アルバム収録曲「なみ」共作エピソード
──さて、昔話はこのへんにして、ニューアルバム「再会」についても話を伺いたいと思います。今作は在日ファンクがカクバリズムに移籍して初のオリジナルアルバムで、バンドの新しい方向性もしっかり示した素晴らしい内容になっているなと思いました。
浜野 ありがとうございます! ジュンさん、どうでした?
JxJx これまでの感じを進化させたような印象があって、すごくよかったです。
──収録曲の「なみ」は、JxJxくんも曲作りの段階から制作に参加したんですよね。
浜野 この曲は、作曲にギターの仰木亮彦も加わってるんですけど、そのやり方もよかったですよね。今回は仰木がジュンさんをつなげてくれた感じはあるかな。
JxJx 僕が角張やゼキさん(映像作家の大関泰幸)と一緒にやってる「ラジオのカクバリズム」にオオギナ(仰木)がゲストに出てくれたことがあったんですよね。そのときはちょうど、在日ファンクで新曲をいっぱい作ってる時期だったのかな。在日ファンクは、2017年8月にカクバリズムに移籍してきて、レーベルの15周年記念でツアーも一緒に回って、それがすごく楽しかったんですよね。そんなこともあって、メジャーまでいってアルバムもいっぱい出した在日ファンクが、これからどうなっていくのか勝手ながら気にしていまして。そこで僕は、最初に浜野さんから相談されたときに言ったように、今度は逆になっちゃうんですけど、「すでにいろんな人にやり尽くされてるようなJB直系のファンクに、あえてフォーカスするようなバンドになったら面白いんじゃない?」って、余計なお世話だけどオオギナにアドバイスしたんですよ。
“知らないおじさん”登場
──そう思ったきっかけみたいなことはあったんですか?
JxJx 僕が出演してたNHKの音楽番組「バナナ♪ゼロミュージック」に、浜野さんがゲストで出てくれるタイミングがあって。あれもけっこうな巡り合わせだったと思うんですけどね。番組でジェームス・ブラウンの特集をやりたいって言われて、僕は番組の専属バンド(オルケスタ・“バナナゼロ”・ムジカ)のバンマスだったのでJBのサウンドと改めて向き合ってみようと思って昔の映像を観てたんです。で、在日ファンクは今後どうなっていくのかなって思いつつJBを研究してみたら、あることに気付いて……。在日ファンク、JBと全然違ってたんですよ。
浜野 (爆笑)
JxJx 僕の中では、浜野さんがJB風のステップをマスターして、バンドとしても曲のリズムの組み合わせや構造もいい線いってて、着々とJBに近付いてるなと思ってたんですよ。だけど改めてJBの映像を観たら全然違ってて、在日ファンクは在日ファンクだって思ったんです。けっこうそれが大きかったんだよな。笑いましたけどね、「全然違う!」って(笑)。在日ファンクは在日ファンクなんだけど、もしかしたらJB的なファンクに対する解釈を突き詰めたり咀嚼する余地は、まだあるんじゃないかなって思ったんです。
浜野 最初は「いろんな人にやりつくされたJBの焼き直しをして、面白い部分あるかな?」って言ってた人が(笑)。
JxJx 全然あった(笑)。在日ファンク通過後のJB、めちゃめちゃ面白いよ(笑)。まだあるぞ、と。だから在日ファンクに未来はあるなと思ったんです。
浜野 なるほど。ジュンさんが、逆にそう思ってくれたんですね。
JxJx オオギナ的にも、バンドについて何かひと言、言ってくれるような人が面白いと思ってくれたのか、「もしよかったら、曲を一緒に作ってもらえませんか?」って声をかけてくれて。自分でよければぜひって感じで実際一緒に作ることになったんです。で、さっき話したJBのファンクが云々っていうのは一旦横に置いて、フラットなところからオオギナと一緒に曲作りをはじめて。浜野さんは浜野さんで楽曲についてビジョンがあったみたいだけど、オオギナはこみ上げ系のソウルのイメージと言っていたので、じゃあ、まずは純粋にいい曲を作ろうと。
──なるほど。
JxJx これまでの在日ファンクだったらひねってたような部分も、まずはあえてひねらないでストレートといった感じで。それで、3、4回ぐらい2人っきりでスタジオに入りまして。ときには長電話もしたりと非常に充実した熱い作業でした。で、ある程度形になったところで、在日ファンクのリハスタに持っていったんです。でも、たぶんなんですけどオオギナが、僕と作ってる曲がどういう進捗状況なのかはあえて伝えてなかったみたいで、メンバーがスタジオでいきなり曲を聴かされるって状態になってて。で、まず僕は曲をプレゼンしようと思って、こういうイメージの曲で、コード進行はこう、じゃあ一度やってみましょうって演奏を合わせてみたんです。そしたら浜野さんが、すごく違和感がある的な空気をむちゃくちゃ出してきて(笑)。
浜野 あははは(笑)。
JxJx たぶん、すごくがんばって新曲をたくさん作ってたところに、急に知らないおじさんが来て、めちゃくちゃ仕切り始めたら、いい気分はしないだろうなって(笑)。僕も自分が逆の立場だったら、確かにわかるって言うか。知らないおじさんが来て、急に事を進め始めたら、「ちょっと待って!」って感じになるだろうなって。
