ミドルエイジを主人公に!製作委員会が“褒めコメディ”に込めた思い

小谷陽子が代表を務める演劇ユニット・製作委員会の最新作「永遠とかではないのだけれど」が、11月12日から14日まで東京の新宿シアター・ミラクルで上演される。コメディ演劇ユニット・GORE GORE GIRLSの西山雅之が書き下ろした「永遠とかではないのだけれど」は、“褒める会”という団体を舞台にした“褒めコメディ(ホメディ)”だ。三十代以上の俳優たちと共に、壮年期の男女に焦点を当てたコメディを発表している製作委員会が、“褒めコメディ”を通して伝えたいこととは? 演出の小谷、作劇を手がけた西山、キャストの木村もえ、コハル、松崎眞二に、本作の見どころを聞いた。

取材・文 / 興野汐里撮影 / 三浦一喜

褒められたーい!!

──小谷さんは、西山さんが主宰するGORE GORE GIRLS(以下GORE GORE)の「つかまえてごらんなさい、箸で」(2013年)に俳優として参加しています。近年の製作委員会の作品では、小谷さんが自ら作・演出を手がけるものが多かったですが、今回西山さんに脚本を依頼することになった経緯や、脚本の内容についてどのようなオーダーをしたのか教えてください。

小谷陽子 GORE GOREに客演したり、作品を拝見する中で、いつか西山さんに脚本を書いていただきたいとずっと思っていたんです。今回ご一緒する機会をいただけたので、「自由なテーマで、GORE GOREのような良質なコメディを書いてください」とお願いしました。

小谷陽子(右)

小谷陽子(右)

西山雅之 「自由に面白く書いてください」って一番難しいですよね!(笑)

一同 ははは!

──「永遠とかではないのだけれど」では、褒める会の会長を務める“カリスマ褒め屋”の女性や、彼女に弟子入りしたプロの褒め屋たちが褒められなくなり苦しむ様子が、コメディタッチで描かれます。

西山 自分の作品ではいつも、誰かしらが揉めていることが多いんです。みんな真剣に揉めているけど、外から見ると彼らがなぜ揉めているのかわからない。そんなふうに、切実な思いがぶつかり合う構造が面白いと思っていて。今回はそこに“褒める”という要素を付け足して、褒められたいが故に争う人たちの物語を書きました。誰しも褒められたい欲求を持っていると思うんですが、他者から必死に褒められたがっている人たちの姿というのは、外側から見たときにとても滑稽だと感じたんです。

木村もえ というのは理解しつつも、人間というのは心のどこかで「褒められたい」と思ってしまうものですよね。

西山 褒められたら単純にうれしいですもんね。自分が「認めてほしい」と思っている人から褒められたらなおさら。

小谷 ……褒められたーい!!

一同 ははは!

小谷 二十代までは褒めてもらうこともあったけど、30歳を過ぎたら褒められることってあまりないですし、「演劇を続けてて偉いね」って言われることもないですから。

木村 いやいや! 私は「小谷さんすごいなあ」って思ってますよ!

小谷 ありがとうございます……(笑)。三十代以上になると、いろいろな事情で演劇を辞める人が増えてくるじゃないですか。売れないから辞めるのかもしれないし、褒められないから辞める人もいるのかもしれない。年齢と演劇活動の関係について考えていたところだったので、今回このタイミングで“褒めコメディ(ホメディ)”を題材にしてくださったのは、すごくありがたかったなと思います。

カリスマ褒め屋、褒める会No.2、プロの奴隷……自分の役とどう向き合う?

──キャストの木村さん、コハルさん、松崎さんは、いずれも製作委員会の作品に出演経験があるおなじみのメンバーです。木村さんは、物語のキーマンとなる褒める会の会長・日高弥生を演じますが、ご自身の役柄とどのように向き合いたいと考えていますか?

