コミックナタリー PowerPush - 惡の華
押見修造と長濱博史の共犯対談「傷痕を残す作品ができた」
恐らくたくさんの人をふるいにかけることになると思うんです(長濱)
──第1話放映までキャラクタービジュアルが公開されない方針と伺っていますので、どんなアニメになるのか、ほんとに想像もつかないですね。
押見 ちなみに僕、ロトスコープのテストで実験台になってるんですけど、自分の仕草なんかがそのままアニメになるので、すごく驚きました。生きている人間の動きの癖が露骨~に出るんですよ。
長濱 役者さんに初めて見せたときの反応がいちばん面白いんですよ。実写を撮影したあと「アニメになるとこうなります」って見せたとき、皆一様に「え、そのまんまじゃないですか!」と驚くんです。そう驚かれるほどのナチュラルな雰囲気が、「惡の華」には必要だったんですよ。やっぱりいかにもなアニメキャラじゃなくて、人間が映し出されてほしかったから。
──前情報なしに今期のアニメ1話をチェックするぞーって見た人は衝撃を受けるでしょうね。
長濱 オープニングの音楽から1話のストーリーの構成から、「なんじゃこりゃ」ってなるように作ってますから、恐らくたくさんの人をふるいにかけることになると思うんです。「気持ち悪いからもう見ない」「こういうの大嫌い」って人も出てくるでしょう。
──いいんですか(笑)。
長濱 いいんです。それで、たとえばBlu-rayとかDVDが出たとき「あの気持ち悪いやつか」って見返したら面白かったとか、本屋さんで原作の単行本を見つけて「なんだアニメとぜんぜん違うじゃん」って手に取ってくれたりとか、そういう引っかかりを見た人に持ってもらえたら、僕らとしては成功だと思っていて。
押見 監督がおっしゃっていた、傷痕を残すとはまさにこのことですよね。
長濱 一瞬でもいいから「ん?」ってなってほしいんですよ。その「ん?」のために作ってる。
押見 以前高校生くらいの女の子から「中学生くらいのときに読んでて、わけわかんないなって思ってたんですけど、高校生になって読み返してみたら、すごく面白かったです」っていうファンレターをもらったことがありましたね。
長濱 まさにそれです。「わけわかんない」でも「気持ち悪い」でも、誰かに刺さってほしい。素通りされるのがいちばん悲しいですから。
確実に視聴者を殺しにかかっている、衝撃的な仕上がりです(押見)
──そんな長濱さんが原作を読んだとき感じた魅力は、どんなところでしたか。
長濱 人間の心の移ろいやすさがちゃんと描かれているところ。物語を作っていく身としては、アニメの場合は特に、キャラクターをひとつの色に規定したがるもんなんです。「こいつはこれが許せない奴」「こいつは彼女を亡くしたトラウマを抱えた奴」。そうしてわかりやすく記号化しておかないと話を進めづらいというのは、確かに、ある。
押見 アニメは大勢で作るから、スタッフ間で共有しやすいというのもありますよね。
長濱 でも実際の人間というのはどうですか。トラウマがあってもちゃんと忘れていけるし、気質だって上書きされていく。そうやってどんどん変化していくのが人間じゃないですか。その意味で「惡の華」はキャラを記号化せず、人間が描かれてる。
押見 ありがとうございます。でも一方で、その人間の本質みたいな部分はそう簡単に変わらないのも事実なんですよね。WEBの掲示板なんかを見に行くと「佐伯さんがヤンデレ化した」「キャラがブレてる」とか言われてるんですけど、彼女は最初からそういう部分もぜんぶ内包していて、基本的に本質は大きく変わっていない。彼女が恋愛を突き詰めていった結果、ああ変化していったんです。
──そろそろ時間となってしまいました。初回放送を前にざわざわしているファンが多いと思いますので、最後にそうした方々へメッセージをいただけますか。
