コミックナタリー Power Push - 聖モエスの方舟 / 榎本ナリコ
地球の命運賭け少女は宇宙へ ヤマトに捧ぐスペースオペラ劇
デスラー好きに恥じない宇宙人を描きたい
──1巻ではドタバタギャグが中心だった「モエス」も、2巻以降は友情や絆といった深い内容が増えてきますよね。
榎本 はい。「少年少女たちが戦艦で宇宙人と戦う」というのを縦軸に、横軸として、男とか女とか命といったものの悲しさ、切なさ、不思議さを描きたいと思ってます。人類を物理的に殺すというやり方ではなく、女の子しか生まれてこなくなるというDNAや遺伝子レベルで攻撃してくる敵に対して、人類がもはや少年少女たちを武器にして戦いにいくしかないという苦しさや悩み。それに付随してキャラクターたちの人間関係やそれぞれの思惑、人生、そういうのが描けたらなあと。
小室 では敵である宇宙人たちとの戦いが、今後の展開のポイントとなってくるわけですね。
──「ヤマト」のデスラーが敵キャラの概念を覆したと熱く語る、榎本さんが描く敵……。気になりますね。
榎本 宇宙人に関しては、いま言っちゃうとバレてしまうんで詳しくは言えない……。ただ、やっぱり悪者として登場させるわけじゃなく宇宙人には宇宙人の、地球人とは違う形の悲しみや切なさ、地球人と地球外生物の、形式の違う命のあり方を描きたいと思っています。
小室 ちなみにデスラーみたいな敵は出てくるんですか? デスラー出ないのかなあと、ずーっとワクワクしてるんですけど。
榎本 出したいとは思ってるんですけど……。総統に負けないような、素晴らしい宇宙人を描きたいですね。
小室 あとはモエナちゃんたちがどうなっていくのかも気になりますね。モエナちゃんは、たびたび見せる覚醒フラグが熱い。
榎本 覚醒は、させるつもりですよ……。今はまだ、ただのバカな女子高生ですけど。ちなみに1巻表紙の、武器を持ってるモエナは覚醒状態のイメージです。
小室 おお、剣が使えるようになるんですねー。
榎本 そういう設定だけは決まってます。あと周りの人たちにもいろいろな事情があるので、それぞれのキャラクターを少しずつ描いていきたいなと。ただ10人も少年少女を出しちゃって、自分でも「どうなっちゃうの、制御できるの」って感じでドキドキしてます(笑)。
小室 何巻で終わるのか、見通しは……。
榎本 全然立ちませんな。最初は4巻くらいって思ってたんですが、ちょっと難しそうですね。ずっと読み切り作家で来ちゃったもので、続きものの話で2巻以上描くって初めてで、すでに私のマンガ人生でいちばん長い話になってる。でも、まだ話は序盤戦なので、この先さらにがんばっていきたいと思ってるんです。主に、自分が原稿を落としたりしないように……。
小室 原稿、落とすなよ。
榎本 いきなり編集長っぽいモードに!
小室 12月には実写版「ヤマト」の劇場公開も控えてるんだから、きびきび原稿上げて一緒に初日行きましょうよ。
榎本 早く、早く原稿上げますよ! 今月だけは。
小室 「ヤマト」のこととなると、がんばれるんだから。
あらすじ
謎の流星群により、男子の出生率が極端に低下して約60年───普通の少女・モエナは、何故か名門の「聖モエス学園」に入学するが、学園はなんと士官養成のための宇宙戦艦だった!
そして初めての宇宙空間での実習中、モエナたちは謎の“敵”により奇襲される。モエムは独断で迎撃に向かうがミスを犯し、モエムに続いた永麗(エイレイ)が危機に陥る。そして永麗の親友・燃世(モエヨ)は、身を挺して永麗をかばい、戦死してしまい……!!
榎本ナリコ(えのもとなりこ)
11月5日生まれ。1997年に週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)にて「センチメントの季節」でデビュー。同作は繊細な絵柄と思春期を迎えた少女たちの揺れる心理を巧みに描き出してヒットを記録する。他の代表作に「聖モエスの方舟」「世界制服」「リボン—RE-BORN—」「歌集」「こころ」(いずれも小学館)や、「ふしぎなジジ・ガール」(一迅社)、「時間の歩き方」(朝日新聞出版社)などを持つ。また別名義に野火ノビタを持ち、同名義で発表した「大人は判ってくれない 野火ノビタ批評集成」(日本評論社)は第3回Sense of Gender賞において特別賞を受賞した。