グランプリはどの団体の手に?関田育子・演劇ユニットせのび・白いたんぽぽ・スペースノットブランク・老若男女未来学園がしのぎを削る「かながわ短編演劇アワード2023」

神奈川・KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオを舞台に、新進気鋭の演劇人たちが40分以下の短編作品で競い合う「かながわ短編演劇アワード」。「演劇コンペティション」と「戯曲コンペティション」の2本柱で構成された本アワードでは、“今”を色濃く反映した、挑戦的な作品がそれぞれのスタイルで披露される。岡田利規をはじめとした豪華な審査員たちによる、白熱した公開審査会も見どころの1つだ。

ステージナタリーでは、「かながわ短編演劇アワード2023」の「演劇コンペティション」で上演審査に挑む関田育子、演劇ユニットせのび、白いたんぽぽ、スペースノットブランク、老若男女未来学園の5団体にインタビューを実施。応募理由や意気込みを通して、団体が目指す未来像も垣間見えた。

取材 / 熊井玲文 / 櫻井美穂

「かながわ短編演劇アワード」とは?

「かながわ短編演劇アワード2023」

2020年にスタートした「かながわ短編演劇アワード」は、神奈川県が主催する「かながわマグカル演劇フェスティバル」のメインイベントの1つ。「演劇コンペティション」と「戯曲コンペティション」から成り、事前審査で選出された団体と最終候補作は、いずれもKAAT神奈川芸術劇場 大スタジオで行われる公開審査会により、グランプリ、大賞が決定する。これまで、「演劇コンペティション」のグランプリをモメラス、安住の地、MWnoズ、「戯曲コンペティション」の大賞を大竹竜平、村田青葉、山縣太一が獲得している。

4回目の開催となる今回は、2023年3月25・26日に実施される。最終審査員を、「演劇コンペティション」では伊藤雅子、岡田利規、スズキ拓朗、徳永京子、矢内原美邦、「戯曲コンペティション」では北川陽子、詩森ろば、杉山至、西尾佳織、松井周が務める。本コンペティションは、実験的な作品が多く集まることが特徴で、審査員たちは「この作品をどのように観る / 読むべきか」と毎年熱く議論を交わすことに。第一線で活躍する演劇人たちによる作品分析にも期待しよう。

神奈川県国際文化観光局舞台芸術担当部長及び県立青少年センター参事で、本アワードのプロデューサーでもある楫屋一之は「どのようにすれば、舞台芸術がより面白いものになるのか、迷い戸惑いながら、舞台制作を巡る仕事を続けてきたように思える。『かながわ短編演劇アワード』の実施に当たっても、同じような思いを抱いて試行錯誤しながら進めてきた」と感慨を述べつつ、「このアワードを通して、今という時代に生きて在ることの意味を、多様な手法により鮮明に表出するアーティストたちとの出会いを望んでいる」と期待を明かす。また、応募作品の傾向について「身体と言葉の融合を基調としたパフォーマンスが、年々増えているように見て取れる。この実態をさらに先鋭的に捉えて、本アワードの企画・運営を推し進めていきたい」と語っている。

魅力的なのは賞金よりも…空間?
「演劇コンペティション」出場団体がアワードに期待すること

「演劇コンペティション」の賞金は100万円。事前審査で選定された関田育子、演劇ユニットせのび、白いたんぽぽ、スペースノットブランク、老若男女未来学園、そして大会を勝ち抜き“22世紀飛翔枠”として参加する神奈川県立座間総合高等学校演劇部、魔法少女JINDAIS☆(神奈川大学附属高等学校演劇部)の合計7団体が、グランプリの座を巡りしのぎを削る。

出場団体は1月後半に発表(参照:「かながわ短編演劇アワード2023」出演団体&最終候補作決定)。その数日後、ステージナタリーでは座間総合高等学校演劇部と魔法少女JINDAIS☆を除く5団体に、応募のきっかけや意気込みを聞いた。

関田育子

上演の前とあとで、お客さんの劇場の見え方自体が変わる作品にしたい

──本団体は、関田育子さんが公演ごとにクリエーションメンバーを募り、作品を上演する演劇ユニットです。今回は関田さんのほか、久世直樹さん、小久保悠人さん、長田遼さん、林純也さん、吉田萌さん、下地翔太さんと、クリエーションメンバーに集まっていただきました。

