観劇の思い出をより劇的に!プロカメラマンと行く“映える”平成中村座

10月に開幕し、連日多くの観客が訪れている平成中村座。浅草寺境内というロケーション、芝居小屋のムードたっぷりな場内に、思わずスマホでパシャリ!……とやってはみたものの、自宅で見返して、「あれれ?」と残念な気持ちになってしまったことはないだろうか。

本特集では、平成中村座での観劇の思い出をより特別なものにすべく、プロカメラマン・平岩享に、“映える”平成中村座の撮り方を伝授してもらった。一眼レフで撮影したバージョンと、スマホで撮影したバージョンを掲載しているので、来場時にはぜひ参考にしてほしい。また特集後半には観劇がさらに楽しくなる“勘三郎の目”や、ここでしか買えないグッズの情報も紹介している。

取材・文 / 熊井玲コラム / 櫻井美穂撮影 / 平岩享

平成中村座に到着!まずは外観を撮影しよう

浅草駅から人ごみでごった返す仲見世通りを抜け、浅草寺の境内に入ると、一気に視界が広がった。柱の朱色と屋根の鈍色が空の青さを引き立て、観劇への期待がいっそう高まる。本堂の脇を抜けて裏側に回り込むと、樹々の間から平成中村座の柿色と白の幟が見えた。正面玄関前、「平成中村座」の看板下でまずは1枚パシャリ。すると、カメラマンの平岩享さんが笑顔で登場した。実は数日前に偶然、平成中村座を訪れていた平岩さん。「こっち側から撮るとスカイツリーが入って良いですよ」と、さっそく正面から左側に回り込んでベストポジションを教えてくれた。スカイツリーが近い! 平成中村座の幟も浅草寺も画角に入る! そしてこの青空! 平岩さんを真似てスマホを向けてみたが、やっぱり何かが違う。

一眼レフで撮影した平成中村座の外観。スカイツリーや浅草寺も入って浅草感バッチリ。

一眼レフで撮影した平成中村座の外観。スカイツリーや浅草寺も入って浅草感バッチリ。

「平成中村座と浅草寺の間に綺麗にスカイツリーが入る場所を自分で動いて探して、見つけたときの喜びを写真に撮ってみましょう」(平岩)

なるほど、いきなりプロの実力を見せつけられてしまった。

一眼レフで撮影した平成中村座の扉前。

一眼レフで撮影した平成中村座の扉前。

一眼レフで撮影した平成中村座の扉前。

一眼レフで撮影した平成中村座の扉前。

入り口を入って劇場の扉前へ。平成中村座の提灯、「平成中村屋」と書かれた酒樽、お土産屋さん……いやが上にも気分がアガる。平岩さんはまず酒樽を右端に捉えた構図で撮影したあと、反対側に立って、五重塔を入れた構図で撮影した。うーん、同じ空間でも全然見え方が違う。中村屋の定紋・角切銀杏と提灯を青空背景で捉えたカットは、まるで絵のようだ。ちなみに同じ場所をスマホで平岩さんが撮ったものを見せてもらうと、これはこれで、画面いっぱいに情報が詰まっていて面白い。

「場所の雰囲気が伝わる写真ってコミュニケーションツールとしてすごく便利ですよ。友達や家族にこんな感じの入り口で、お土産屋さんがあってとか説明できると楽しさが倍増します」(平岩)

いよいよ劇場の中へ…1階の撮影にチャレンジ

いよいよ劇場の中へ。目に飛び込んでくるのは赤い提灯の連なりと、客席中央に吊るされた平成中村座の大提灯だ。ああこの迫力、全部1枚の中に収めたい! スマホで撮ってみると、左右の提灯と中央の大提灯をバランスよく入れるのがなかなか難しい。平岩さんは何度か立ち位置を変えて撮ったのち、ベストポジションを見つけて、そのまま何枚かシャッターを切った。続けて上手から下手へと移動し、今度は赤い提灯を手前に置いた構図に挑戦。客席に座った感じで、下から舞台を見上げるように撮るのも良いけど、役者さん目線で花道を入れたり、客席後方の角から“提灯大三角形”を捉えたりすると、平成中村座の違う表情が見えてくる。やっぱりプロの技!

