初めてのことに緊張や戸惑いはつきもの。期待に胸を膨らませて臨んだのに、想定外のハプニングに見舞われて大失態を犯してしまうこともある。そんな初々しい経験の中から「初単独ライブ」の記憶を掘り下げる「初単独メモリーズ」。今回は
文
面白いけど、面白いだけだよね
単独公演に力を入れよう。
そう思い始めたのは、それまで所属していた事務所であるソニーを辞めた時でした。それまでにもソロライブは何度か行っておりましたが、それはひたすら賞レースに向けてネタを作り、そのネタをただやりまくるといったライブで、僕にとって単独公演と呼べるものではありませんでした。もちろん、そういう在り方も一つだとは思います。実際、その頃の僕らはそれが必要だと思い開催しておりました。その頃は、単独公演なんてやってる場合じゃない、と。そういうマインドだったのです。
しかし、事務所を辞め、フリーになり、自分達の力で道を切り開いていかなければならないとより強く思った時に、僕らには何か、僕らが僕ら自身を確実に誇れる、僕らだけのシンボルが必要だと思ったのです。そして、僕らが他の芸人より目立てる可能性があるものは何かを改めて考え、出した答えが、“ネタ” でした。ネタを大切にしよう。ネタで誰も手の届かない所に自分達の“城” を築こう、何者にも脅かされない僕らの聖域を。そう思ったのです。
そうして行ったのが第一回単独公演「キュウの新ことわざ辞典」でした。
その頃の自分なりにタイトルや構成も考え抜いて、フライヤーや見せ方にもこだわり、ネタを沢山やりました。単独公演に力を入れようと思い始めてからの、初めての単独公演。それにしては自分の中で満足したものが出来たつもりでした。自分の中では。
「これはまだ、ただやりたいネタを、ただやっただけって感じのイメージだね」
そのライブを観てくださった信頼する作家Yさんが言いました。認めたくなかったけれど、確かに僕もそうだと思いました。でも、それではダメなのか?という思いも少しありました。いや、確かに、もちろん、そういう単独公演でも間違いではないのは分かっているけど、確かに。
「面白いけど、面白いだけだよね」
そう。でもそれでいい人もいる。でも。
僕はそれを聞いて、僕らはそれではダメだよな、とはっきり思いました。僕らがやるお笑いは、そこで終わるお笑いじゃない方がいい。言われてみれば当たり前。ただ面白いものは皆やってる。面白いのは当たり前のプロの世界で、ただ面白いだけではまだ何者にもなれてはいない。当たり前。自分達だけの城は、そのもっと先にしか建てられない。しまった、気付いてなかったけど、僕サボってたな。そう思いました。単独公演に力を入れると決めたのに、全然力を入れられていなかったのです。
「私は全てに理由が欲しい」
そうそれ。分かります。確かにそう。だって僕自身が観たいものもそういうものだから。そして、他の芸人は寧ろそういうものを“洒落臭い”と言ったり、または“考えるのが面倒臭い”という思いで避ける。やらない。ならば、
僕らは、それをやろう。
シンプルにそう思いました。
タイトルや構成、全てに意味を持たせて、音楽も毎回オリジナルのものを使い、必要なものを詰め込み、無駄を全て省き、ここまで面倒なことは誰もやらないだろうな、というところまで考えてやってみよう。面倒臭いけど。だからこそ。だって僕自身が観たいものもそういう“考えられたもの”だから。
そうしてある作家Yさんの言葉で、僕の単独公演への思いはもう一つ成長することができたのです。そして、その思いはすぐに次の単独へと向けられ、そうして出来たのが、第二回単独公演「時空無きモノ」でした。とさ。
ぴろ
1986年5月4日生まれ、愛知県出身。2013年5月に相方の清水誠とQを結成。解散を経て2015年5月に再結成し、コンビ名をキュウに改めた。2018年4月に初単独公演「キュウの新ことわざ辞典」を開催。同年9月よりタイタンに所属している。「M-1グランプリ2020」では準決勝に進出し、敗者復活戦で注目を集めた。単独公演では、ネタはもちろん練り上げられた構成で独自の世界観を演出。U-NEXTにて第4回公演まで配信している。YouTubeチャンネル「キュウ お笑いオフィシャルチャンネル」、オンラインサロン「キュウの実験的サロン『研Q室』」を展開中。
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