浜野謙太(在日ファンク)×サイトウ“JxJx”ジュン(YOUR SONG IS GOOD)|盟友2人が振り返る、出会いからこれまで

“ハマケン”が生まれたきっかけ

──当時の浜野くんには、「スペシャボーイズ」で目立ってやろうみたいな野心はあったんですか?

浜野 超ありましたね。いろんな爪痕を残そうとして、すごい近くにいる優しい人たちを引っ掻いた、みたいな(笑)。

サイトウ“JxJx”ジュン

JxJx でも、浜野さんみたいに熱い思いで参加してる人がいたほうが、番組としても絶対に面白くなりますから。結果として、いい感じにドライブしたと思ってます。あと、よかったのか悪かったのか、いまだにわからないことがあって。浜野さんって、SAKEROCKのライブでは、めちゃくちゃイジられることで輝くシステムになってたじゃないですか?

──追い詰められたときに、とてつもない爆発力を発揮するような場面もよく見られました。

JxJx それはSAKEROCKのライブで(星野)源くんがやることで初めて生きるシステムだと思うんだけど、ほかの人たちも同じように浜野さんをイジるみたいな図式がけっこうあったんですよね。でも、僕自身はあまりSっ気がないこともあってか、自分が共演するにあたっての場合、その方向は違うかもなと思ってたんです。だから「スペシャボーイズ」では、自分も一緒になってふざけるみたいな感じでやってたんですけどね。

浜野 確かに追い詰められたり、ガンガン突っ込まれるのは、それはそれで立ち位置として楽なんですけど、ジュンさんが現場で僕のことを野放しにしてくれていたのは、すごくありがたいことでした。SAKEROCKでは源くんっていう天才的なリーダーがいて、僕はそこでイジられキャラみたいな役職をもらってたと言うか。

JxJx それが、浜野さんの取扱方法みたいな雰囲気はできあがっていたんだけどね。

浜野 だけど「スペシャボーイズ」でジュンさんに泳がされて、野放し状態になって(笑)。世の中にはジュンさんみたいに、いろんなことを知ってて、さらに物事をディグって詳しくなっていく人と、俺みたいに何事にも詳しくない人の2種類の人間がいるんだなって痛感したんですよ。

JxJx そんなこと思ってたんだ?(笑)

浜野 自分もジェームス・ブラウンについて詳しいつもりだったけど、ジュンさんが語るJB評のほうがはるかに面白かった。

JxJx そういえば、あの頃JBの話をよくしてたよね。

浜野 それは、たぶん僕ががんばってたんですよ。「ジュンさんがいろんなことに秀でてるように、俺も何かに秀でなきゃいけない!」みたいな。小者のあがきがあったんです。

──だけど、そこで自分なりにJBを突き詰めたことが、在日ファンクが生まれるきっかけになったわけですよね。

浜野謙太

浜野 そうなんですよ。本当にあの場がなかったら在日ファンクは生まれてなかったし、「スペシャボーイズ」でのジュンさんとの関係性の中で“ハマケン”が生まれた、みたいなところもありますね。その前はまだ生まれてなかったんです(笑)。そこでやっと自我を手に入れたようなもので。

──つかまり立ちから、やっと一人歩きできたような。

浜野 そうそうそう。

──ジュンくんとの出会いを通じて、浜野謙太個人として活動するきっかけを見出して、そこに在日ファンクというバンドの原点まであったというのは面白いですね。

JxJx それにしても、あの頃はJBのことよく話したよね。なんでJBだったんだろう? もともと浜野さんはジャズ好きだったから、ジャズの話もよくしてたけど。

浜野 うーん、たぶんジュンさんが一番喜んでくれるのが、JBの話題だったんだと思う。

JxJx そうだったんだ(笑)。確かに喜んではいたかも。

在日ファンク、もう1つの誕生秘話

──在日ファンクの活動は2008年頃から始まったそうですが、浜野くんが在日ファンクを始めようと思ったきっかけは?

