北村諒が毛利亘宏の世界を立ち上げる、舞台「オブリビオの翼」

毛利亘宏が脚本・演出を手がけるオリジナル作品、舞台「オブリビオの翼」が9月から10月にかけて上演される。物語の舞台は、亡くなった人の“思い”を扱う黒鷺遺品整理舎。とある出来事がきっかけで人間に転生した天使・ルカ役を北村諒が演じ、黒鷺遺品整理舎の主人・黒鷺拓心役を仲田博喜が務める。これまで多数の毛利作品に出演し、毛利の厚い信頼を得る北村に、「オブリビオの翼」の見どころや毛利作品の魅力、そして北村自身のパーソナルな部分について話を聞いた。

取材・文 / 興野汐里撮影 / こいそ

毛利さんやってくれたな!

──舞台「オブリビオの翼」では、遺品に宿った人の“思い”を整理する黒鷺遺品整理舎を舞台にした物語が展開します。脚本を読んで、どのような感想を抱きましたか?

物に心が宿るという日本古来の考え方が物語に取り入れられていて、温かいストーリーだなと感じました。依頼人の思いを汲んだり、人の心を救ったりする描写があるのですが、コロナ禍になって以前より人との関わり合いが減ったこともあって、渇いた心が潤うような気持ちになりましたね。

──今回北村さんは、ある出来事をきっかけに人間に転生した天使・ルカ役を演じます。

劇中に登場するもう1人の天使・カシエルがわりとドライで、“天使らしい天使”な一方、ルカは天使にしては悩み事が多いというか(笑)、人間味のある天使だなと思いました。皆さんが想像する天使よりも親近感があって、人間に寄り添うことができるタイプの天使なのかなって。といいつつ、見た目は浮世離れしているので、ビジュアルと性格のギャップも楽しんでいただけるような役作りができたらと思います。

──ビジュアルといえば、北村さんとバディ役の仲田博喜さんによる実写ビジュアルと、マンガ「抱かれたい男1位に脅されています。」の桜日梯子先生によるイラストビジュアルが同時に公開され、話題になりました(参照:北村諒・仲田博喜W主演、舞台「オブリビオの翼」脚本・演出は毛利亘宏)。

舞台「オブリビオの翼」ビジュアル

舞台「オブリビオの翼」ビジュアル

舞台「オブリビオの翼」イラストビジュアル

舞台「オブリビオの翼」イラストビジュアル

桜日先生にイラストを先に描いていただいて、それに合わせてビジュアルを再現したんです。オリジナル作品だけどキャラクタービジュアルも公開されているから、ファンの人が「あれ? 『オブリビオの翼』って原作がある作品だったっけ?」とおっしゃっていて(笑)。そういう部分も含めて、ほかのオリジナル作品とは違うテイストの公演になるんじゃないかなと楽しみにしています。ビジュアルもそうですが、登場人物の設定についても細かく作り込まれていて、役作りのヒントになる要素がたくさんあるから、俳優としてはとてもやりやすいですね。

──数々の2.5次元作品や特撮ものを手がけてきた毛利さんの脚本・演出作品ということで、メディアミックス展開を期待してしまいます。

5月の「公演決定ニコ生特番」(参照:舞台「オブリビオの翼」ニコ生特番の配信決定、出演に北村諒・谷口賢志・毛利亘宏)で毛利さんとお話ししたのですが、「オブリビオの翼」は12話分の構想があって、今よりももっと物語を広げられるとおっしゃっていたので、皆さんの応援があればいつか実現できるかもしれません(笑)。

──毛利さん、さすがの構成力ですね。北村さんはこれまでに、毛利さんの作品に出演されたご経験がありますが、毛利さんの作品や、演出家としての毛利さんにどのような印象を持っていますか?

毛利さんの作品は観ていてワクワクするし、登場人物がどうしたいのか、物語がなぜそのように進んでいくのかがわかりやすくて、脚本を読むだけで頭の中にスッと内容が入ってくるんです。あと、登場人物の心情が本当に丁寧に描かれていますよね。かといって落ち着きすぎず、エンタメ性を取り入れることも忘れない。エンタメとして楽しみながらも登場人物にしっかり感情移入できる。そのバランス感覚がすごいですし、観客のことを考えて舞台を作っているんだなって思います。

演出家としては、基本的に自由に演じさせてくれますね。ポイントで「ここはもっとこうしてほしい」とアドバイスしてくださる感じです。昔は厳しい一面もあったという話を聞きますけど、僕が知り合った頃にはすでに穏やかな雰囲気になっていました(笑)。

──毛利さんは俳優の方々を信頼していらっしゃるんですね。「オブリビオの翼」でも冒頭からすでに、北村さんへの厚い信頼を感じるような、ルカの長い独白シーンがあるようですが……。

「毛利さんやってくれたな!」って思いました(笑)。期待してもらっているのを感じたので気張って臨まないと。冒頭に大きな見せ場を作ってもらったので、皆さんぜひ開演に間に合うように着席してください!(笑)

