コミックナタリー Power Push - 聖モエスの方舟 / 榎本ナリコ

地球の命運賭け少女は宇宙へ ヤマトに捧ぐスペースオペラ劇

キャラクターマンガという新境地

──積み重ねといえば、「モエス」に登場するキャラクターは、アニメを見慣れた世代にはある意味類型的な、なじみやすい設定ですね。一方ですごく作り込んである。

小室 そもそもスピンオフとして「モエス」を描いてほしいと思ったのは、「世界制服」で「モエス」の少女たちが出てくる回が異常に作り込んであったからなんです。たった1度出てくるだけのキャラクターなのに、ご自身のホームページで詳細な設定まで公開していて、「なんだ、榎本さんはこれが描きたいのか」と。

榎本 や、そういうつもりはなかったんですけど。

小室 それぞれの持つアイテム、服装、髪の色、出身地、身長、体重まで、とにかく細かく決められていて。

榎本 私、これまでずっと、どこにでもいる人たちの、どこにでもあるお話を読み切りで続けてきた人間なんです。「センチメントの季節」の時も、キャラクター作りが苦手だったことを逆手に取って、どこにでもいる女の子、どこにでもいるおじさんを描いてきた。だからまさか、こういうキャラクターマンガを自分が描けるとは思ってもみなかったです。

小室 でもすごく楽しんで描いてるように見えますよ。愛が溢れていて。

キャラクター永麗

榎本 楽しいんですが、ちょっとやりすぎたかなと……。永麗という、体に縫い目があって、左半身の肌が青い子がいるんです。もちろんモデルは「ブラック・ジャック」です(笑)。その子の青い肌のトーンを、私、ことごとく貼り忘れるんです。それをいちいち担当さんにチェックされて……。あと「肩当て抜けてます」とか「後ろのリボンの上に乗ってるMの紋章がありません」とか、自分で決めた設定ながら「細けーな」って(笑)。もちろんチェックしてくれるのはありがたいんですけど。

──担当さんとはキャラ設定や世界観を共有してるんですか?

榎本 はい、キャラクター設定や関係相関図を描いてお渡ししてあります。話に出てこないところまで考えてありますよ。話がうまく転がらず、描きたくても描けなかった部分があるので。例えば、3人いる男性教官のうち2人は大学の時に同級生だった、とか。

小室 大事ですよね! そういう裏設定萌えるわー。

榎本 プロットの段階では描く予定だったんですけど、ネームに起こしてみたら「ダメだ! ページ的に入らない!」って。まあキャラクターの過去話や深い話はいずれ描きたいと思ってます。みんなそれぞれ考えてあるので……、いま描きたいのは腐女子でメガネっ子の友絵ちゃんのお話かな。

「バカとでっかち」という関係性に萌える

小室 友絵ちゃん、最初は親友なのにモエナちゃんを馬鹿にしてましたけど、最近ちょっと変わりはじめてますよね。

榎本 モエナと友絵の関係は、「バカとでっかち(頭でっかち)」っていう、私の萌えポイントなんです。私にはバカ幻想というか、バカに対する憧れがあって。おバカな子って感覚だけで真実を掴みとる力を持っているんじゃないか、いわゆる頭の良い子にはない天才的な部分があるんじゃないか、という。「センチメントの季節」や「歌集」という作品集でも「バカとでっかち」の友情物語はたくさん描いてきました。

小室 友絵ちゃんとモエナちゃんの関係も「バカとでっかち」に当てはまりますね。

インタビュー写真

榎本 「ヤマト」で例えるならば、島君と古代君の関係が近いですよね。島君はクールで、古代君は熱血バカ。ごめんなさいね、小室さんの古代君をバカって言って。

小室 いいんですよ、別にいいんです……。

榎本 いやほら、でもバカのパワーは必要なんですよ。島君ではダメなときもあるんです。彼は失敗を恐れちゃうところがあるし。

小室 島君は余裕がないからなあ。

榎本 あ、そういえば古代君と島君のイメージカラーは赤と緑。モエナも赤で、友絵も緑!

小室 うまい具合にイメージカラーもつながりましたね。

「聖モエスの方舟」(2) / サンデーGXコミックス / 2010年11月19日発売予定 / 定価560円(税込) / 小学館

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あらすじ

謎の流星群により、男子の出生率が極端に低下して約60年───普通の少女・モエナは、何故か名門の「聖モエス学園」に入学するが、学園はなんと士官養成のための宇宙戦艦だった!

そして初めての宇宙空間での実習中、モエナたちは謎の“敵”により奇襲される。モエムは独断で迎撃に向かうがミスを犯し、モエムに続いた永麗(エイレイ)が危機に陥る。そして永麗の親友・燃世(モエヨ)は、身を挺して永麗をかばい、戦死してしまい……!!

榎本ナリコ(えのもとなりこ)

榎本ナリコ

11月5日生まれ。1997年に週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)にて「センチメントの季節」でデビュー。同作は繊細な絵柄と思春期を迎えた少女たちの揺れる心理を巧みに描き出してヒットを記録する。他の代表作に「聖モエスの方舟」「世界制服」「リボン—RE-BORN—」「歌集」「こころ」(いずれも小学館)や、「ふしぎなジジ・ガール」(一迅社)、「時間の歩き方」(朝日新聞出版社)などを持つ。また別名義に野火ノビタを持ち、同名義で発表した「大人は判ってくれない 野火ノビタ批評集成」(日本評論社)は第3回Sense of Gender賞において特別賞を受賞した。