押切蓮介「でろでろ」

青押切蓮介の初連載作、新装版刊行!ホラーギャグや押切流女の子のルーツ語るインタビュー

押切作品における母親の存在と父親不在感

押切の自伝エッセイ「猫背を伸ばして」にも母は多く登場する。

──家族といえば、「でろでろ」では、お母さんとお父さんの扱いの差がすごいですよね。母親は美人で仕事ができて強くて……一方、父親は影が薄い。

これは、自分の経験が現れてる気がします。うちの親父は、僕が18歳のとき家を出ていってしまって。それから母と6年間2人で暮らしたので、母との結びつきが強いんです。

──18歳というと、ちょうど、デビューの頃ですね。

僕は投稿からデビューまではとんとん拍子だったんです。投稿して、1週間か2週間ですぐに編集部から電話がかかってきて、担当編集がついて。初掲載が18歳のときですね。母は喜んでくれたんですけど、父は「先を越された」とかブツブツ言ってた(笑)。

──え、お父さんはマンガ家志望?

いえ、父は小説家志望だったんです。実は父の父……僕の祖父は、直木賞作家で、その影響で文学の道を行きたかったそうで。

──おじいさんが直木賞作家!? すごいじゃないですか。

神崎武雄という名前で。昭和17年に「寛容」という小説で直木賞をとって、でも2年後に戦死しているんですが。まあその祖父に、父はすごく憧れていたから……マンガとはいえども雑誌に作品が掲載された僕に嫉妬したわけなんです(笑)。

描いたネームの量を手で表す押切。

──負けん気が強いお父さんですね。

まずいことに太宰治に心酔した挙げ句、結局親父は家を出ていっちゃうんですが(笑)。でも、その後僕も「でろでろ」に至るまでは長かったですよ。23歳で「でろでろ」を始めるまで、読み切りや短期連載などはあったものの、どれだけボツを食らったことか。その間に描いたネームは大量にありますよ!

──お母さんは、その間も押切先生を応援してくれていたんでしょうか。

というか、まあそのうち諦めると思ってたんじゃないかな。まだ若かったしね。でも、「でろでろ」の連載が決まったときはやっぱり喜んでくれました。僕も、それがマンガ家になって一番うれしかった瞬間だったと思います。

──週刊連載を持つというのはすごいことですよね。

不安もありましたけど、それまで本当に貧乏だったしねえ。100円パックの紅茶を買うのも迷うくらいに。そうだ、「でろでろ」の連載が始まってから、最初の原稿料で母とご飯を食べに行ったんですよ。1000円もするちゃんぽんを!

──なんとも、いい話です。

それがね……クソまずかったんですよ! 1000円もしたのに! ぶうぶう文句を言いながら食べました。あの味は忘れられないなあ(笑)。

──お母さんはいまも押切先生のマンガを読んでくださってるんですか?

「でろでろ」とか「ハイスコアガール」は好きみたいですよ。「ミスミソウ」は「大っきらい」だそうです。「ナウシカみたいなのを描きなさい!」って言われる(笑)。

いろんなジャンルのマンガを描いて人を驚かせたい

──「でろでろ」連載中からどんどんお仕事も増えていきますが、作品ジャンルが広がっていったのはどのような流れからでしょうか。

押切蓮介

もともと僕はストーリーものを描いてたので、そこに戻りたい気持ちもあったのかも。でも「でろでろ」みたいなマンガだけじゃない、くだらないギャグマンガ描いてるけどこんな作品も描けるってびっくりさせてやりたい思いもありましたね。イメチェンして驚かせたい気持ちってあるじゃないですか。

──ここまで振り幅の広いマンガ家さんも珍しいのではと思います。

「よくそこまで違うマンガを描けるな」って思われることが、人生の目標のひとつでしたね。とにかくマンガ家に対して持たれがちな先入観をブチ壊したかった。たとえば、いがらしみきお先生は理想的なんです。「ぼのぼの」を描いてた人が、いきなり「Sink」とか「I【アイ】」みたいに180度違う、しかも素晴らしい作品を描いちゃうのって感動しますよね。

──確かに読み手の側の思いこみとしては……動物マンガを描いてた人が人間を描いたらびっくりしちゃうくらいのものがあるかもしれません。

それが嫌いなんですよ。無意識に決めつけられるのが。

──違う作風を並行して描くことは、苦にならないタイプですか?

イメチェンしたいとか言いましたが、そもそも飽きっぽいんでしょうね。どんどん違うものに行きたいという願望が根底にあるのかも。でも「でろでろ」で軌道に乗りはじめて10年……これから僕もどんどん保守的になるんでしょうけどねえ(笑)。

なんならマンガ家、1回やめちゃってもいいくらい

──これから描いてみたい作品の構想は?

いっぱいありますよ。最近「まだ、これは誰も描いてないから俺が!」みたいな発想になりつつあるんですよね。「ハイスコアガール」で味をしめたのかも(笑)。

「ハイスコアガール」5巻

──いろいろな作品を描く中で、こだわりを持っていることはありますか?

むしろ、こだわりは持ちたくないですね。「僕はこういう主義」って決めちゃうと、そこで固まっちゃう気がして。いろんなことに興味を持って……「これはやらない」って思ってたことを始めたらおもしろいじゃないですか。「描けない」と思ってたものも描けるかもしれないし。自分の立ち位置を決めつけちゃうと動けなくなりそう。なんならマンガ家、1回やめちゃってもいいくらい。

──それはまた自由な発想です(笑)。では最後に……「プピポー!」に続き、「ハイスコアガール」のアニメ化も決定、今をときめく押切先生の来年の目標は?

仕事を減らすことです! 

──ありがとうございました!(笑)

2003年から2009年までヤングマガジンにて連載されたホラーギャグマンガが新装版として復活! 霊感体質のため、奇っ怪現象に出くわしやすい悪ガキ中坊・耳雄が、なぜかオカルト耐性 が異常に高い耳雄の妹・留渦と、お化けに弱い耳雄の愛犬・サイトーさんとともに、悪霊や妖怪をバッタバッタとブッ倒していく。各巻に描き下ろしも収録。

2巻は2月6日、以降毎月6日に発売。さらに2月3日発売のヤングマガジン10号にて集中連載「でろでろ 2杯目」スタート!

押切蓮介(おしきりれんすけ)

押切蓮介

1979年9月19日生まれ、神奈川県川崎市出身。1998年に、ヤングマガジンにて「マサシ!!うしろだ!!」でデビューし、「でろでろ」などホラーギャグの分野で人気を博す。代表作に「ミスミソウ」「椿鬼」「ピコピコ少年」など。現在は月刊少年シリウス(講談社)にて「ゆうやみ特攻隊」、漫画アクション(双葉社)にて「焔の眼」を連載。月刊ビッグガンガン(スクウェア・エニックス)では、格闘ゲームを題材にした青春作品「ハイスコアガール」を連載している。