彩の国さいたま芸術劇場芸術監督・近藤良平が見つめる“これから” (2/2)

「Free as a Bird」を超える「Starting Over」に向かって

──6月にはコンドルズの新作「Starting Over」が上演されます。

彩の国さいたま芸術劇場で作る15作目の新作です。同じ劇場で15作品も作ったことはこれまでないので、そのことを誇りに思う反面、面白いものを作らなきゃというプレッシャーもある。しかもそれを、僕だけじゃなくてコンドルズのメンバーそれぞれが背負っています。「Starting Over」はジョン・レノンの最後のシングルなのでいろいろな意味があると思うし、「Starting Over」というタイトルは今の時世にもつながるものがある。コンドルズのやり方はいつも真っすぐだと思いますが、今回もこのタイトルに真っすぐ向き合って作っていきますし、そこにはすごく意味があると思います。

「Starting Over」チラシ

──コンドルズは今年で結成26年。作品やカンパニーの状況によって、コントの比重が高かった時期やダンス中心の時期とさまざまな変遷があったと思いますが、近年はメンバーの層がさらに厚くなり、それが作品の多様性につながっているのではないかと感じます。

確かにそうかもしれないですね。コロナになってYouTubeでそれぞれに映像配信することになったときも、全員映像が得意というわけではないからどうなるかと思っていたら、各々がカメラを回して面白いものを作ろうとしていて、ちょっとびっくりしたんですよ。これまでは「みんなで集まれば何とかできる」と思っていたけれど、それぞれが「下手なものは見せられない」という思いを持ってやっているんだなって。そんなところにコンドルズの底力を感じました。

──8月には、2021年に実施されたオープンシアター「ダンスのある星に生まれて」の第2弾が実施されます。

昨年はコロナの中でも何とかできたという感じで、制限がある中でやれることを、という発想でやってみました。でも1回やってわかったこともあるので、今年は昨年とは違う意味で、一般のお客さまがもっと参加できるようなオープンシアターを目指したいです。また10月から2024年2月まで劇場が大規模改修工事で休館になるので、それまで現在の劇場空間を目一杯楽しみたいなと思っています。

2021年のオープンシアター「ダンスのある星に生まれて」より。（撮影：宮川舞子）

──ラインナップ発表会見では、埼玉県内を巡回する、キャラバン企画「埼玉回遊」についても質問が寄せられました。

埼玉県の人たちの反応が良かったですね（笑）。埼玉をもう少し開拓したいという単純な思いと、工事で劇場が使えない時期があるということが重なって、まずはフィールドワーク的な感じで埼玉を“回遊”しながらいろいろな人と出会いたいなと思っています。

決まりきったことじゃなく、わからないことに向かっていきたい

──4月19日には世田谷パブリックシアターの白井晃さん、新国立劇場（演劇部門）の小川絵梨子さん、KAAT神奈川芸術劇場の長塚圭史さん、そして近藤さんによる、「世田谷パブリックシアター新芸術監督就任イベント―公共劇場における芸術監督の役割を考える―」が実施されます（参照：「芸術監督とは何をするべき存在なのか」を問う座談会、進行役は成河）。日本でも少しずつ芸術監督制度を採る劇場が増え始めましたが、芸術監督の職域や役割は劇場によってそれぞれ異なり、芸術監督が目指すものもさまざまだなと感じます。近藤さんは、芸術監督としての到達点といいますか、任期中の最終目標についてどのように考えていらっしゃいますか？

初年度に改修工事があるので計画が立てにくいところもありますし、再開される2024年にどのような状況になっているか、実際わからない部分はあると思っています。ただ、9月まではギュッと公演をやって、改修期間中に「埼玉回遊」をやって……と考えると、意外とやることがいっぱいあるなって（笑）。なので、あっという間に2024年になっているような気がするし、そこから新しいことを始めたら軌道に乗るまで3年はかかるだろうし……今から5年先くらいまでのことを考えないといけないのかなあ。ただ、会見でも言いましたが、さいたまゴールド・シアターやさいたまネクスト・シアターに代わる新しいシアターグループの構想などもあるので、できることは何でもやってみたいです。

そういえば最近、これまで会ったことがないような異業種の人たちと話す機会が増えたんです。そんな、今まさに同じ時代を動かしている人たちが、ジャンルは違っても「これ、面白いかもしれませんよ」って教えてくれることには大いに乗りたいし、僕が引っ張るというより、さまざまな人たちと協力し合って、決まりきったことではなく、まだ見たことがない、答えのわからないことに向かって行きたい。だから皆さん、いろいろ助けてください！（笑）