──知らないおじさんって(笑)。
浜野 (笑)。もちろん嫌だったからそうなったわけじゃなくて、すごくいい曲だったし、アレンジもどんどんまとまっていきそうだったんで、詰め方を絶対に間違っちゃいけないって気持ちがあったんですよ。
JxJx 慎重に、大事ですね。
浜野 誰かに聞いた話なんですけど、「アイズレー・ブラザーズはグルーヴすればするほどテンポが遅くなる」って言葉が頭に残ってて、この曲はまさにアイズレーみたいな感じにしたかった。そういうノリって、今までの僕らではできなかったから。こういう曲を速いテンポでやると、コード感の気持ちよさしか伝わらなくてもったいない。それにメンバーみんなも手癖に陥るんじゃなく、「この曲は、ほかの曲とは違うんですよ」っていうのをちゃんと全員が理解しながら進めないといけないと思ったんですよ。だからこそ、僕のわがままをねちねちとぶつけないとっていう気持ちもありましたね。
JxJx もともとアレンジはバンドに任せようと思ってて、僕はあくまでメロディと楽曲の基本的な組み立ての部分だけ伝えて、あとはお任せでいい感じに仕上げてほしいなと思ったんです。でも最初の空気も含めて、けっこう入りこんじゃったんで、こりゃ最後まで付き合わないとなって(笑)。その後も何回もスタジオに入ったよね。
浜野 そうでしたね。
JxJx で、スタジオで、浜野さんが歌詞を含めてやりたいって思ってるイメージをメンバーに伝えていくうちに、なんとなくみんな理解していって、村上基くんがいい感じのホーンフレーズを考えてくれて、最後に新メンバーのKIDSくん(橋本剛秀 / Sax)が、「浜野さん、もうちょっと歌のキーを下げてもいいかもしれない」って言って、実際に下げてみたら最後のピースがハマった。歌詞の世界観と浜野さんの歌い方、メロディの雰囲気とが全部がぴったり合って。まさにバンドマジックだった。
浜野 KIDSくんは、今回ポイントになる部分で活躍してくれて。
JxJx 本当にいいバンドになってるなって思いましたね。
充実した仕事を経ての“再会”
浜野 でも、「なみ」のレコーディングでメンバーに細かく曲の説明をしてるジュンさんは、本当に僕の知らないジュンさんでしたよ。確かに“知らないおじさん”だったんです。
JxJx そうか、きっと鬼の仕事量だった「バナナ♪ゼロミュージック」通過後の“知らないおじさん”になってたんだろうね(笑)。
浜野 それでか! むちゃくちゃ理路整然と説明してて、「こんな作り方するんだ?」って。出会った頃のジュンさんは、SAKEROCKを気に入ってくれて「いいね!」って感じで褒めてくれる優しいおじさんだったけど、在日ファンクのスタジオに来たおじさんは違った。
JxJx (爆笑)
浜野 わりと厳しめだったんですよ。そういう意味でも、本当に“再会”したなって思いましたね。
JxJx 浜野さんも、歌がめちゃくちゃうまくなってるなと思って。歌唱力と表現力がすごいことになってる。
浜野 ありがとうございます。
──浜野くんは役者としての仕事をたくさん経験したことが、ボーカル表現にいい影響を及ぼした。JxJxくんも音楽番組の音楽監督的なことを経験したことで、さまざまなジャンルの音楽に触れて、音楽家としての深みを増した。それぞれに充実した仕事を経ての“再会”だったわけですね。
JxJx しかし、曲を作る前にオオギナに話したことにもつながるけど、JBが発明したファンクのフォーマットから、在日ファンクがバンドとして幅を出していくときに、どこまでオリジナルなエッセンスを入れるのかっていうのは、すごく難しいところで。「再会」の制作過程もそういった部分できっと難しかったんじゃないかと思いつつ、アルバムの仕上がりとしては、本当に絶妙なバランスで仕上がってて、そこはすごく感動しました……と、まあ、こうやって語っちゃうのが、たぶん“知らないおじさん”の感じ……なんでしょうね(笑)。
浜野 いや、そこはまだ“知ってるおじさん”ですね。一緒に作る段階になったときの、ジュンさんのプレゼンっぷりがすごくビジネスマンっぽくて。
JxJx すごくビジネスマン(笑)。
──さすが、NHKを相手に仕事してると、プレゼン能力も上がってくるのかも?
浜野 本当にね。すごいびっくりしたんですから。ジュンさんが細かいところまで理論的に説明してて、みんなカルチャーショックを受けてたと思う。「知らないおじさんがいる!」って(笑)。
- ツアー情報
在日ファンク 5th Album「再会」リリース記念ワンマンツアー「しようよ、再会」 -
- 2018年12月2日(日) 愛知県 伏見JAMMIN'
- 2018年12月8日(土) 北海道 BESSIE HALL
- 2019年1月10日(木) 大阪府 umeda TRAD
- 2019年1月12日(土) 福岡県 BEAT STATION
- 2019年1月13日(日) 広島県 広島セカンド・クラッチ
- 2019年1月20日(日) 東京都 東京キネマ倶楽部