コミックナタリー Power Push - 電撃大王ジェネシス

電撃大王がオリジナル作品を追求すると? 看板作品「やさしいセカイのつくりかた」の魅力に迫る

ジェネシスは新しいものをゼロから創りだす雑誌

──まずは電撃大王ジェネシス、1周年おめでとうございます。「オリジナル作品オンリー」をコンセプトに掲げていますが、そもそもどういう思いからスタートさせた雑誌なんでしょうか。

高島 昔の電撃大王はマニア誌の先鞭としてコミカライズと濃い作家さんのオリジナルがちょうどいいバランスで入っていたんですが、類似誌が増えてきたこともありコミカライズのバランスが強くなってきていました。そこで電撃大王編集部に入ったとき、コンテンツを育てるために何かできることはないかと編集長と相談して、オリジナル作品だけの雑誌を作ることになりました。

──編集部内では、最初から応援ムードだったんですか?

インタビュー写真

高島 ちょうど電撃大王が創刊15周年で編集部としては新しいことがやりたかったし、角川書店さんでいうところの「ケロロ軍曹」のような、10年単位で愛されるキャラクターを育てようという気持ちがあって、追い風が吹いてましたね。

──「ジェネシス」という言葉は「創世」という意味ですよね。誌名にも、新しいことをやろうという気概が充満しているように感じていました。

高島 そうですね。これまで増刊だと「電撃帝王」とか電撃大王に似た名前を付けるのが主流だったので、当初この誌名はわかりづらいかもと編集長に少しだけ難色を示されたんです。でも何もないところから創るというコンセプトにはこだわっていたので、無理を言って通させてもらいました。あとピーター・ガブリエルやフィル・コリンズが在籍したバンド「GENESIS」にもこっそりちなんでいて、あのバンドのようにプログレッシブかつポップなんだけどそれでいて王道なものも発信していきたい、っていう思いも込めています。

電撃大王GENESIS 2010 AUTUMNまでの表紙

──最新号である5号目からはロゴが横文字の「GENESIS」から「電撃大王ジェネシス」に変身、デザインも賑やかな電撃大王ファミリーらしいものにリニューアルしましたよね。これはどういう意図からなのでしょう。正直とても驚きました。

高島 4号目までの表紙のテイストは僕も好きだったので正直名残惜しいんですが、情報量が少なめの少し玄人好みな方向に寄りすぎてしまっていた。そして何よりこれは増刊なので、電撃大王ではできない実験場として機能し、フィードバックをする役割は果たさなければならない。雰囲気を電撃大王に近づけたのはそうした理由からです。ただ、もともと立ち上げ時からこの方向性は予定していたんですよ。オリジナルオンリーの雑誌で創刊号から作品のキャラを表紙に出しても知らない作品ばかりですから、読者的には引きが弱い。作品やキャラクターがある程度立ってくる、単行本が出るタイミングでシフトさせることも考えていました。

目指すは作家の素材の良さを活かす、お寿司屋さんの職人

──コンセプトのひとつである「実験場として機能して電撃大王にフィードバックする」とはどういうことか、もう少し具体的に教えていただけますか。

2010年12月に創刊された電子コミック雑誌「電撃コミックジャパン」。

高島 例えば創刊号から続けてきた、WEBでの無料公開でしょうか。「電撃コミックジャパン」という電子コミック雑誌が昨年12月に創刊したのですが、ジェネシスで電子書籍に関する実証をすることで、その創刊を陰ながら後押しできたかなと思っています。

──WEBでの無料公開といえば、1号目では発売したわずか10日後に680ページ分を公開して、太っ腹だなと驚きました。雑誌の販売数が落ちるという危惧はなかったのでしょうか。

高島 大ボリュームですが全作品ではありませんし、そこはあまり気にしなかったですね。むしろ、紙媒体にこだわらず、より多くの方に読んでもらいたかったですし。今後も電子書籍には電撃大王より積極的に取り組みたいと思っています。ただ棲み分けをきちんとしたいので、雑誌には毎号付加価値として付録を付けていこうと。4月に発売される次号では、新人作家の読み切りを集めた小冊子を付ける予定です。電撃大王だとキャラクターにちなんだ付録じゃないと難しいんですけど、ジェネシスではもう少し作品そのもの、ひいては作家をフィーチャーしたものにしていくつもりです。

