堂珍嘉邦、森崎ウィン、そしてLENによる一夜限りのライブ「Precious Dream Night」が、11月1日に開催される。
日本ポピュラー音楽協会(JPMA)が主催する本公演は、2023年11月から2024年1月にかけて6都市で開催された「ミュージカル & 映画音楽《ドリーム・キャラバン 2023》with シンフォニック・ジャズ・オーケストラ」(以下「ドリーム・キャラバン」)をきっかけに生まれたもの。「ドリーム・キャラバン」に参加した、出生地が異なるアーティスト3人がこのたび初共演し、一夜限りの“Precious Dream”を紡ぎ出す。
ステージナタリーでは、舞台出演やアーティスト活動でオリジナリティあふれる表現の道を突き進む堂珍と森崎にインタビュー。さらに後半は韓国人シンガーソングライターのLENも加わって、ライブへの期待や選曲についてのポイントを3人に語ってもらった。
取材・文 / 大滝知里撮影 / Junko Yokoyama(Lorimer)
[森崎ウィン]ヘアメイク / 丸山晃穂(JYUNESU)
堂珍嘉邦が森崎ウィンに最初に思ったことは「ものすごい集中力でやってんな」
──2024年初めにかけて行われた「ドリーム・キャラバン」(参照:ミュージカル&映画音楽で全国巡る「ドリーム・キャラバン」に朝夏まなと・上原理生・浦井健治ら)には、堂珍さんが川越公演、森崎さんが新潟公演と、別々のタイミングで参加されました。「ドリーム・キャラバン」ではオーケストラの演奏をバックに、ミュージカルと映画音楽を中心とした楽曲が歌唱されましたが、お二人にはどのような印象が残っていますか?
堂珍嘉邦 「ドリーム・キャラバン」は、70人規模のオーケストラの方々の演奏で、舞台作品のナンバーや映画曲、オリジナル曲などを織り交ぜて披露したショーでした。僕はずっとポップスと言われるフィールドをメインに活動してきたので、「ドリーム・キャラバン」のように時々こういう変わった環境で歌わせていただくと、曲の世界観が広がって、チャレンジ精神がかき立てられますね。実際、オーケストラの個性も地域によってさまざまで、大阪のオーケストラはやんちゃっぽかったり、東京のオーケストラはクールだったり、人柄や地域色が音楽にも表れていて、そこに歌唱やパフォーマンスを絡めていくのが面白いんです。
森崎ウィン それはありますね。僕もこれまではオーケストラの演奏で歌うことはあまりなかったので、「ドリーム・キャラバン」では貴重な体験をさせていただきました。最近になってオーケストラと歌う機会も増えてきたんですけど、オーケストラの音で歌う難しさもすごく感じていて。あるときドラムセットを入れてくださったことがあったんですが、自分の中でリズムをどう取れば良いのかと迷う瞬間がありました。
堂珍 オーケストラだと曲によってはリズムがなかったりすることもあるからね。
森崎 そうなんです! 自分の曲のイントロでドラムがダーッと鳴ったあと、Aメロに入った瞬間にピアノ1本の演奏になってBPMが4個ぐらい落ちるというアレンジをしてくださって、「お、ここが遅くなるんだな」なんて思いながら合わせていったんですが、普段バンドとやるときにはあまりない体験で。毎回すごく勉強になりますし、非常に面白いです。
──今回の「Precious Dream Night」は日本生まれの堂珍さん、ミャンマー生まれの森崎さん、韓国生まれのLENさんの3人のアーティストが集い、ミュージカルナンバーやカバー曲、韓国テレビドラマのOST(サントラ)など、多彩なラインナップが披露されます。お二人はアーティスト活動に加え、舞台出演も多くされていますが、「Precious Dream Night」が初共演だそうですね。
堂珍 実は、2019年のNHK「うたコン」で同じ放送回に出演したんですよね。あと、僕はCHEMISTRYとして、ウィンくんがグループ活動していた頃にライブでお会いしたり。そのときに舞台裏でお話しさせてもらいました。
森崎 そうでしたね。
堂珍 俺、「うたコン」でウィンくんが歌っている姿を見たときに最初に思ったのは「なんか、ものすごい集中力でやってんな」だったんだよね(笑)。めちゃくちゃ集中しているから、1つひとつの仕事にすごく真剣に臨まれるタイプなのかなと。とにかく“集中力がすごい”という印象だった。
森崎 めっちゃ良いですね、それ(笑)。確かその日は、宇多田ヒカルさんの「First Love」をMay J.さんと生歌唱したんです。楽曲が女性キーで高いし、僕は緊張してしまって周りが見えないような状態で。でも、裏でお会いした堂珍さんはすごく力が抜けていて、「何歌うの?」「おー、がんばってねー」とさらっと声をかけてくださったんです。それで、「あ、煮詰まりすぎちゃダメだ」と思って。でも最終的には、テンパって目の前のことしか見えなくなっていましたね。今でも本番前はそうなりがちです(笑)。
堂珍 あははは!