北村諒
北村諒

実を言うと演じてみたかった役は…

──今作では、黒鷺遺品整理舎の主人・黒鷺拓心役を演じる仲田さんと2人で主演を務めます。仲田さんのほかにも、拓心の弟・黒鷺克彦役の川隅美慎さん、古物商・弥勒喬士郎役の谷口賢志さんなど、共に作品を立ち上げるうえで心強いメンバーがそろいました。

博喜とガッツリ共演するのは舞台「真・三國無双」(2017年)以来で。博喜は真っすぐなお芝居をするイメージなので、今回はどんな役作りをしてくるのかワクワクしています。

──今回出演される皆さんは作品ごとにまったく違う表情を見せる方ばかりなので、観客としてもすごく楽しみです。

(辻圭介プロデューサー) 実は北村くんから「今回はゲスな役どころを演じてみたい」ってリクエストをもらっていたんですけど……。

そうなんですよ! 「クズの役をやってみたい」ってお願いしていたんですが、まさかまさか、天使の役が来ました(笑)。

──真逆でしたね(笑)。ちなみになぜそのような役にご興味が?

2.5次元作品や原作ものの作品で、キラキラした役や熱い役、クールな役をやらせてもらうことが多いんですけど、みんな根が“良いやつ”なんですよ! 口が悪くても仲間思いだったりとか。これまで演じたことがない役にもチャレンジしてみたいなと思ったのと、応援してくださっている方に普段あまり見せたことがない演技をお見せしたいと思って、「救いようのないクズの役がやりたいです!」とお願いしました(笑)。

──今後に期待ですね(笑)。

そういえば、少年社中の「天守物語」(参照:少年社中「天守物語」全出演者のビジュアル公開、特設サイトもオープン)で近江之丞桃六っていう酔っ払いのおじさんを演じたんですが、ウィッグを被っていてあまり顔が見えないビジュアルの役だったんです。それまで顔を見せない役を演じたことがなかったので、お芝居だけで役を表現するにはどうしたら良いかを探るきっかけになったし、何より役者としての力で勝負させてもらえたのがうれしかった。そういうチャンスを与えてくれた毛利さんには感謝しています。

──そういった機会を「うれしい」と捉え、ご自身の力に変えていけるのはとても素晴らしいことですね。

昔、「顔が良い」と言っていただくことを複雑に感じていた時期があって。それ以外の感想を引き出せていない自分も力不足だなと思っていたんですけど、歳を重ねていくうちに、「受け取り方は人それぞれ。劇場に足を運んでくださることがまずありがたい」と考えるようになったんです。今はとにかく、観てくださった方の心に残るお芝居がしたいなと思っています。

北村諒
北村諒

“新しい体験”をしてもらえる作品に

──「オブリビオの翼」では、“人はいつか死ぬ”ことや“忘れる”ことが大きなテーマとして扱われています。北村さんにとって“忘れたくても忘れられない出来事”はありますか?

“忘れたくても忘れられない”というのは嫌な思い出ということですよね? うーん、改めて考えてみると、嫌な思い出があまりないんですよ!(笑) “忘れたくても忘れられない”というわけではないんですが、役者を始めたばかりの頃に演出家の方から厳しいダメ出しをされて、それがすごく悔しかったのは今でも覚えています。実際、まだまだ下手くそだったから何も言えなくて。

──北村さんのお話を伺っていると、悔しさをバネにするというよりも、一旦受け入れて、ご自身の中でうまく消化することができる方なのかなと感じました。

そうですね。まずは受け入れることが多いかもしれません。何が良くなかったのか、何が原因だったのかを探ることはあるんですけど、基本的にポジティブ思考なので、心が折れることはあまりないんですよね。「今しんどくても、明日はきっと違うよな」と思うタイプ。良くも悪くも、忘れっぽいのかもしれないですね(笑)。「あれが良くなかったな」って反省しても、数時間後にはケロッとしてるというか。例えば、ダメ出しをもらったら忘れないようにメモを取って「次はこうやってみよう」と考えるようにしています。

──そんな北村さんが、ルカという役にどのようにアプローチするのかとても興味深いです。最後に、本作の上演を心待ちにしているファンの方々に向けてメッセージをいただけますか?

オリジナル作品ということもあって、どういう作品になるのか、お客さんの中でも期待と不安が入り混じっていると思うんです。でも、毛利さんが脚本を書いて演出して、このキャストで挑む作品が面白くならないわけがない! “新しい体験”をしていただけるような作品になると思うので、劇場で体感していただけたらうれしいです。

北村諒
北村諒

プロフィール

北村諒(キタムラリョウ)

1991年、東京都生まれ。2014年、「舞台『弱虫ペダル』インターハイ篇 The Second Order」で東堂尽八役を務め、注目される。自身が声優を務めるスマートフォンアプリ「あんさんぶるスターズ!」「あんさんぶるスターズ!!」の舞台化作品「あんさんぶるスターズ!オン・ステージ」「劇団『ドラマティカ』」では、ゲーム版と同じく鳴上嵐役を演じた。そのほか、主な出演作に「舞台『刀剣乱舞』」「『僕のヒーローアカデミア』The “Ultra” Stage」、HIPHOPメディアミックスプロジェクト「Paradox Live」などがある。10月に上演される「朗読×和楽器『天守物語』」に出演予定。