コミックナタリー Power Push - 「ファイアパンチ」藤本タツキインタビュー
着想は「アンパンマン」? 「売れるマンガ」を描く戦略とは
少年ジャンプ+にて連載されている藤本タツキ「ファイアパンチ」は、祝福者と呼ばれる能力者が存在する世界を舞台にしたダークファンタジー。同作はグロテスクな描写や凄惨なストーリー展開で、連載開始後、瞬く間にWeb上で話題を集めた。
コミックナタリーでは1巻の発売に合わせ藤本にインタビューを実施。物語の着想は「アンパンマン」にあったという作品の裏話や、インタビュー中に藤本がこぼした「戦略的にマンガを描く」との言葉の真意に迫った。
取材・文・撮影 / 宮津友徳
- あらすじ
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炎を発生させたり、無から鉄を生成したりと、生まれながらにして特異な能力を有する人間・祝福者。彼らが住む世界は「氷の魔女」と呼ばれる祝福者の出現により、雪に覆われ飢餓に悩まされていた。
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老人ばかりが暮らす村に住む、アグニとルナの兄妹は、体が再生するという祝福者の能力を利用し、人々に自らの体を食料として分け与えていた。
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そんなある日、村を訪れた王国軍の兵士・ドマは、人肉を食らう村の住人を忌み、祝福者の能力を使い、村を住人ごと焼きつくしてしまう。再生の祝福能力によって自身だけが生き延びたアグニは、ドマに復讐することを誓う。
- キャラクター
アグニ
再生の能力を持つ祝福者。ドマに村の住人を焼きつくされたことから、彼への復讐を誓う。
ドマ
「氷の魔女」を倒さんとする王国・ベヘムドルクの兵士で、対象物が焼け朽ちるまで消えないという炎を使う祝福者。
サン
ベヘムドルクへと向かう道中でアグニが救った子供。アグニのことを「神様」と呼び、彼を慕う。
売れるマンガを戦略的に描く
──1巻の発売、おめでとうございます!「ファイアパンチ」は連載開始時からWeb上で話題になり、現在も最新話が公開されるとTwitterでトレンドに上がってくることがありますが、ここまでの反響は予想していましたか?
正直全然思っていなかったです。もともとジャンプスクエアで連載会議に出してみて「ダメだ」って言われていた作品で、ジャンプ+での連載が決まってからも、担当さんと「どうやれば読んでもらえるかな」ってずっと話していたくらいなので。だからここまで話題にしていただけてありがたいですね。
──反響を受けてプレッシャーはありましたか?
なかったですね。ただ僕は自分の画力について「こんな絵でいいのかな」って常に悩んでいて。話題になったおかげで見てもらえる機会が増えたので、みんなにウケるような絵をうまく描かなきゃな、とは思っています。もし絵の部分で引っかかって、離脱してしまう人が増えたらもったいないなと。
──そもそも「ファイアパンチ」は、どういった着想からスタートしたのでしょう。
「アンパンマン」からヒントを得ました。こんなことを僕のようなペーペーが言うと、偉ぶっている感じになってしまうかもしれないんですが(笑)、売れるマンガを描きたいと思っていたんです。ただ僕は放っておくと感覚的に物語を作ってしまうので、「戦略的に描いてみよう」と、いろいろな作品を研究してみて。その中で今も長く愛されている作品って、「ドラえもん」「サザエさん」「アンパンマン」かなって思ったんです。その中でも「アンパンマン」は海外では奇抜だって言われているらしくて。
──どういったところが?
自分の顔を分け与えて食べさせる部分が、あまり海外にはない発想みたいで。その話が面白くて、「アンパンマン」を軸に話を作ってみようと思ったんです。そこから飢餓にあえぐ村で、自分の肉を村人に分け与えるっていう設定が生まれて。あとアンパンマンの必殺技がアンパンチなので、そこからファイアパンチっていう言葉が出てきました。で、ファイアパンチっていうくらいだから、寒い世界にしたほうが、炎が目立つだろうと思って。
──ファイアパンチという言葉は、そのままタイトルにも使用されていますね。最初に予告でタイトルだけを目にした際は、「ヒーローものなのかな」と思っていました。
ちょっと印象が違いますよね。ただ今後の話の中でも、ファイアパンチは重要なワードになってくるので、僕と担当さんの中ではほぼ異論なく「『ファイアパンチ』でいこう」という話になっていました。あと主人公のアグニは、アンパンマンの頭文字「ア」から考えたんです。ちなみにドマはドラえもんの「ド」、サンは「サザエさん」の「サ」からです(笑)。
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- 藤本タツキ「ファイアパンチ(1)」
- 藤本タツキ「ファイアパンチ(1)」
- 2016年7月4日発売 / 集英社 / 432円
- 2016年7月18日発売 / 集英社 / Kindle版 / 400円
「氷の魔女」によって世界は雪と飢餓と狂気に覆われ、凍えた民は炎を求めた。再生能力の祝福を持つ少年アグニと妹のルナ、身寄りのない兄妹を待ち受ける非情な運命とは…!? 衝撃のダークファンタジー、開幕!!
藤本タツキ(フジモトタツキ)
秋田県出身。第9回クラウン新人漫画賞にて、「恋は盲目」で佳作を受賞。同作が2014年に、ジャンプSQ.19 Vol.13(集英社)に掲載されデビューを果たす。その後ジャンプスクエア(集英社)、ジャンプSQ.19で「シカク」「予言のナユタ」「人魚ラプソディ」などの読み切りを発表し、2016年4月より「ファイアパンチ」を少年ジャンプ+にて連載。同作は連載開始直後からWeb上で話題を集めている。
©藤本タツキ/集英社