一眼レフで撮影した平成中村座の1階。

一眼レフで撮影した平成中村座の1階。

iPhoneで撮影した平成中村座の1階。

iPhoneで撮影した平成中村座の1階。

「中央の大きな提灯と劇場を囲むようにある赤い提灯が印象的な劇場をどう切り撮るか。構図を工夫したり、前ボケを作ったり。写真に正解はないので自由に楽しんでみてください。わからなければ良いなと思う写真を真似てみるのも楽しいですよ」(平岩)

撮影の途中、“勘三郎の目”を背負ったお茶子さんに遭遇。うれしくてお茶子さんの肩に寄って撮影したくなったが、平岩さんが撮ったのは、“勘三郎の目”越しの大提灯! 平岩さん、さすがです。

高さが違うとどう変わる?2階からの撮影にもチャレンジ

続けて2階に移動。1階で見たときと比べて、当たり前だが大提灯が近い。また1階でチャレンジしてみたときより、全体を入れた構図が撮りやすそうに感じた。憧れのお大尽席の近くに立ってみると……さすがに全体がよく見える! いつかここで観てみたいなあ、という願いも込めてパシャリ。その後、大提灯の迫力をなんとか撮りたいとチャレンジしてみたが、大提灯だけ撮ろうとすると、どうものっぺりとした印象になってしまい、うまくいかない。劇場の上空をほんのりと淡黄色に照らす、あの温かさも一緒に撮りたいんだけどなあ……と思って平岩さんのほうを見ると、平岩さんは赤い提灯越しに大提灯を捉えていた。

赤い提灯越しで捉えた平成中村座の大提灯。迫力が伝わってくる。

赤い提灯越しで捉えた平成中村座の大提灯。迫力が伝わってくる。

「大提灯だけを撮るのも良いのですが、手前に前ボケで赤い提灯を入れると面白い写真が撮れることがあります。赤色と白色の提灯と黒い中村座の文字が印象的な1枚が撮れました」(平岩)

撮りたいものをより良く見せるには、その前後左右を見回して、あえてほかのものを入れる、という手もあるんだなあ。ちなみにスマホで撮るときはフィルタで遊んでみるのもオススメ。例えばモノクロにしただけで、定式幕の印象がグッと変わった。

2階からiPhoneで平成中村座の全体を撮影。フィルター機能でモノクロにしてみた。

2階からiPhoneで平成中村座の全体を撮影。フィルター機能でモノクロにしてみた。

2階からiPhoneで平成中村座の全体を撮影。カラーだとこんな印象。

2階からiPhoneで平成中村座の全体を撮影。カラーだとこんな印象。

「モノクロにすると色の情報がなくなる分、写真の印象が変わったりします。赤い提灯に目が行きがちですが、モノクロにすると劇場全体の雰囲気、花道、大提灯そして定式幕に自然と目がいきますよね。シンプルに格好良い劇場の世界観を伝えることが出来ます。しかもフィルターで簡単に出来ちゃうのもいいですよね」(平岩)

撮影を終えた平岩さんは、最後に劇場全体を撮るときのポイントも教えてくれた。

「劇場全体の構図で撮影するときのポイントは、ズバリ一番広角で撮ることです。まずは真ん中から素直にどーんと撮ってみましょう。その後は右端、左端に移動したり舞台側に移動して観客席側をそれぞれ同じようにどーんと撮る。そうすると自分が良いって思う構図が見つかるかもしれません」(平岩)

はい! チャレンジしてみます! 平成中村座に来場の際は、ぜひあなたの観劇の思い出も込みの、特別な1枚を撮影してみては。

勘三郎の目で撮る

劇場には、故・十八代目中村勘三郎の目が隠れている。比較的見つけやすい場所から、「こんなところに!?」と驚く場所まで、劇場中に潜む“隠れ勘三郎”は全18種類。出演者や来場者を見守る勘三郎の視線を感じながら、見つけたらカメラを構えてみよう。編集部はこの日、合計11の勘三郎の目を発見。寄りで撮ると眼力が引き立ち、引きで撮ると表情が生まれる。

勘三郎の目

勘三郎の目

お土産もお忘れなく

劇場内の売店見物も、平成中村座観劇の楽しみの1つ。ここでしか買えない平成中村座オリジナル商品は、舞台写真入れや水筒、手ぬぐい、しおり、記念磁石、マスキングテープなど充実のラインナップ。マスク用のアロマシールは、中村座の定式幕カラーのデザインと、中村屋の定紋・角切銀杏デザインの2タイプがセットで売られている。また演目解説やあらすじを収録した筋書も絶賛販売中。飲み処・平成中村座では、“中村屋ごのみのお飲み物”として、演目にちなんだドリンクを飲むことができる。買ったドリンクは、席に持ち込みOKだ。

プロフィール

平岩享(ヒライワトオル)

1974年、愛知県生まれ。フォトグラファー。時代の顔となるポートレートを数多く撮影。岩井秀人が代表を務める株式会社WAREのサポートメンバー。近年はドローンを使った動画制作などにも取り組んでいる。ステージナタリーにて俳優・竪山隼太のカメラ連載「隼太からHAYATAへ」の講師を務めた。