──もう少し、電撃大王とジェネシスの相違点があれば教えていただけますか。

高島 作品を作る上で市場のニーズと作家さんの想い、どちらに寄せていくかが大きく違うと思います。電撃大王は長く続いているので雑誌の色も強くありますし、どちらかというと読者から求められるものを重視する傾向がある。反対にジェネシスは、作家さんが描きたいものをどうパッケージしていくかに比重を置いていくのが基本姿勢ですね。ジェネシスで編集をやる際には、いわばお寿司屋さんの職人になりたいと思ってるんです。味付けに凝るのではなく、作家という素材そのものの良さを活かして、いちばん美味しいところをお客さんに提供していきたい。

──なるほど。創刊されたときからなんとなく、この雑誌は電撃レーベルが掲げる作家主義の旗印なのかなと感じていたんです。Fellows!(エンターブレイン)や楽園 Le Paradis [ル パラディ](白泉社)に代表される流れに対する、メディアワークスなりのアンサーなのかな、と。

高島 Fellows!や楽園の存在がなかったらここまで踏み込めなかっただろうな、とは確かに思います。雑誌には作家を育成して世に出す役割が当然ながらあるし、成長曲線を描くためには、プロパーの作家さんが育ち人気を集めることが必要不可欠。そこをジェネシスではなるべく負っていきたい。今回看板作品の1つとしてピックアップした「やさしいセカイのつくりかた」の竹葉さんも、これがデビュー作となる新人なんです。

電撃大王ジェネシス 2011 Vol.1 / 2011年1月19日発売 / 定価:500円(税込) / 発行:アスキー・メディアワークス / 発売:角川グループパブリッシング

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電撃大王ジェネシス2011 Vol.1 ラインナップ

カネコマサル「百花のしるし」 /竹葉久美子「やさしいセカイのつくりかた」/森山大輔「妄想奇行 ~アドレッセンス・アバター~」/原作:流圭、作画:ほた。「夢のクロエ」/こがわみさき「空声」/FLIPFLOPs「スズログ」/鈴見敦、ストーリー監修:田中ロミオ「うるわし怪盗アリス」/前嶋重機「デュランダルー不朽の刃ー」/いわさきまさかず「あしたの今日子さん」/犬上すくね「あかとき星レジデンス」/原作:あかほりさとる、作画:桂遊生丸「ラブアレルゲン」/真田鈴「それが彼女のセイギなら」/MATSUDA98、原作:太田顕喜「キャラメル☆スター」/堤利一郎「ゴッドシーカー」/深山和香「かのこ模様」/茜虎徹「緋色のマリオネッタ」/大月悠祐子「妄想少年観測少女」/椎名優「Monochrome Myst」/水上カオリ「空想画廊」/大沖「わくわくろっこモーション」/原作:築地俊彦、作画:鶯神楽「トカレフの危うい城」/松沢まり「動研。 ~菜ノ花高校動画研究部~」/稲井稲井「スキマノスキマ」/榎宮祐「エアリセ∞」/介錯「ユメキ」/ともぞ「時の消失請負人」

やさしいセカイのつくりかた(1) / 2011年1月27日発売 / 定価:599円(税込) / 電撃コミックス

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「やさしいセカイのつくりかた」あらすじ

19歳にしてアメリカの大学院で研究している天才学者・朝永悠。ある日、彼の研究は、資金難から打ち切られてしまう。失意のまま帰国した悠を待っていたのは非常勤の「女子高講師」のポスト。悠が担当するクラスには、飛びぬけた数学の才能を持ちながらそれをひた隠しにする少女・武藤葵と、ファッション誌の読者モデルをしていた気が強い問題児・草壁ハルカがいた。突如始まった慣れない講師生活は、そんなふたりをはじめとする生徒たちに振り回される毎日で……。

竹葉久美子(たけばくみこ)

竹葉久美子

2010年、電撃大王GENESIS 2010 WINTER(アスキー・メディアワークス)掲載の「やさしいセカイのつくりかた」にてデビュー。不定期で月刊コミック電撃大王(アスキー・メディアワークス)にて番外編を発表しながら、電撃大王ジェネシスにて同作を連載中。