浜野 いろんな取材なんかで、スチャダラパーのBOSEさんとの対談がきっかけって言ってきたんですけど、実はその前にジュンさんと話してたことも、バンドを本格的に始めるきっかけになってて。すごく覚えてる会話があるんですけど……僕が「今、在日ファンクってバンドをやってて、ストレートなJBみたいなファンクをこれからやっていこうと思ってるんです!」って話したら、ジュンさんに「それ、焼き直しする必要あるのかな? すでにいろんな人にやり尽くされたことなんじゃないの?」って言われて。そこで俺も「それでも、やる意味があるんです!」って反論したんですよ。その会話のやりとりを、すごく覚えてて。

JxJx 俺、そんなこと言ってた?(笑)

浜野 それからしばらくして、下北沢のCLUB251でやった在日ファンクのライブの映像をジュンさんに観てもらったことがあったんです。メンバー構成は今とだいぶ違うけど。そしたら、ジュンさんが爆笑してて。それがすごくうれしかった(笑)。

左から浜野謙太、サイトウ“JxJx”ジュン。

──そのときのこと覚えてます?

JxJx たぶん在日ファンクの演奏が、想像以上にすごくちゃんとしてたから、それで笑ったんだと思います(笑)。いわゆるJB的なファンクってかなり難しいんですよね。それぞれが違うことをやってる楽器が重なって、しかも無駄な音はなしっていう状態で、初めてあのグルーヴが生まれる。そういうことがちゃんとやれてて、最初からキレッキレにキマってた。その仕上がりっぷりに、むちゃくちゃ笑ったんでしょうね。

──浜野くんは在日ファンク結成以前、ブレイクビーツなどサンプリングした音源を元に、生でサンプラーを叩きながら歌って踊るという“押し語り”ってパフォーマンスをやってましたよね。そこではSAKEROCKでもやっていた「京都」や、「ダンボール肉まん」などを披露していて。

JxJx 押し語り! あれは発明だったね。ネーミングも浜野さんでしょ? すごいよね。

浜野 押し語りをはじめたのは、在日ファンクよりも、ちょっと前だったかな? SAKEROCKのライブの幕間でもやってたし、すごく覚えてるのはバンバンバザールが主催する相模湖であった野外フェス「勝手にウッドストック」。湖の上でライブをやりましたね。

──押し語りは、浜野くんが興味を持っていた音楽からのサンプリングと、SAKEROCKでやってたパフォーマンスの融合だったような印象があって。それがバンドの生演奏によるJB直系のファンクと合体したときに、すごくオリジナリティあふれる“在日ファンクなりのファンク”の形として進化していったのかなと想像するんですが。

浜野 そうですね。押し語りの段階では、周りの人たちがゲラゲラ笑ってくれるっていうのがうれしいし、そのためだけのものっていう気持ちでやってたんです。だけど「在日ファンク、面白いからやってみなよ」ってBOSEさんに後押しされて本格的にバンドを始めて。そこで、きちんと評価してくれる人や、ちゃんと喜んでくれる人がいるんだなっていうことに気付いたんですよ。

2010年、3カ月連続コラボシングル発表時の在日ファンクのアーティスト写真。

JxJx その後、在日ファンクが大阪でライブをやったときに僕をゲストとして呼んでくれて。そのときに、「YOUR SONG IS GOODの『あいつによろしく』を今日カバーしますんで」って、デモを聴かせてもらったらめちゃくちゃカッコいいアレンジになってて、これはすごいなと。一緒に演奏させてもらってわかったんだけど、ステージの中で聴く在日ファンクって、めちゃくちゃ気持ちいいんですよ。そんな思い出と同時に、そのときの在日ファンクの衣装が全員タンクトップだったっていう記憶も蘇ってきて(笑)。

──懐かしい! タンクトップ期ありましたね(笑)。

JxJx 曲や歌詞の世界観や浜野さん独特のワードセンスは、しっかりできあがってたけど、衣装だとか、まだ荒削りのところも残ってて。とても親しみの持てるバンドって印象でした(笑)。それにメンバーのみんながいい感じで、すぐ仲良くなっちゃった。

浜野 確かに在日ファンクとユアソンのワチャワチャ感って、なんか似てるところがあるかも(笑)。

ドラマの現場で初共演

──ずっと疑問に思ってたのは、在日ファンクで見せる浜野くんのキレッキレのダンス。あれはいつ習得したんですか?