CHEMISTRYのいちリスナーだった森崎ウィン、堂珍嘉邦に褒められ照れる
──森崎さんの、堂珍さんに対する第一印象はどのようなものだったんですか?
森崎 僕はCHEMISTRYさんのいちリスナーで、ずっとお二人(堂珍嘉邦・川畑要)の音楽を聴いてきたので、堂珍さんと初めてお会いしたときは、「CHEMISTRYの堂珍さんだ!」っていう(笑)。ミュージカルをやらせていただくようになったときも、堂珍さんは舞台にも出演されていたので、「うわあ(歓喜)」と勝手に思っていました。
堂珍 ウィンくんが初めてミュージカルに出演したのはいつだったんですか?
森崎 2020年に「『ウエスト・サイド・ストーリー』Season2」でトニーを演じたのが最初です。今年は難しかったんですが、年に1本は出演したいなと思っています。
堂珍 ミュージカルを始めてまだ4年しか経ってないの!? それでその活躍はすごいね(編集注:森崎は「ジェイミー」「ピピン」でタイトルロールを務めたほか、2023年にはオリジナルミュージカルとなる「SPY×FAMILY」で東京・帝国劇場W主演を果たした)。
森崎 規模が大きい作品に立て続けに出演させてもらって。なんか……いっちゃいましたね(笑)。
堂珍 あははは! タイミングが合えば何かの作品で舞台共演していたかもしれませんよね。でも僕は、ウィンくんと初めてご一緒する機会がライブで良かったなと思っているんです。いろいろな活動をしていますけど、僕らは歌が始まりだし、いろいろな方とお会いして歌うことはやっぱり楽しいですしね。それに、さっき気が付いたんですけど、俺たち笑い方がちょっと似ているんですよ。「がっはっはっは」っていう音を4回区切るみたいな笑い方。勝手に思っているだけかもしれませんけど。
森崎 いえいえ、すごくうれしいです。
“決まりごとがないライブ”がいかにアーティストを自由にさせるか
──「Precious Dream Night」にお二人が期待することは何ですか?
堂珍 今回は、プレシャス・ドリーム・バンドという音楽監督・編曲もしてくださる園田涼さん率いるバンドがいるので(編集注:堂珍は「FLAGLIA THE MUSICAL~ゆきてかえりし物語~」にて園田と初共演)、「ドリーム・キャラバン」とは違い、弦のないバンド演奏とのアンサンブルがどんな感じになるのかなと思っています。慣れ親しんだ曲もあれば、初めて挑戦する曲もあるので、ウィンくん、そしてもう1人のキャストであるLENくんと3人で一緒に歌えるのが楽しみ。あとは本当にもう、ライブに来ていただかなければわからないよっていう感じですね。
森崎 内容が決まっていないから、とかではなくてですよね?(笑)
堂珍 もちろん(笑)。今はぜひ、想像を膨らませて期待していただければなと。
森崎 僕も、昨今いろいろなミュージカルライブやオーケストラライブがある中で、バンドでミュージカルや映画の音楽を聴かせるという公演はあまり聞いたことがないなと思っていて。堂珍さんと僕が出演するので、一見するとミュージカルライブっぽくはあるんですけど、ライブハウスチックなサウンド、音楽人の“泥水を飲んだようなサウンド”で、普段はゴージャスなホールで歌われるような楽曲を聴かせられたら面白いんじゃないかなと思っています。
──堂珍さん、森崎さんはこのステージで、ご自身の楽曲からミュージカルナンバー、映画楽曲まで、ジャンルの垣根を越えるように自由に歌唱をされますが、歌い手としての面白みをどんなところに感じますか?
堂珍 自分が過去に出演した舞台作品の曲をライブで歌うのって、僕としてはとっても新鮮なんです。半分“役”、半分“自分”の状態というか。ご覧になるお客さんは、僕の向こうに役のときの僕を透かして見ているかもしれないし、役と自分を行ったり来たりする感じが面白いなと思っています。
森崎 確かに、過去に自分が演じた役だと、こういうライブで表現に面白みが足されたりすると思うんですけど、自分がやったことがない曲、例えば“森崎ウィンは絶対にそこを通らないだろう”っていうグランドミュージカル系のナンバーや“自分の色”ではない作品に、こういう機会で触れることができるので、固定観念をうち破る自由さがこのライブの良いところですよね。「ウィンがポップスで歌うと、こんな歌になるんだ」っていう意外性を感じてもらえるような挑戦ができる場でもありますし。
堂珍 今回は僕も初めてさらうようなミュージカルナンバーを予定しているので、未知のゾーンではあるんですが、自由であることがこのライブの魅力だから、それを打ち出していけたら良いよね。決まりごとはないわけですから。
森崎 楽しみたいですよね!