関田育子 こうしてみんなにも参加してもらったのは、私たっての希望です。というのも、私たちは“トップダウン的でない組織の在り方”を目指していて。こうした取材の機会を含む、創作におけるすべての業務をクリエーションメンバー全員で行うことで、作品に対して全員が同等の責任を持つことにつながると考えています。また、クレジットに関しても、私を含む、全員の名前をクリエーションメンバーとして並列しています。

関田育子「紙風船」より。(撮影:木元太郎)

関田育子「紙風船」より。(撮影:木元太郎)

小久保悠人 作品作りの中でも、その姿勢はすごく感じますね。演出の関田だけではなく、僕たち俳優も今舞台上で起きていることを把握できるよう、全員で代わる代わる客席から全体を確認しています。客席から全体を観られることで、見えてくるものもありますし、全員で意見を言い合って作品を作っているという感覚は強いです。

林純也 僕が関田さんの作品に関わるのは6年ぶりなのですが、そうした考え方に共感しますし、稽古も参加していて心地が良いです。誘っていただけてうれしかったし、純粋に楽しみでしょうがないです。

──クリエーションメンバー全員で創作を行うと、クリエーションにかかる時間も増えそうですね。

関田 確かにほかの現場より時間がかかるかもしれませんが、かけるべき時間だと感じます。というのも、メンバーそれぞれ違う活動の場があり、バックグラウンドも異なるので、クリエーションごとに時間をかけて、共通言語や物の見方をすり合わせていくべきだと思うんです。

──「かながわ短編演劇アワード」応募のきっかけは?

関田 魅力に感じたのは、KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオで上演できることですね。普段私たちは、劇場ではなくアートスペースなど、舞台面積が小さい空間で公演を打つことが多いので、劇場然とした場所でクリエーションしてみたい、という気持ちはありました。

吉田萌 関田育子の前々回公演「霊雨」(参照:関田育子がクリエーションメンバーと作り上げる「霊雨」延期公演が本日スタート)の会場は、東京・IZUMO GALLERYというちょっと変わった、劇場とは真逆の空間でした。今回は大きな空間なので、クリエーションがどう変化するかワクワクしますし、新しい空間とどのように向き合うのか楽しみですね。

──関田育子では、俳優の身体と劇場の壁や床が、観客にとって等価に見えることを目指す“広角レンズの演劇”の創作を目指されています。今回披露される作品も、その創作スタイルを色濃く反映したものになるのでしょうか。

関田 そうですね。上演の前とあとで、お客さんの劇場の見え方自体が変わる作品にしたいと思っています。40分までという規定があるので、短い時間の中で観客の皆さんとどのように空間認識を共有していけるか、これから考えていきます。

久世直樹 俳優の身体も個々で異なるので、全員で劇場空間を下見に行くことは必要だと思っています。その場で実際に立ったり動いたりしながら、みんなで検討していきたいですね。

──コンペティションという点に関してはいかがでしょうか。

関田 自主公演と異なるのは、やはり多くの人に観てもらえるということでしょうか。私たちを知ってもらうきっかけになるのもうれしいですし、また公開審査も、私たちが今どの地点に位置しているのか、いただいた評価を通じて考えることのできるチャンス。それも、「かながわ短編演劇アワード」に挑戦してみようと思ったきっかけの1つですね。

関田育子「波旬」より。(撮影:小島早貴)

関田育子「波旬」より。(撮影:小島早貴)

──最後に「かながわ短編演劇アワード」を通して、達成したいことがあれば教えてください。

下地翔太 僕が関田さんと前にご一緒したのは「演劇人コンクール2022」。そのときは受賞ならずで、個人的に悔しい結果だったので、今回は良い結果を得たいと思っています! ……と言うと、僕だけガツガツしているように見えてしまいますが(笑)、とにかく団体の魅力というか、「関田育子ってこういう団体だよ」ということを、観に来てくださった方にわかってもらえるように作品を作っていきたいです。

長田遼 私が初めて関田さんの作品に参加したのは、2017年に上演された「驟雨」なのですが、そのときの会場があうるすぽっとで。久しぶりにこれだけ大きい空間で作品を上演できることにワクワクしますし、この5年で、どれくらい自分たちがパワーアップできたかもお客さんに提示したいですね。

プロフィール

関田育子(セキタイクコ)

演劇ユニット関田育子として、クリエーションメンバーと共に活動している。俳優の身体と劇場の壁や床が、観客にとって等価に見える“広角レンズの演劇”を提唱し、その実践として演劇作品の創作を行っている。近年の舞台作品に「急な坂ショーケースvol.3」参加演目の「波旬」、「霊雨」、「演劇人コンクール2020」参加演目の「紙風船」など。また、2021年に映像作品「盆石の池」を発表。