サイトウ“JxJx”ジュン

JxJx それ! 僕も思ってました。僕が覚えてるのは……「スペシャボーイズ」がめちゃめちゃ盛り上がってたにも関わらず、番組が終わってしまって。その後しばらく会ってなかったんですよ。で、在日ファンクがスペシャのスタジオを使った映像作品を作ったでしょ?(「ヤリ逃げシングル3部作」と題して、2010年に3カ月連続でリリースされたコラボレーションシングルに関連したミュージックビデオ)

浜野 楽曲は「環八ファンク」「京都」で、それに付属するショートストーリーみたいな感じで台本も用意してミュージックビデオを作りましたね。

JxJx そのぐらいの時期に浜野さんのダンスがめちゃくちゃ仕上がってて、すっごい驚いたのを覚えてる。

浜野 ああ、確かにあのMVを作る前にすごくダンスの練習をしたかも。やったやった。それだ! JBが出てるアメリカのテレビショーの映像を漁るようにして観て、MVもその感じにしたいと思ったんですよ。こういうセットで俺が超踊ってたら、見え方としても面白いんじゃないかって。だったらダンスもちゃんと研究しなきゃいけないと思って、たくさん練習したんです。

JxJx こうやって、浜野さんは仕上げてくるんですね! 浜野さんは体のバネとかバランス感覚がいいし、身体能力がめちゃくちゃあるなって以前から思ってたんですよね。

浜野 「スペシャボーイズ」でのキャラクターは、僕が身体能力アリ、ジュンさんが身体能力ナシ、みたいな認識になってましたもんね(笑)。

JxJx それをちゃんと生かした表現に持っていってるのがすごいなと思って。感動しましたよ。

浜野謙太

浜野 ちょうど同じ時期にあった「スペシャボーイズ ザ・ワールド」(「スペシャボーイズ」終了後、2010年に放送された特番。二人で海外ロケを敢行)でも、海外でストリートライブをやったじゃないですか? ダンスをばっちりやると海外でもモテるっていうことが、あの番組でわかりました(笑)。万国共通なんですよね。トルコでライブやったときも、スーパーモデルみたいな子が声をかけてきて。すごく気に入ったのか、俺のあとをずっと付いてきたんですよ!

JxJx 滝川クリステルさんに似た素敵な女性でしたね(笑)。あのライブ、すごかったね。3曲ぐらいしか演奏しなかったのに、エラい盛り上がって。あれはいい体験させてもらいました。やっぱり浜野さんのダンス習得以前と以降で在日ファンクは、かなり違うんだろうね。そのあたりで浜野さんのアーティストとしての跳躍力を見た気がしますね。この頃から俳優業も始めてたし。

──浜野くんの俳優としての活躍について、JxJxくんはどういう印象を持ってますか?

JxJx 本当、すごいですよね。けど、素養がめちゃめちゃあったんですよ。またしても「スペシャボーイズ」の話なんですけど、当時ミニコーナーでエチュード(即興演劇)みたいなこともやってたしね。

浜野 やりましたねえ。番組ディレクターの鶴の一声で(笑)。

──それが今やテレビドラマも毎クール連続で出るぐらいの売れっ子俳優ですからね。NHKの朝ドラや大河ドラマにも出てるし。

JxJx そう言えば、浜野さんが俳優として活躍することで貴重な体験をさせてもらったことがあって。エキストラとしてミュージシャンが出るドラマがあって、それに声をかけてくれたんですよ。

──フジテレビ系で2012年に放送されたドラマ「ハングリー!」ですね。浜野くんは、主人公の元バンド仲間という役柄で。

浜野 SOIL & "PIMP" SESSIONSの社長とかにも出てもらいましたね。

JxJx レストランに来る輩みたいな設定で(笑)。すっごいうれしかったんですよ。「浜野さん、こういう現場でやってるんだ? すごいなあ!」って、ちょっとした社会科見学みたいな感じで体験させてもらった。

──まさかドラマの現場で共演することになるとは思わないですもんね。

JxJx 収録終わったあとに、うちで一緒にドラマ観て、めちゃくちゃ楽しかったのも覚えてる。

浜野 あー、観ましたね!(笑) あれも楽しかったなあ。