事務員G|演奏者として、イベント主催者として、“やれないことをやってきた”10年を振り返る

演奏者としての事務員G

──ボカロ曲や“歌ってみた”動画に大きな注目が集まる一方、事務員さんのような楽器の演奏者にとっては、この10年はいかがでしたか?

事務員G

“演奏してみた”というカテゴリができたのが2007年頃なんですけど、できた当時は今よりもっと活発だったと思います。例えばアニメのオープニング曲に合わせて楽器を弾く人、コスプレで演奏する人、楽器を使って一発ネタを披露する人、みたいにいろんな人がいろんな動画を上げていたのが2007年当時だったと思います。

──今は事務員さんやまらしぃさんなど、一部の演奏者は注目を集めていますが、“演奏してみた”動画を投稿する人の数は減ってしまったと。

そうだと思います。すっごい狭まって、一部の人になっちゃいました。2008、2009年頃に“演奏してみた”をアップロードしていた人たちが、今やスタジオミュージシャンだったり、シンガーの方のサポートメンバーになったりしていることもあって。みんな動画とかをアップしなくなってしまったのかもしれませんね。でも最近またちょっと賑わいを取り戻してるような気もしますよ!

──事務員さんは「1人で演奏してみた」という動画から、いつしかピアノの演奏者として認知されるようになりました。

同時演奏で注目していただけたのはうれしいけど、これをずっと続けていってもしょうがないし、後に続く活動にしたかったからピアノを中心にしようと決めてメドレー動画を撮るようになりました。僕、実は自分では「ピアニスト」と名乗っていないんですよ。「ピアノ演奏者」とか「ピアノ弾き」とか、そういう言い方をしています。なぜかと言うと「ピアニスト」ってちょっと仰々しい感じがして。それに僕はピアノを使って自己表現をしている面もありますが、あくまでみんなと楽しむためにピアノを使っているだけなんです。僕が最初に投稿した動画がピアノだけじゃなくて6つの楽器を演奏する動画だったように、観てもらう方に喜んでもらえるんだったらピアノじゃなくてもいいんです。ただ小さい頃から習っていたこともあって、動画を通じて皆さんに楽しんでもらう近道が、僕にとってピアノになっている、という感じですね。

──ピアノはあくまで1つの手段にすぎないと。

はい。人を喜ばせたい、笑わせたいっていう気持ちが第一にあります。僕はイベントもいろいろやらせてもらっていて、便宜上僕も演奏者としてステージに立つことは多いんですけど、実は僕自身はステージに立つことに対して執着はそこまでないんです。僕が思い浮かべている理想的な音を、僕じゃないピアニストさんに頼むより僕がやったほうが近道だからという理由もありますが。僕がステージに立たなくてもお客さんがメチャクチャ喜んでもらえたら、ただそれで満足なんです。そういえば、歌い手さんを家に招待してごはんを作って振る舞うことも定期的にやってるんですが、料理を作ってるときも全く同じ気持ちなんだって気付きました。誰かが集まって楽しそうにしてるのを見てるのがやめられないですね。イベント企画と同じです。

画面の中のやり取りを実際にやったら

──イベント企画者としての事務員さんのお話も伺えればと思います。今となってはニコニコ動画に関連するイベントは年に何回も開催されるようになりましたが、事務員Gさんはそれらがまだ常態化する前からイベントを企画されていました。

事務員G

はい。もう僕はただ単純に、画面の中で繰り広げられているこのやり取りを実際にやってみたら面白いんじゃないかと思って。ニコニコ動画には“弾幕(動画に寄せられる視聴者のコメントが集まり、画面上を埋め尽くすこと)”ってあるじゃないですか。もし実際にイベントをやったら、みんながどうやって“弾幕”を再現するんだろう、とか。自分の目で動画の中のことが現実になるのを見てみたかったんです。しかも2008年頃は誰もイベントを実際にやっていなかった。まあ単純にイベントをやろうとすると叩かれる流れがあったからですけど。

──先ほども少し話に出てきましたが「なんでチケット代を取るんですか?」といった反応が当たり前のようにあったわけですよね。

僕はその当時イベントを主催するに当たって、営利的な目的は全然考えてなくて。ただ会場を押さえて、出演者の方々の交通費とかを用意するとどうしてもお金がかかるわけです。今だったら理解してもらえるけど、チケット代はどうしても必要になる、ただそれだけでした。最初は同じ気持ちを持ったチームで、お客さんを1000人集めるイベントを企画したわけなんですけど、絶対に炎上するってことだけはわかってて。このイベントが企画倒れになることだけは避けたかったので、その前に300~400人規模のイベントを打ったんです。それが「事務員Gのニコニコ音楽寅さん」。名前を冠して、僕に炎上の矛先が向いてくれればと思いました。

──初めてイベントでお客さんを集めてみて、いかがでしたか?

やっぱり開催までものすごく大変だったんですけど、イベント当日に来てくれたお客さんがすごく楽しんでくれたみたいで。集まってくれた人の笑顔を見たとき、すっごいうれしかった。

──そして2008年8月には1000人規模のイベント「ニコニコサマーライブ」が開催されました。

僕は主催チームの一員に過ぎませんが……たくさんの歌い手さんや演奏者さんに出ていただいて、当日はものすごく盛り上がったんです。「インターネット上で活動している人が、実際にライブをやる」なんて、今では当たり前のことになりつつあることを初期にやれたことは僕の中でもけっこう大きくて。イベントを開催することは間違っていないんだって確信しましたし、僕がやりたいことは、こうやって人が喜んでくださるものを作ることなんだなって気付いた瞬間でもありますね。

ライブ情報
事務員G「事務員Gは10年前の今日から始まったんですけど?」
事務員G「事務員Gは10年前の今日から始まったんですけど?」
2017年12月1日(金)東京都 よみうり大手町ホールOPEN 18:00 / START 18:30
事務員G(ジムインジー)
インターネット上での活動から音楽活動を開始し、現在では多方面で活躍する演奏者。ピアノをメインにさまざまな楽器を同時に演奏する動画がネット上で大きな反響を呼んだ。2008年よりニコニコ動画でのパフォーマーを集めたイベントを企画し始め、「unplugged afternoon」「虹色オーケストラ」「Stars on Planet」など人気イベントの制作を精力的に行う。2012年公開のVocaloid楽曲214曲をつなげて弾いた映像が、ニコニコ動画「動画アワード」の「演奏してみた」カテゴリでMVDを受賞した。2014年9月にCMソング、ボカロ曲、アニメのテーマ曲などのピアノカバーを収録したアルバム「N43」をリリース。2017年3月には、動画共有サイトで多数の再生数を記録した「ジブリ長編映画の曲を全部つなげて弾いてみた」をベースに制作されたカバーアルバム「G'sG60 ~スタジオジブリピアノメドレー60min.~」を発表した。同年12月、東京・よみうり大手町ホールにて、自身の活動10周年を記念したライブイベント「事務員Gは10年前の今日から始まったんですけど?」を開催する。