木村 私、どんな役をやっても、いつも自分の地が出てしまうんですよね。自然に演技ができているというのは良いことではあるけれど、役者としてはどうなんだろうと思うところもあって。今までに挑戦したことがない役なので、自分の中に眠っているものを掘り起こして演じられるようにがんばりたいですね。今回、私が演じる日高弥生は、カリスマ褒め屋でありながら、今は褒めることができなくなってしまっているようで……だいぶ葛藤しているんじゃないかなと解釈しています。彼女のセリフに「人から褒められたことは永遠に忘れないだろう」というような言葉があるんですが、私は逆に、「人から嫌な言葉をかけられたことを永遠に忘れないだろう」と感じた経験があって。褒められたことであっても、けなされたことであっても、言霊としてずっと残るものがあるんだなと、今回の作品を通して改めて考えました。

木村もえ(左)

木村もえ(左)

小谷 木村さんとコハルさんには、製作委員会の第1回公演から出演していただいて、木村さんは6回目、コハルさんは4回目の出演になります。コハルさんとは飲み友達という形で関係がスタートしたんですが(笑)、第6回公演の「尼ちゃん」(2015年)では主役をやっていただいて。信頼できる俳優さんの1人です。

コハル ありがとうございます(笑)。私が演じる黒坂由美は、褒める会のNo.2会員として先生の教えをしっかり受け継いできた人で、台本を読む限り、一番まともなんじゃないかと思っているんですけど……(西山に視線を送る)。

西山 褒める会って名乗ってる時点でみんなヤバイですけどね!(笑)

コハル ははは! ただ、登場人物たちの言動もなんとなく理解できるんです。自分のセリフではないんですけど、台本を読んで何箇所かグッときて泣きそうになった場面があるんですよ。そういうシーンがあることによって、逆にコメディとしてのバカバカしさを際立たせられたら良いなって。あとは純粋に、西山さんの作品に出られることがすごくうれしいですね。西山さんとお話ししたことはあったんですが、一緒にお仕事をしたことはなかったんです。「西山さんの作品にいつか出てみたいけど、テンポの良いセリフの応酬を私が表現できるのか、GORE GOREの方たちのように全力投球できるのか……自分が出演する機会はきっとないだろうな」と思っていたら、小谷さんから今回のお話をいただいて、舞い上がるような気持ちでした。

コハル

コハル

西山 ありがとうございます(笑)。

──今年3月に上演された第11回公演「Juste le bon bar~やっぱ見えちゃっと!」にも出演された松崎さんは、今回、褒める会唯一の男性会員・桜川洋一を演じます。

松崎 会員というか奴隷ですね! 桜川自身がそう自称しているので……(笑)。

小谷 はい。桜川はプロの奴隷の役です(笑)。

松崎 ははは! 彼はアルバイトではあるんですけど、褒める会の人たちに一生懸命尽くしているし、“褒めること”に情熱を持って取り組んでいるなという印象を受けました。ほかの会員の方と同じく、褒めの言葉を出せなくなってしまった弥生先生を心配していて、元に戻ってほしいと願っている。素直でまっすぐなキャラクターだなと。ところどころ、「あっ、自分っぽいな(笑)」と思う部分や、自分が今まで演じた役との共通点が多かったので、楽しくお稽古に臨める気がしています。

松崎眞二

松崎眞二

三十代以上の俳優にスポットを当てたい

──製作委員会ではこれまで、とある村の選挙を題材にした「PLACE YOUR BET」(2019年)や、令和の飛田新地を舞台にした「メイン通りの妖怪」(編集注:2020年に上演予定だったが、新型コロナウイルスの影響で中止になった)など、ミドルエイジを主人公にしたコメディを制作してきました。小谷さんが考える、“製作委員会流コメディ”のこだわりについてお聞かせいただけますか?

小谷 製作委員会って出演者の年齢層が高いんですね。というのも、三十代以上の俳優にもっとスポットを当てていきたいという思いがあるからなんです。小劇場の公演を観に行って感じるのは、二十代の若者中心の話ばっかりだなあって。でも、三十代を過ぎてからのほうがいろいろな出来事が起きるんじゃないかと思うんです。二十代の人が物語の中心だと、年齢が高い俳優は必然的に両親や祖父母、先生のような役を演じることが多くなりますが、誰かのお母さんでもなく、誰かのお父さんでもない、“その人自身”を主人公にした物語を製作委員会では描きたいと考えています。

──今回は西山さんの書き下ろしを上演しますが、ご自身が脚本も手がけるときはどのようなことを意識しながら執筆しているのでしょう?

