「THE SECOND~漫才トーナメント~」で中堅・ベテラン芸人が注目される一方、若手芸人界も「UNDER5 AWARD」「UNDER 25 OWARAI CHAMPIONSHIP」といった賞レースが開催され、盛り上がりを見せている。このインタビュー企画では、ネタ以外のパーソナルな部分を知る機会の少ない芸歴5年目以下の“超若手芸人”に注目。芸人を志したきっかけ、コンビ結成の経緯、ネタへのこだわり、憧れの先輩などを掘り下げていく。
記念すべき初回は、NSC東京校24期生の首席であり、「UNDER5 AWARD」の初代王者・
取材・
最初の印象は「薄っぺらいのに太っている奴」
──お二人が「UNDER5 AWARD 2023」で優勝してから数週間が経ちました(※取材は6月26日に実施)。優勝直後はまだ実感が湧いてなさそうでしたが、そこから心境の変化はありましたか?
古市勇介 周囲の芸人たちに大会のことをめっちゃ言ってもらえるので、「あぁ肩書きがついたんだな」という実感が湧いてきています。
箕輪智征 先輩たちがお祝いしてくれてうれしいです。
──そもそも、お二人がお笑いに目覚めたのはいつ頃だったのでしょうか?
古市 小学生のときに「M-1グランプリ」(ABC・テレビ朝日系)や「はねるのトびら」(フジテレビ系)を観るようになって。2002年くらいだったと思います。その頃から、将来は芸人になりたいなとぼんやり考えてましたけど、まだテレビに出てる芸人くらいしかわからない感じでした。
箕輪 僕はアンタッチャブルさんを好きになったのが入り口で、中学生のときはTSUTAYAのお笑いコーナーでサンドウィッチマンさんの単独ライブDVDとかを借りてました。ネタ以外はあまり興味がなくて、とにかくネタばかり見てましたね。芸人になろうと決めたのは大学で就活をしていた頃で、漠然と「仕事への情熱がなくなりそう」「働くのは無理かな」と思ってNSCに入りました。
古市 NSCに入って最初に組んだコンビは1カ月くらいでほぼ何もやらずに解散しちゃって。当時、箕輪はテヅルモヅルというコンビを組んでいて、それがすごく面白かったんです。1個1個のボケのワードが強いというか。とあるライブの打ち上げで箕輪としゃべってみたら、普段から面白い奴だなと思ったので「コンビ組もうよ」って誘いました。
箕輪 そのときはまだコンビだったんですけど、ネタ合わせが遊びになっちゃうことが多くて悩んでいたので、じゃあ今のコンビを解散して古市と組もうかなと思いました。
──そのとき組んでいるコンビを解散するくらい、古市さんは魅力的だった?
箕輪 うーん……どうだろう。人気者っていう感じでした。よくいるお調子者でペラそうな奴。
古市 ペラそうな奴!? 薄っぺらそうな奴ってこと!?
箕輪 でも体だけはブクブクと太っている。薄っぺらいのに太っている奴。
古市 ひどい印象ですね。よく組んだな!
箕輪 実際のところ、声質はツッコミに向いてそうだし、表情も豊かだったので、ネタさえよければいけるんじゃないかと思ってました。
──組んだ当初から、今のように漫才中心だったんですか?
古市 最初はコントでした。合宿のときに漫才をやったら、それで選抜に選ばれたので、そこから漫才ばかりになりました。準備が楽だし(笑)。
ネタ見せの授業で2択を間違え続けた
──養成所時代で記憶に残っている出来事はありますか?
古市 ネタ見せの授業で講師の方の反応があまりよくなくて、箕輪が下を向いて落ち込んじゃったときがあったんです。講師から「別に悪いと言ってるわけではないから元気出してよ」って励まされたら、箕輪がめっちゃ騒ぎ出して。そしたら講師に「いや、そこはもっと落ち込んだほうが笑いになるよ」ってダメ出しされて、まず2択を間違えたわけですよ。で、箕輪がまた落ち込んじゃうんですけど、講師が「そこは逆に明るくしたほうがいいでしょ」ってだんだん本当に怒ってきて。箕輪が2択を間違え続けた事件(笑)。NSCってこういうことで怒られるんだって思いました。
──講師の方からすると裏切っていくべきだったんですね。
箕輪 でも“逆の逆”っていうパターンもありますから。
古市 ただ落ち込んでただけだろ!
