コミックナタリー Power Push - なごみさん/クレムリン
話題のハートフルコメディを大解剖 脱力系猫マンガ「クレムリン」突如乱入!?
「まだ極悪さが足りない」って何度もダメ出しくらいました
──「なごみさん」の着想はどこから得られたんですか? 喫茶店を描こうというところから?
宮本 実は喫茶店ではなくて、猫なんです。私が猫を飼ってまして、担当の「宮本さんといえば猫だから、猫カフェとかどうだろう」っていうひと言がきっかけでした。でもそのときすでにモーニングには猫マンガがいくつもあったからか、編集長に「猫を前面に出すな」って止められて(笑)。それで猫は単なるオプションになり、カフェ、というか喫茶店がメインに。
──猫カフェという言葉には可愛らしいイメージがありますが、どうしてそこからなごみさんみたいな悪人面のマスターが主人公に。
宮本 「拝み屋横丁顛末記」「この度は御愁傷様です」とこれまでは特に主人公が決まっていない群像劇ばかり描いてきたので、「なごみさん」は主人公が活躍する作品にしよう、アクの強いキャラクターをしっかり描こう、というコンセプトがあったんです。だからインパクトを持たせようと、なごみのキャラクター作りにはとにかく四苦八苦。極悪な見た目のマスターが思うように動くようになるまで、ずっと迷走してましたね。
──迷走というと?
宮本 ストーリーをどういう方向に持っていくべきかを決めあぐねてたんです。3話目くらいまでネームもぜんぜん上げられなくて、担当からの電話に一時期居留守使ってました(笑)。でも4話目で友達が欲しくて健気に碁会所に通うなごみを描いていて「あ、これは“悪人顔のなごみが必死に頑張って、結果空回るところが面白い話”なんだ!」っていう方向性がようやく見えてきたような気がします。
──その面白さを生みだす源泉となっているインパクトたっぷりのなごみさんの外見は、どんな経緯で生まれたんでしょうか。
宮本 怖い顔を創りあげるのが本当に難しくて、描いても描いても担当に「まだ極悪さが足りない」ってダメ出しくらいました。アイデアに詰まったらネットで「強面」って検索してあらゆるパターンの強面の資料集めたりして(笑)、試行錯誤の末にようやくできたのがいまのなごみです。いま見ると、いちばん最初の案は眉毛も目つきも普通のおじさんですね。
──誰かモデルになった方はいますか?
宮本 特にはいないんですが、強いて言えば若山富三郎と勝新太郎の兄弟です。目尻まで連なる長い眉毛は、彼らから拝借しました。あ、あとは仁王像(笑)。
──なごみさんもそうですが、先生の作品は元気で無邪気な中高年を主要キャラに据えた作品が多いですよね。大勢人が出てきても、個性豊かに描き分けるその手腕には毎度うならされます。
宮本 逆に私は若者の顔のほうがみんな一緒に見えて見分けがつかなくて、描き分けが難しいんですよ。アイドルグループもセンターの人を判別するのが精一杯って感じで(笑)。中高年になると顔ができてくるからシワの入り方とかで見分けられるし、深みの増したいい顔になるじゃないですか。たとえばショーン・コネリーも若い頃のギトギトした感じより、脂が抜けたいまの方が好きなんです。
──中高年を描きたい理由やこだわりが、何かあるんでしょうか?
宮本 いえいえ(笑)、本当にどの作品でもよく中高年や老人が登場するんですが、特にこだわってるわけではないんです。自分の身近なところに老齢の方がいるわけでもないんですよね。
──あれ、なんだか変な猫たちがいますよ。 そういえば1ページ目にもこっそり登場してたような。なんなんでしょうかこの子たちは。
担当編集 あ……。実は「なごみさん」と同日に単行本1巻が発売された「クレムリン」っていう作品のキャラで、関羽っていう猫たちなんですが、どこからか紛れこんじゃったみたいですね。
関羽×3 僕らもインタビューに参加させてほしいのニャ。
担当編集 ……すみません同席させてもいいでしょうか? 実は編集長もイチオシの作品でして……。
──うーん、そこまでおっしゃるならいいんじゃないでしょうか。ではとりあえず「クレムリン」の作品紹介をお願いします。
「クレムリン」とは?
MANGA OPENで落選するもモーニング・ツー編集長が強権を発動し、新人にもかかわらず巻頭カラーで突然連載を開始。さらには追ってモーニングでも連載開始と、驚きのスピードでの出世を果たした異色作。
却津山春雄(きゃっつやまはるお)は道ばたに捨てられていた3匹のロシアンブルーを拾い、彼らをまとめて関羽と名付ける。家事能力が異様に高い関羽たちと無気力な若者の、どこか噛み合わない同居生活。モーニング期待のダークホースがつづる、もうひとつのハートフルコメディ(?)。
関羽×3 というわけで僕たちは3匹と1人で暮らしてるニャ。この家の猫はどんな猫なんだニャ?
「なごみさん」あらすじ
顔は怖いが、名前は和(なごみ)。そんな男がさびれたシャッター通り商店街に喫茶店を開いた。店の名前は「極道珈琲店」。第2の人生の舞台は整った!和の自由な行動が、娘に迷惑をかけつつも商店街を和ませる!
宮本福助(みやもとふくすけ)
高校時代から同人誌活動を開始、卒業後就職するが3年で退職。マンガ制作とバイトに勤しむこと数年、1999年に100回スピリッツ賞に入選しデビュー。代表作に「この度は御愁傷様です」、月刊コミックZERO-SUM(一迅社)にて連載中の「拝み屋横丁顛末記」など。
「クレムリン」あらすじ
大学生という名の無職・却津山春雄は、道ばたに捨てられていた三匹のロシアンブルーを一冬黙殺。厳しい冬を見事生き抜いた彼らをまとめて関羽と名付け、家賃滞納のアパートで同居が始まった。人智を超えた家事能力を持つ関羽たちに半ば養われる却津山に、人としての誇りはあるのか。ワープアの辛酸を嘗め続ける作者が、労働の尊さ、厳しさ、虚しさに万感の想いを込めて放つ、猫漫画界初のプロレタリアートニャン画のまあ決定版。
カレー沢薫(かれーざわかおる)
動物界脊索動物門脊椎動物亜門哺乳綱霊長目真猿亜目狭鼻下目ヒト上科ヒト科ヒト属。第26回MANGA OPENに「無題」で応募。部内選考であえなく落選。現モーニング編集長と編集部某の判断ミスにより、なぜか異例の連載決定。タイトルを「クレムリン」、筆名を「カレー沢薫」と定め、今日に至る。好きなものは猫&世界が滅亡するとかのパニック映画、そして故・森繁久彌。