コミックナタリー Power Push - 花もて語れ
心揺さぶる「朗読マンガ」誕生! 声の世界を写し取る技法に迫る
内容に自分の体験がシンクロしたときを表現したい
──いま見せていただいたシーンはどちらも、現実世界の背景に、朗読の情景が組み込まれているというものでした。ところが、読んでいて気づいたんですが、片山さんはもっと複雑なことを描いてらっしゃいますよね。
え、どういうことですか?
──たとえばこのページですけど、上半分の3コマは薄墨で描かれた「朗読世界」、4コマ目には「現実世界」の聴き手、そのあと2コマは、朗読を聞いているうちに思い出された「聴き手の脳内世界」です。3つのパラレルワールドをマンガで描いている。
そうですね。この作品は「小説」のマンガ化じゃなくて、あくまで「朗読」のマンガ化。朗読は聴き手がいて初めて成り立つものなので、感情移入ってとこまでマンガにしたいんです。聴いてる人がいる以上、聴いてる人なりのドラマがどうしてもあるだろうし。
──このページの原稿用紙、すごいことになってますね。上半分真っ白じゃないですか。
枠線しかないとか、未完成にもほどがありますもんね。出版社に置いてあったら、なぜここに未完成原稿があるんだろうって、不思議がられるでしょう(笑)。ここは1コマにつき1枚、薄墨の原稿があるので、部品の状態で並べるとこんな感じですね(ベッドの上に原稿を並べていく)。
──片山さん、とんでもない扉を開けてしまいましたね(笑)。
本を読みながらちょっと自分の悲しい出来事とか反芻するようなことってありますよね。本の内容だけじゃなく自分の体験を重ねるような。あのシンクロしたときの表現を実験してるんですよ。このあと2巻では、朗読作品の中に入っていったり、朗読世界の中で会話したりとか、そんなアイデアも薄墨で試しています。
──朗読というと、声を出して読み聞かせるくらいにしか考えていなかったんですが、ここまでマンガに落とし込めるものかと、驚いています。
驚いているといえば、このマンガ、あとで読み返してみたら主人公も周囲のキャラもびっくりした顔ばかりしてるんですよ(笑)。それはまさに、朗読原案の東先生のご自宅に行って説明を伺うと、毎回びっくりして帰ってくる僕の驚きでもあるんです。
──言われてみるとそうですね!
なので僕はほんと絵の素養もなくて、技術もないのですが、朗読のすごさというのをなんとかマンガとして表現できれば最高ですね。そのために薄墨とかも試していますので、ぜひ読んでいただいて、朗読というものの魅力、すごさを感じていただけたらほんと、非常に嬉しいなと。
作品紹介
7歳の佐倉ハナは、引っ込み思案で声が出ず、空を眺めては空想ばかりしている少女。ある日、学芸会のナレーション役を任されて臆するハナに、朗読をやっているという教育実習生は言うのだった。「きっと伝わる。伝えたい気持ちがあれば」
朗読という題材を通じて描かれるのは、「想いを伝えること」「想いが伝わること」の感動。
やがて22歳になった佐倉ハナが、社会人になって再び朗読の魅力と出会う、癒やし系で熱血な物語。
片山ユキヲ(かたやまゆきを)
5月1日、神戸生まれ。「うしおととら」「からくりサーカス」の藤田和日郎のもとで、アシスタント生活を経て独立。2007年9月から2009年3月まで、月刊少年シリウス(講談社)誌上で「空色動画」を連載。アニメ制作を題材に女子高生3人の友情を描き、話題になる。2010年4月より月刊!スピリッツ(小学館)誌上で「花もて語れ」を連載開始し、現在も連載中。好きな小説家は宮沢賢治、泉鏡花、江戸川乱歩、夢野久作。
朗読協力・朗読原案
東百道(ひがしももじ)
著書は「朗読の理論」(木鶏社)。「花もて語れ」では朗読の理論面で協力し、「やまなし」以降の朗読原案を提供。