近藤良平

プロフィール

近藤良平（コンドウリョウヘイ）

1968年、東京都出身、ペルー・チリ・アルゼンチン育ち。振付家・ダンサー、コンドルズ主宰。1996年に自身のダンスカンパニー・コンドルズを旗揚げし、全作品の構成・映像・振付を手がける。世界約30カ国で公演を開催。NHK総合「サラリーマンNEO」の振付出演、NHK連続テレビ小説「てっぱん」やNHK大河ドラマ「いだてん」の振付を担当。0歳児からの子ども向け観客参加型公演「コンドルズの遊育計画」や埼玉県との共働による障害者によるダンスチーム・ハンドルズ公演など、多様なアプローチでダンスを通じた社会貢献にも取り組んでいる。第4回朝日舞台芸術賞寺山修司賞受賞、第67回芸術選奨文部科学大臣賞受賞、第67回横浜文化賞受賞。2022年4月1日に、埼玉・彩の国さいたま芸術劇場芸術監督に就任した。

CONDORS : official website / [コンドルズ]

近藤良平 (@ryoheikondo0) | Twitter

近藤良平の記事まとめ

コンドルズの記事まとめ

彩の国さいたま芸術劇場・埼玉会館
2022年度ラインナップ

近藤良平（撮影：佐藤良）

ジャンル・クロスI 近藤良平with長塚圭史「新世界」
2022年4月29日（金・祝）～5月1日（日）
加藤訓子プロデュース META-XENAKIS「クセナキスと舞」 ※共催
2022年5月12日（木）・13日（金）
イレブン・クラシックスVol.5 大萩康司（ギター）＆江戸聖一郎（フルート）
2022年5月18日（水）
コンドルズ埼玉公演2022新作「Starting Over」
2022年6月4日（土）・5日（日）
ディミトリス・パパイオアヌー「TRANSVERSE ORIENTATION」
2022年6月30日（木）～7月3日（日）
大塚直哉レクチャー・コンサートバッハ“平均律”前夜～月明かりのもと書き写した楽譜たち～
2022年7月3日（日）
Noism×鼓童「鬼」 ※共催
2022年7月8日（金）～10日（日）
ジャンル・クロスII 近藤良平×松井周「導かれるように間違う」
2022年7月10日（日）～18日（月・祝）
ピアノ・エトワール・シリーズVol.44 三浦謙司ピアノ・リサイタル
2022年7月18日（月・祝）
さいたまダンス・ラボラトリ企画Vol.6
2022年7月26日（火）～8月7日（日）
※ワークショップ・公開リハーサルあり
ユナイテッド・ユーロブラス・クインテット
2022年7月30日（土）
第7回ピアノデュオドゥオールデュオ・セミナー 2022 ※共催
2022年8月3日（水）～6日（土）
オープンシアター「ダンスのある星に生まれて2022」
2022年8月20日（土）・21日（日）
さいたまダンス・ラボラトリ企画岡田利規×湯浅永麻「わたしは幾つものナラティヴのバトルフィールド」
2022年9月
マームとジプシー「cocoon」
2022年9月
彩の国シェイクスピア・シリーズ「ヘンリー八世」
2022年9月16日（金）～25日（日）
ピアノ・エトワール・シリーズVol.45 松田華音ピアノ・リサイタル
2022年9月17日（土）
クロノス・クァルテット《ブラック・エンジェルズ》
2022年9月30日（金）
NHK交響楽団
2022年10月2日（日）
マギー・マラン「MayB」
2022年11月19日（土）・20日（日）
バッハ・コレギウム・ジャパンベートーヴェン「第九」
2022年12月3日（土）
日本昔ばなしのダンス
2023年3月25日（土）・26日（日）
彩の国さいたま寄席四季彩亭
2022年4月16日（土）、8月6日（土）、12月4日（日）、2023年2月4日（土）
光の庭プロムナード・コンサート
2022年4月23日（土）第130回
2022年5月21日（土）第131回ばらまつりスペシャル
2022年6月25日（土）第132回
※ほか、夏休みスペシャルを予定。
埼玉会館ランチタイム・コンサート
2022年6月24日（金）第53回 NHK交響楽団メンバーによるヴィオラ十重奏
2022年10月26日（水）第54回佐藤采香（ユーフォニアム）
2023年2月3日（金）第55回坂本彩＆坂本リサ（ピアノデュオ）
2023年3月30日（木）第56回春休みスペシャル東京交響楽団メンバーによるアンサンブル