──箕輪さんは何か思い出はありますか?
箕輪 古市の花粉症がひどくなりすぎて、全員に肺炎を疑われるくらい咳してた時期があって。古市が横断歩道を渡ろうとしたとき、咳の勢いで半分くらい進んで、停まってた車のボンネットに座ったんです。あれは記憶に残ってますね。
古市 何それ!? そんな記憶ないけど……。
箕輪 あとは一発目の自己紹介で全裸になってめっちゃ怒られてました。
古市 それは本当です……。
──全部脱いだんですか?
古市 はい……。
──どういう意図だったんですか?
古市 いやー、あれは面白いことをしようとかじゃなくて……。
箕輪 じゃあ余計ダメだろ。
古市 人見知りなので、何か変なことをすれば、みんなが話しかけてくれるんじゃないかと思ったんです。蓋を開けてみると、“よくない奴”ばかり話しかけてきました(笑)。
「ちゃんと授業の成果が出た」NSC大ライブ優勝
──NSCの首席を決める「NSC大ライブ」では見事優勝しました。在学中から有力視されていた?
古市 されてましたねー!(笑) トップ3組くらいの中には入ってたかと思います。
──あとは灘ジェニー(狛犬・櫛野とゆっこ夏目が組んでいたコンビ)がすごいという噂も聞いてました。
箕輪 そうですね。灘ジェニーが最有力だったと思います。
古市 僕らは灘ジェニーを倒そうと思ってずっとやってました。いざ優勝したときは「ここから大変なんだろうな」と思って、割と冷静でした。もちろん「いいレールに乗ったな」という喜びが一番強かったですけど。
──NSCの首席になる人は学生芸人出身やフリーでお笑いをやっていた人が多い中、お二人は完全にNSCでお笑いをやり始めたんですよね?
古市 そうなんですよ! これ、本当にすごいことだと思うので、ぜひいろんなところで書いてください!
箕輪 ちゃんと授業の成果が出た人です(笑)。
古市 めちゃめちゃ授業に出ていたので。尖らずにちゃんと言うことを聞いてやってました。もはや進研ゼミみたいでした。
古市がノるのが一番大事
──現在はどのようにネタを作っているんでしょうか?
箕輪 普段からボケを思いつき次第メモして、それをネタに詰め込んでいく感じです。構成がうまいほうではないという自覚はあって、システムから先にできるのは稀。基本的に大喜利の回答をぶっ放していくだけのネタが多い気がします。2022年の9月まで同期のゼロカランと「漫才鬼」という新ネタを5本下ろすライブを毎月やってて、そのときは新ネタを間に合わせるだけでいっぱいいっぱいなので、日常的にボケを溜める習慣がつきました。
──ネタに対するこだわりはありますか?
箕輪 「ボケが被らないこと」「どんなにいい部分でも、古市がNOを出したらそれは最終的に捨てる」ですかね。それで捨てることはけっこうあります。
──古市さんがNOを出す傾向が多いのはどんなボケですか?
古市 難しすぎたりしたら「わからない」って言うかもしません。「どういうこと?」ってなったやつが切られることが多いです。
──古市さんが客観的な視点を担ってると。
古市 あんまり難しいことがわからないんで。僕が(笑)。
箕輪 古市がよくわからなかったボケを入れてみると、お客さんウケが悪いことが多い。古市がノるのが一番大事なんだなって思います。
<後編に続く>
金魚番長
箕輪智征(ミノワトモユキ)
1994年9月12日生まれ、東京都出身。
古市勇介(フルイチユウスケ)
1994年4月15日生まれ、東京都出身。
略歴
NSC東京校に24期生として入学した箕輪智征と古市勇介が結成。2019年2月に「NSC大ライブTOKYO 2019」で優勝し、同年4月にデビュー。神保町よしもと漫才劇場を拠点に活動しており、「前略、西東さん」(中京テレビ)や「有田ジェネレーション」(TBS)といったネタ番組に出演している。2023年6月、芸歴5年目以内の若手芸人を対象とした賞レース「UNDER5 AWARD 2023」で優勝した。
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平島 徹 @toru_hirashima
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