事典! 自宅訪問、35年の軌跡追うロングインタビュー

ラムは当初、1回限りのゲストキャラのつもりだった!?

──しかし、高橋先生のマンガには個性的なキャラクターが続々と登場してきますよね。

連載中、その場その場で考えるんです。予定にはなかったけど、ここで誰か新しいキャラクターが出たほうが面白いだろうと。じゃあ今までにないタイプを考えなきゃ……って、がんばって作り出す感じ。だからどのキャラにも愛着はありますけど、登場が少なくなってしまう人もいますね、どうしても。

──長くつきあえるキャラに共通項はありますか?

そこはやっぱり、ほかのキャラとの絡みがうまくいくってことです。それぞれに役割を持って生まれてくるんですが……相性はありますからね。うまく噛み合ったらそのキャラは長生きする。単純に設定がよくできてるとか個性が際立っているとかでは計れないんです。お話の中でどう作用し合うかは、出してみないとわからないものです。

──予想外に長生きしてしまったキャラクターは?

「SHOW TIME」に収録されている「うる星やつら」のカラーカット。ヒロイン・ラムは、当初1回限りのゲストキャラになる予定だった。

ラムがそうですね。ラムは当初、1回限りのゲストキャラのつもりだったんですよ。1話に出て、2話には出ていない。3話に出したのは、実は苦しまぎれ(笑)。

──ラムがメインキャラじゃなかったとは本当に驚きです!

「うる星」は当初5話短期連載の予定だったので、あたるが次々変な人に出会っていくオムニバスにするイメージで始めました。1話目はあたるとラムの話。その次は別の変な人、という具合にするつもりだったんです。それが、なんとなく3話目でもう一度ラムを出したら、世界観がまとまってきたので……。

──5話の予定が、人気が出て長期連載になってしまったわけですね。

そうです。でも、ラムだけのおかげで人気が出たかというと、そうとはいえないんじゃないかな。読者の方からのお手紙では意外に「あたるくんとしのぶちゃんはどうなるんですか?」というものが多かったし。

──ラム、あたる、しのぶの関係性があるからこそ、そこが気になるのでしょうね。

なるほど読者の人はそういうふうに読むんだ、と気づいたのは勉強になりました。

──「うる星」にしても「めぞん」にしても、誰と誰がくっつくのかヤキモキさせられますし、読み手によってひいきのキャラがさまざまだと思います。弁天をもっと出してほしいとか、五代くんとこずえちゃんをくっつけてほしいとか……そういうリクエストも多かったのでは。

はい、それはまたうれしかったですね。読者の方も、キャラに感情移入してくれているんだな、と。

──歴代のキャラで、特に思い入れが深いのは?

うーん、これ、答えられないんですよね……みんな好きで。この質問、いつも困ってしまいます。

──さきほど「キャラ単体よりも絡みが重要」とおっしゃっていました。そういう意味でうまくハマったと思うキャラは?

「うる星」の竜之介ですね。あと、「犬夜叉」の殺生丸とか……。登場したことで、どんどん話を動かしてくれたキャラだと思います。

高橋留美子

──現在、週刊少年サンデーで連載中の「境界のRINNE」の桜は、ヒロインとしては破格にクールでサバサバしていますよね。

正直なところ、桜は私にとってもまだ謎の部分はありますよ。何を考えてるのか、これからだんだんわかっていこうかなと思っています。

──話が進むにつれてキャラの内面や過去が小出しに開示されていくのは、読み手にとっても日常の人づきあいに近い感覚で読む楽しみがあります。

描きながら、なぜこの人はこういう性格になったんだろう、なぜこういう力があるんだろうと、理由を考えているときに、過去のエピソードが見つかっていくこともありますね。

つまらないと思ったら、ペン入れ中でも手が止まってしまう!

──少年誌と青年誌では、描き方は違うものですか?

「高橋留美子劇場」は、1987年から年1ペースでビッグコミックオリジナル(小学館)にて発表されている短編の総称。画像は2013年に執筆された「高橋留美子劇場」の最新作「私のスカイ」扉ページ。

あまり切り替えは意識していないです。青年誌ではビッグコミックオリジナルで年に1回、「高橋留美子劇場」を描かせていただいてますが、これに関しては担当さんと世相について語り合って、だんだん話を作っていくというやり方をしています。大人が読み手の日常劇なので、いま世間では何が起こっているか、どういう状況かを踏まえておかないと。でも、現実がつらいことはみんな知ってるんだから、やっぱり夢のあるファンタジーを描きたいということにはなりますね、日常が舞台でも。

──そこが、すべての作品に共通する核なのですね。では「うる星」と「めぞん」のように同時連載であっても、特に描く上でモードを切り替える必要はない?

タイプの違う作品を並行して描くことで、むしろうまく回ることもあります。「うる星」を描いている時は「めぞん」を描きたくなったり、その逆もあったりしましたよ。言ってみれば逃避ですね。逃避で別のマンガを描いてた(笑)。

──原稿を描くのがとても早いことで有名ですが。

18ページなら平均してネームに3日、ペン入れに2日ですね。

──ネームの前にシナリオやプロットを書かれたりは?

いえ、それはせずにいきなりコマ割りから始めます。なので、そこの段階で考えている時間が長いです。とにかくネームが大事ですから……。

──描き直すこともあるのでしょうか。

新連載を立ち上げるときは、かなり描き直しますよ。「うる星」スタートのときは7回くらい描き直しました。「らんま」もそのくらいやったかな。

──それは編集さんからのダメ出しで?

高橋留美子

自分でもダメ出ししますし、編集さんからということもあります。自分では行けるかなーと思っても、人が納得してくれないということはダメだと思うし。そのくらい厳しく見てもらわなければ面白くならないしね。つまらないネームのままOKが出てしまったとするでしょう? そうすると原稿にペン入れしてるときに絶対手が止まってしまうんです、本能的に。つまらないものは描きたくないはずなので。

──実際に手が止まったらどう対処するのですか。

そうなったらもうネームから描き直します。ペン入れの段階になって気づくこともあるんですよ、「そういえば(ネームチェックのとき)担当さんが浮かない顔をしてたな……」とか(笑)。でも、自分が読み返したくないマンガは描きたくないですからね……描き直すのは大変ですけど。

「るーみっくわーるど35~SHOW TIME&ALL STAR~」 / 2013年6月18日 / 9800円 / 小学館
>「るーみっくわーるど35~SHOW TIME&ALL STAR~」

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高橋留美子(たかはしるみこ)

高橋留美子

1957年10月10日新潟県生まれ。日本女子大学卒業。大学在学中の1978年に「勝手なやつら」で第2回小学館新人コミック大賞少年部門佳作を受賞し、同作が週刊少年サンデー(小学館)に掲載されデビューとなった。同年、同誌にて連載を開始した「うる星やつら」で、1981年に第26回小学館漫画賞、1987年には第18回星雲賞コミック部門を受賞。同作はテレビアニメ化もされ大ヒット、ヒロイン「ラムちゃん」は時代を超えて愛され続ける人気キャラクターとなった。また、劇場版となる「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」は押井守監督の出世作としても高い知名度を誇る。以降も「めぞん一刻」「らんま1/2」など歴史に残る人気作を数多く生み出し、代表作の殆どが映像化され、いずれも不動のヒットを記録している。2002年、「犬夜叉」にて第47回小学館漫画賞少年部門を受賞した。2009年より最新作「境界のRINNE」を執筆中。