演劇ユニットせのび

先も見据えながら挑みたい

──岩手県盛岡市を拠点に活動されている演劇ユニットせのびは、2016年の結成以来、兵庫県豊岡市で行われる「豊岡演劇祭」や東北6県で行われる「ミチゲキ2022」に参加するなど、県外にも活躍の場を広げています。また主宰の村田青葉さんは「かながわ短編演劇アワード 2021」の「戯曲コンペティション」で大賞を獲得しています。そもそもどのような経緯でユニットを立ち上げられたのでしょうか?

村田青葉 演劇を始めたのは、大学入学後です。僕自身は宮城県仙台市出身なのですが、盛岡にある岩手大学に進学し、4年生のときにユニットを旗揚げしました。旗揚げしたタイミングで、上演作品をCyg art gallery(編集注:岩手県にある、東北の作家にフィーチャーしたギャラリー)の清水真介さんに観ていただく機会があり、それをきっかけにギャラリーで公演を打たせてもらったり、ダンサーや詩人の方とのコラボレーション公演の演出を任せてもらえるようになりまして。当時は「えっ、僕が!?」と、プレッシャーを感じることもありましたが(笑)、そういった経験のおかげで、ただ演劇を続けていくだけではなく、志を外に向けていくことの重要性にも気づけました。

演劇ユニットせのび「スコープ」より。

演劇ユニットせのび「スコープ」より。

──岩手を拠点に活動することについては、どのように感じていますか?

村田 岩手を拠点にしているのは、戦略として考えているわけではなく、僕たちが作りたい作品を一緒に作っていけるメンバーが岩手にいるからですね。世の中の動きを見ていても、東京以外でムーブメントが起こっていることも多くありますので、このままでも大丈夫だと自分に言い聞かせながらやっています。

──今回上演されるのは、2022年9月にスタートした「スコープ」シリーズの1作です。

村田 「スコープ」とは、個人の限定された視界から、外に広がる世界のことを想像していくというテーマのもと、ある街で起こる人々の話の連作として始めました。これまでに「ストア」「タウン」「パーク」「グローブ」を上演しており、また3月上旬に行われる若手演出家コンクール2022では「アーバン」を披露する予定なのですが、今回はそれとは別の作品となります。

──今回の作品では、“なんとなく見過ごしてしまっている都市に対する劣等感、あるいは地方への眼差し”をテーマに、都会の学校に進学した大学生が電車に乗っているシーンから始まります。

村田 劇場がある神奈川県横浜市は、僕たちが普段活動している盛岡とは人口密度や建物の多さなど、街としての規模感が違います。なので、その感覚を反映させるのが自然かなと。また、(「かながわ短編演劇アワード 2021」「戯曲コンペティション」大賞受賞作の)「@Morioka(僕=村田青葉の場合)」の題材もそうだったのですが、僕自身、都市に対するコンプレックスはそれなりにあるようで。今回上演する作品では、“場所と場所を行き来した中で見える向こう側”と、“中に入ったからこそ見える向こう側”を描きたいと思っています。

演劇ユニットせのび「スコープ」より。

演劇ユニットせのび「スコープ」より。

──「戯曲コンペティション」での受賞経験がある村田さん。「演劇コンペティション」にはどのような気持ちで臨もうとしていますか?

村田 「戯曲コンペティション」で賞をいただいたことはもちろんうれしかったのですが、受賞直後は、「調子に乗るなよ」と自分に言い聞かせてしまって、あとから「喜べるときに喜んでおけば良かったな」と反省しました。前回は、やんちゃに、どうにでもなれ!という思いで応募していたのですが、今回はこれから先も見据えながら参加できればなと思っています。

──“これから先”については、どのようにイメージされていますか?

村田 僕たちの最終的な目標は、お客さんがわざわざ岩手までお芝居を観に来るようなユニットになること。そのためにはまず、観てもらわないといけない。こうした県外のコンクールに参加し、まだ僕たちを知らないお客さんに観ていただくことも、目標への一歩だと思っています。

プロフィール

演劇ユニットせのび(エンゲキユニットセノビ)

2016年、村田青葉を中心に岩手県盛岡市で結成された演劇ユニット。村田は「@Morioka(僕=村田青葉の場合)」で、「かながわ短編演劇アワード 2021」「戯曲コンペティション」で大賞を受賞。