小谷 私には“感動させたい欲”みたいなものがあまりないようで、観ている最中には「面白いな」「くだらないな」と笑えて、劇場を出るときに心がふっと軽くなるようなお芝居が作れたら良いなと思っているんです。「この作品を上演する大義名分は何か?」ということを考えるよりも、「やりたいからやる」という気持ちを重視するというか。私がお芝居を始めた頃の小劇場は「笑わせたら勝ち」みたいな雰囲気が漂っていたので、そのときのくせが抜けないのかもしれません。西山さんのように脚本の段階ですでに面白いお話は書けないから、自分の脚本を上演する場合は、コメディとしてどう成立させていくのかを、稽古場で考えながらで作っていくことが多い気がします。コメディについて改めて考えたとき、物語に入り込まず、離れたところから俯瞰することで浮かび上がってくる面白さもあると思っていて。というのも、登場人物に感情移入してしまうと笑えなくなる気がしているんです。自分自身を重ねて、傷付いたことを思い出したりとかね。なので、製作委員会のコメディは、ストーリーにあまり入り込まず観てほしいという気持ちがあります。

──西山さんも先ほど“外側から見たときの面白さ“を意識しているとおっしゃっていました。西山さんの脚本と小谷さんの演出がどのような化学反応を起こすのか、非常に楽しみです。

西山 “俯瞰”を重要視し過ぎて、お客さんに伝わらなかったらどうしよう(笑)。

小谷 ははは!

“褒めポイント”を挙げてみよう!

──“褒める”というテーマにちなんで、最後に皆さんから見た小谷さんの“褒めポイント”を挙げていただけますか?

木村 歳を取ると、お芝居する場所を自分で開拓していく気力がなくなっていくので、いつも声をかけていただいてありがたいです。こんな私を呼んでくれて本当にありがとう……って、これじゃ褒め言葉になってないかしら!(笑)

小谷 ははは! 大丈夫です。ありがとうございます(笑)。

松崎 小谷さんって稽古中に少女チックな動きをすることが多いんです。そのときすごく心が和むんですよ。今回もその姿を見られるかな?と密かに楽しみにしています(笑)。

小谷 (ベターッと机に突っ伏しながら)えー!? 私、そんなことやってました!?

松崎 今まさにやってるじゃないですか! 通し稽古をやって、想定していた上演時間内に収まったとき、「やったー!」って両手を挙げて喜んだり、逆に「ヤバい!」って言いながら壁にもたれたり、地面に倒れたり……そういうリアクションを見て、僕は和んでます(笑)。

西山 ははは(笑)。小谷さんは、自分にオファーしてくださるところにガッツがあるなあと感じました。

小谷 えっ!? そうですか?

西山 演出込みでの依頼はあるんですけど、脚本だけのオファーは珍しいし、よくあの脚本を演出しようと思うなって……(笑)。ということで期待してます! お客さんにはとにかく楽しんでいただけたらと思います。

西山雅之

西山雅之

コハル 西山さんもおっしゃったように、小谷さんってこんなに細いのにバイタリティあふれる方なんですよ! 年に何度も公演を打つのもすごいと思いますし、クリエイターとして尊敬しています。今回も一緒に良い作品を作れたらと思います!

小谷 照れるなあ……皆さん、ありがとうございます。私、バイトでずっとポーカーディーラーをやっているのですが、人生ってポーカーみたいところがあると思うんです。何が出るかわからないからこそ楽しいというか、最後の1枚で逆転勝利することも大いにあり得るというか。未来が見えなかったり、やれる役、やりたい役がなくなったりして俳優を辞めてしまう二十代の人たちもいると思うのですが、製作委員会のように、三十代以上の活躍の場を模索している団体があるということ、いくつになっても舞台に立ち続けている人がいるということを知って、今後の人生に少しでも希望を持ってもらえたらと思います。

左から木村もえ、コハル、小谷陽子、西山雅之、松崎眞二。

左から木村もえ、コハル、小谷陽子、西山雅之、松崎眞二。

プロフィール

小谷陽子(コタニヨウコ)

早稲田大学第一文学部演劇専修を卒業後、役者として活動。2010年に演劇ユニット・製作委員会を立ち上げた。

西山雅之(ニシヤママサユキ)

コメディ演劇ユニット・GORE GORE GIRLS主宰。GORE GORE GIRLS全作品の脚本・演出を手がける。2014年度の佐藤佐吉演劇賞で優秀脚本賞を受賞。

木村もえ(キムラモエ)

山形県生まれ。四十代で演劇活動を始める。埼玉県の市民劇団で15年活動したのち、をしばいかむぱにゐに所属。

コハル

ダンカンが主宰する劇団東京サギまがいに所属し、第7回公演から第30回公演まで本公演や若手公演などの全公演に出演、振付も担当していた。劇団の活動休止に伴い、現在はフリーで活動中。

松崎眞二(マツザキシンジ)

福岡県生まれ。地元の専門学校で演劇を学んだのち、上京し演劇活動を行っている。