ヨネダコウ、「アウトレイジ」の魅力を語る|刮目して見よ、男たちのナルシシズムの極北を!

オトコの嫉妬より怖いものはない

──矢代を巡った複雑な人間関係に加えて、ヤクザの世界ならではの関係性や駆け引きを独自の目線で描かれていますね。

「囀る鳥は羽ばたかない」1巻より。

表現できてるかはわかりませんが、わりと皮肉を込めて描いてます。ヤクザの世界もそうですが、男女の性とか性描写というものに対しても。攻である百目鬼がインポだったり、受である矢代がドMかと思いきやSだったり淫乱だったり、すべてに相反する矛盾した感情を持ってたり。あんまり言葉では表現しづらいところですけど。

──「囀る」1巻の「兄貴だの親父だのと、まるで仮性ホモの集まりだ」という矢代のモノローグにも象徴されると思うんですが、ヤクザ社会でもそれ以外でも、ホモフォビアを公言すればするほどホモっぽい感じが強くなっていく、という皮肉がありますよね。

確かに。矢代の敵役みたいなポジションで、平田というキャラがいるんですが、平田は同性愛者じゃないんですけど、描けば描くほどホモっぽくなってしまうんですよ。閉鎖的な男だけの世界で執着や執念や嫉妬を描くとそういうつもりじゃなくても、どうしてもそういうふうになりますよね。

──男の嫉妬を描けば描くほど、ホモっぽくなっていく。

なりますね。よく女の嫉妬は怖いって言いますけど、男の人の嫉妬のほうがすごいと思います。私、OLをしてた時期があるんですが、本社の部長とか、専務みたいな人たちってすごいんですよね……嫉妬で。みんな誰かを蹴落とそうと悪口ばっか言ってる。

──(笑)。

「アウトレイジ 最終章」より。

「アウトレイジ」でも「あいつら、口だけでのし上がってよ!」みたいなことを言う場面がありますけど、ホントに同じ。「なんであいつが俺より早く昇進すんだよ!」とか平気で言うんです。

──嫉妬渦巻く醜い世界を経験されているんですね。

組の定例会のシーンを観ていると、OL時代の会議を思い出しちゃって。懐かしいです。

本音と建前の狭間で戦う男たちの生き様を楽しんで

──ところで先日、福山雅治さんがラジオで「『囀る鳥は羽ばたかない』、素晴らしい名作ですよね」「これをどうやって実写化できるのかなと考えてたんだけど」など、「囀る」を絶賛されていらっしゃいましたね。

「囀る鳥は羽ばたかない」1巻

ありがたいですよね。まず、取り上げてもらえるということだけでもありがたいですし、福山さんが「囀る」を実写にしたい、実写化するなら……って、想像してくれたのもうれしかったです。私の福山さんのファーストインパクトは、中学生くらいのときに観た映画だったと思うんですけど、若い頃からカッコ良かった……というかエロかったんですよね、雰囲気が。あの頃の自分に言ってあげたいです、将来この人に褒めてもらえるよって(笑)。

──では最後に「アウトレイジ 最終章」のオススメのポイントを教えてください。

やっぱり見どころは、たたみかけてくるような暴力です。あとは、やっぱり極道としてのメンツを守るために必死になっている男たちの滑稽さです。ヤクザはヤクザとして生きるために、強い自分を演じていかなければならない。下の者たちへの示しもつかないから、ナメられないようにしていかなきゃいけない。お金がなくても出してカッコつけて。ほんとにカッコつけたがりの人たちが多いですよね(笑)。男が強くなければいけないっていうわりと古風な生き方だと思うんですけど。今時の若い人はきっと自然体で生きることを良しとしていて、ああいうふうに肩ひじ張って生きるのって、実際はすごく難しいと思うんです。でも、そこが自分の生きる場所になっちゃってるから、抜けられない。そういう世界でしか生きられない人たちなんだと思います。そういうところが哀しくもあり、滑稽であり、かわいらしくもあります。そんな、ナルシシズムとプライド、本音と建前の狭間で戦う男たちの一瞬のような生き様を楽しんでほしいです。あとは、まったく湿っぽい雰囲気にならないところが、観ていて逆にスカっとすると思います……と、まとめてみました(笑)。

──ありがとうございました。

「アウトレイジ 最終章」より。
「アウトレイジ 最終章」
2017年10月7日(土)全国ロードショー
「アウトレイジ 最終章」
ストーリー

元はヤクザの組長だった大友は、日本東西の二大勢力であった山王会と花菱会の巨大抗争のあと韓国に渡り、歓楽街を裏で仕切っていた。日本と韓国を股にかけるフィクサー張のもとで働き、部下の市川らとともに海辺で釣りをするなど、のんびりとした時を過ごしている大友。そんなある日、取引のため韓国に滞在していた花菱会の幹部・花田から、買った女が気に入らないとクレームが舞い込む。女を殴ったことで逆に大友から脅され大金を請求された花田は、事態を軽く見て側近たちに後始末を任せて帰国する。しかし花田の部下は金を払わず、大友が身を寄せる張会長のところの若い衆を殺害。激怒した大友は日本に戻ろうとするが、張の制止もあり、どうするか悩んでいた。一方、日本では過去の抗争で山王会を実質配下に収めた花菱会の中で権力闘争が密かに進行。前会長の娘婿で元証券マンの新会長・野村と、古参の幹部で若頭の西野が敵意を向け合い、それぞれに策略を巡らせていた。西野は張グループを敵に回した花田を利用し、覇権争いは張の襲撃にまで発展していく。危険が及ぶ張の身を案じた大友は、張への恩義に報いるため、そして山王会と花菱会の抗争の余波で殺された弟分・木村の仇を取るため日本に戻ることを決めるが……。

スタッフ

監督・脚本・編集:北野武
音楽:鈴木慶一

キャスト

大友:ビートたけし
西野:西田敏行
市川:大森南朋
花田:ピエール瀧
繁田:松重豊
野村:大杉漣
中田:塩見三省
李:白竜

白山:名高達男
五味:光石研
丸山:原田泰造
吉岡:池内博之
崔:津田寛治
張:金田時男
平山:中村育二
森島:岸部一徳

※「アウトレイジ 最終章」はR15+作品

ヨネダコウ「囀る鳥は羽ばたかない④」
発売中 / 大洋図書
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ヨネダコウ
ヨネダコウ
12月28日生まれ。2007年にデビュー。執筆作に「どうしても触れたくない」「囀る鳥は羽ばたかない」など多数。現在、ihr HertZ(大洋図書)にて「囀る鳥は羽ばたかない」、BE・BOY GOLD(リブレ)にて「レイニーデイズ、イエスタデイ」、イブニング(講談社)にて「Op -オプ- 夜明至の色のない日々」を連載中。「囀る鳥は羽ばたかない」5巻とファンブックが11月30日、「Op」1巻が2018年1月23日に発売。また画業10周年を迎え原画展などが催される。

2017年10月6日更新