初めてのことに緊張や戸惑いはつきもの。期待に胸を膨らませて臨んだのに、想定外のハプニングに見舞われて大失態を犯してしまうこともある。そんな初々しい経験の中から「初単独ライブ」の記憶を掘り下げる「初単独メモリーズ」。今回登場するのは、今年1月に芸歴20周年を記念し、自身初となる大阪・なんばグランド花月での単独ライブを成功させた
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あの単独があったから今がある
僕の初単独は2011年でした。当時はまだ漫才劇場がなく、モンスターエンジンさんやジャルジャルがトップの5upよしもとが大阪の若手の劇場で、僕はその劇場のメンバーになれなくて、主な活動拠点はインディーズライブでした。あの頃の大阪は今よりもインディーズライブの数や会場、派閥が沢山あり、吉本も「ほんまはあかんねんけど、劇場所属じゃないオーデイション組はしゃあない。」的な寛容さがありました。そして月20本ほどのインディーズライブに出てネタを磨いていく中で、1本だけダントツにウケるネタがあり、そのネタで「R-1ぐらんぷり2011」の決勝に進出することができました。
しかし、決勝に行ってからの1年は、それ以降思うようにウケるネタもできず、仕事もなく、別に先輩にハマることもなく「俺本当に決勝いったんかな?」と思うような状況でした。決勝に行っても報われない中で、初めて決勝に行った半年後には、自信と情熱を失いながらただのウンコ製造機として生きていました。それでも次の「R-1」が迫り、「勝てるようなネタがない。けど、次決勝行かなかったら去年よりも成績が下がることになり、今よりもさらに状況が悪くなる」と追い込まれたウンコ製造機は、2011年の12月に自分で難波にある「白鯨」というキャパ40人のライブBARを押さえてインディーズライブを打ちました。
それが僕の初単独「フォークタワー」でした。タイトルは、ファイナルファンタジー5に出てくるダンジョンの名前から取りました。「R-1」で勝てる究極魔法のようなネタが欲しいという厨二病全開の理由で。
インディーズライブにはたくさん出ていましたが、自分でライブを主催したこともなかったので、初主催、初会場押さえでもあります。インディーズなので作家をつけるとかもなかったので、自分で手書きのポスターを作ってインディーズライブに出るたびにビラ配りして、前売りチケットとかもなかったので当日ネタを10本するだけのシンプルな単独でしたが、それまでネタを作るペースが月に1本だったので、とてつもなくしんどかったことを覚えています。誰に頼まれた訳でもないのにバイトを休んでまで、勝手に自分で作ったノルマで勝手に追い込まれてるのはどういうことなのか最後まで意味がわからなかったです。
芸歴8年目とかでしたが、その時ほどネタのことだけを考えて過ごしたことはありませんでした。そら同期(ジャルジャル、銀シャリ、etc)に差をつけられまくるわ…。かたや「めちゃイケ」メンバーになったり「M-1」ファイナリストになってテレビ出まくってる中、バイトのベッドメイキングで「エース」というあだ名で呼ばれ、修学旅行の地獄フロアを任されている場合ではない。ただ、最初から努力していても彼らとは元々の才能に差がありすぎるため、全く同じ結果になっていそうでもありますけども。
話がそれましたが、初めての単独に向けて、今までとは比べ物にならない程ネタにめちゃくちゃに向き合い続けました。最後の方はネタのこと考えすぎて全身の血管に文字が流れているような感覚になりました。ほんまにほんまに。それでなんとかネタを10本作り、何人入るかわからなかった集客も、当日25人ほど来てもらえました(40人で満席になる会場だったので、埋まってる感出てた)。
肝心の内容は、構成もへったくれもないストロングスタイルで、VTRもなく、ネタ、暗転、ネタ、暗転の連続で10本。
着替えがある時だけ後輩の矢野号にトークでつないでもらいつつ、夢中でネタを駆け抜けた記憶です。あまりの駆け抜けっぷりに、次のフリップを用意している暗転中に「なんかウォーターボーイズみたいやな」と青春を感じたりもしました。しかし、「R-1」の勝負ネタを生み出すために決行した単独ライブでしたが結局使えそうなネタはありませんでした。それでも、単独ライブを打ったことにより、お笑いに対する情熱だけは取り戻せました。あれがデカかった。
おそらくあのまま単独を打ってなかったら、多分お笑いへの情熱を失い切ってゆっくり辞めていってたと思います。究極魔法はなかったけど、エリクサーで回復できたみたいな。それで情熱を取り戻してネタ作りを続けた結果、なんとか次の「R-1」予選までに勝負ネタが生まれ、次の年も決勝に進むことができました。その時に繋がった首の皮で今もお笑いを続けています。なので初単独は、僕にとっては芸人生命を繋いでくれた思い出です。
その後、単独ライブはライフワークのようになり、時には毎月単独ライブを行ったりしながら、何十回か単独ライブを行い、ついに今年はNGKでの単独ライブを実現できました。2階席まで、ほぼ満席のお客さんに拍手で迎えられた時に、キャパ40人ほどの会場で25人ほどのお客さんで始まった初単独の光景を思い出しました。あの白鯨から繋がってNGKまでたどり着いた事に、少し自分を肯定できた気がします。
そして、この度大阪から東京に拠点を移すことになりました。激戦区に自ら飛び込む事に。天才たちが蠢く中、一体何が自分にできるのかわかりませんが、ネタと単独ライブは大事にして、今後も細々と続けていきたいと思います。
初単独の思い出、というテーマですが、囚人の手記のようなテンションで綴ってしまいました。
ヒューマン中村(ヒューマンナカムラ)
1983年9月8日生まれ、石川県出身。NSC大阪校25期生で、2009年にピン芸人として活動を開始した。「R-1ぐらんぷり」では2011年から2015年、2020年にファイナリスト。2021年、芸歴11年以上の芸人を対象とする「R-1ぐらんぷりクラシック」でMVPを獲得した。漢字ネタを書籍化した「おもしろ漢字辞典 こんな漢じでどうですか?」(KADOKAWA)を2022年に発売。2024年1月に芸歴20周年を記念し、自身初となる大阪・なんばグランド花月で単独ライブを成功させた。2024年6月に活動拠点を東京に移す。吉本興業所属。
ヒューマン中村単独ライブ「其々模様」
日時:2024年5月19日(日)20:45開場 21:00開演
会場:大阪・よしもと漫才劇場
料金:2000円
チケット:FANYチケットにて販売中。
ヒューマン中村卒業公演「卒業~BIG LOVE~」
日時:2024年5月31日(金)20:45開場 21:00開演 22:00終演
会場:大阪・よしもと漫才劇場
料金:前売1300円 当日1600円 / 配信1200円
チケット:FANYチケットにて4月11日(木)11:00~4月15日(月)11:00に先行抽選販売、4月20日(土)10:00に一般発売・配信チケット発売。
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