押見 「惡の華」を他人事ではないと感じてくれている人には、絶対面白いアニメだと保証します。一方で「仲村さんハァハァ」みたいな、キャラ萌えみたいな感じで読んで下さっていた方は、裏切られるんじゃないかな。
長濱 正直、普通のアニメとは違うので、誰しも絶対に面白いと思えるものかどうかはわかりません。でも第1話を見て「また見たい」と思った人は、その方々のことは最終話まで絶対に裏切らないものになっていると思います。
押見 本当、衝撃的な仕上がりですから。「僕もこう描けばよかった」とか悔しくなる場面がたくさんあります。春日と仲村が教室で暴れる回とかすごいですよ。マンガよりすごくて、僕は見るたびに泣いちゃいます。
長濱 あの回は我ながら、いいものが出来たと思っています。役者たちも、原作に出てくる表情をしていて、完全に乗り移ってますね。
押見 比喩表現としてですけど、僕は「惡の華」は読者を殺すつもりで描いてるんです。まあアニメも確実に殺しにかかってる気がしましたね。惨殺です、視聴者全員(笑)。
長濱 ははは、「傷痕残す」どころか、惨殺。
押見 ヌルいもの描いてなかったな俺、って思い直しました。
アニメ「惡の華」
ボードレールに心酔する少年、春日高男。
抗いきれぬ衝動のままに、密かに想いを寄せる佐伯奈々子の体操着に手を掛けたその時から、彼の運命は大きく揺れ動くことになる。 その行為の一部始終を目撃した、仲村佐和の手によって……。
閉塞的な小さな街のなかで、鬱積してゆく思春期特有の若者たちの激情はどこへ向かうのか。
これは誰もがいつかは通る、あるいは既に通り過ぎた、思春期の苦悩と歓喜との狭間で記される禁断の青春白書である。
放送スケジュール
- TOKYO MX4月6日より 毎週土曜25:30~
- チバテレビ4月7日より 毎週日曜25:00~
- tvk4月7日より 毎週日曜25:00~
- テレ玉4月7日より 毎週日曜25:00~
- サンテレビ4月8日より 毎週月曜24:30~
- KBS京都4月8日より 毎週月曜25:00~
- 群馬テレビ4月8日より 毎週月曜24:30~
- BSアニマックス(無料放送)4月6日より 毎週土曜22:30~
- BSアニマックス4月5日より 毎週金曜22:00~
スタッフ
- 原作:押見修造
- 監督:長濱博史
- 助監督:平川哲生
- シリーズ構成:伊丹あき
- キャラクターデザイン:島村秀一
- 美術監督:秋山健太郎
- 色彩監督:梅崎ひろこ
- 撮影監督:大山佳久
- 動画監督:佐藤可奈子
- 編集:平木大輔
- 実写制作:ディコード
- 音響監督:たなかかずや
- 音楽:深澤秀行
- 音楽制作:スターチャイルドレコード
- アニメーション制作:ZEXCS
キャスト
- 春日高男:植田慎一郎
- 仲村佐和:伊瀬茉莉也
- 佐伯奈々子:日笠陽子
押見修造(おしみしゅうぞう)
2002年、講談社ちばてつや賞ヤング部門の優秀新人賞を受賞。翌年、別冊ヤングマガジン(講談社)掲載の「スーパーフライ」にてデビュー。同年より同誌に「アバンギャルド夢子」を連載した後、ヤングマガジン(講談社)にて「デビルエクスタシー」などを発表。漫画アクション(双葉社)にて2008年よりスタートした「漂流ネットカフェ」は、TVドラマ化された。翌2009年からは別冊少年マガジン(講談社)にて「惡の華」が開幕。「惡の華」は2013年4月からTVアニメ化されるなど、話題を集めている。
長濱博史(ながはまひろし)
1990年、マッドハウスに入社。「YAWARA!」などさまざまな作品に参加した後、フリーランスになる。1996年に「少女革命ウテナ」のコンセプトデザインを担当し、以降はプリプロダクションとしての作品参加も増えていく。2005年には「蟲師」にて初監督を務め、高い評価を獲得。東京国際アニメフェアでは、第5回東京アニメアワードのテレビ部門にて優秀作品賞を受賞した。このほか代表作は、OVA版「デトロイト・メタル・シティ」など。(長濱の「濱」は正しくは旧字体)