在日ファンクが5thアルバム「再会」を11月21日にリリースした。
カクバリズム移籍第1弾アルバムとなる本作のリリースを記念して、音楽ナタリーでは在日ファンクの浜野謙太(Vo)とYOUR SONG IS GOODのサイトウ“JxJx”ジュン(Organ, Vo)の対談を実施。かつて在籍していたSAKEROCKが2015年6月に解散したことをもって音楽面ではカクバリズムから離れていた浜野、そしてYSIGを率いて15年以上の長きにわたりレーベルを牽引してきたJxJx。レーベルメイトとして、ひさびさの“再会”を果たした盟友2人に、出会いからこれまでをざっくばらんに振り返ってもらった。
取材・文 / 宮内健 撮影 / 沼田学
SAKEROCKの衝撃
サイトウ“JxJx”ジュン(YOUR SONG IS GOOD) 在日ファンク、ニューアルバム「再会」完成おめでとうございます!
浜野謙太(在日ファンク) ありがとうございます! ジュンさん、今回のブックレット見ました?
JxJx まだ見れてないです。
──新作「再会」のアートワークはNEW Co.(YOUR SONG IS GOODのギタリストでもあるイラストレーター吉澤“モーリス”成友と、SAKEROCKをはじめカクバリズム作品のデザインを多く手がけてきたデザイナー大原大次郎によるデザインユニット)が手がけられたそうですね。
JxJx さっきCDのサンプル盤をもらったばかりだけど、早速開けちゃおう!(おもむろにパッケージを開け、ブックレットのページをめくり始める)うわっ、すごい! モーリスと大原くん、こんなにたくさん絵を描いたの? 1曲ずつなんだ!?
──楽曲ごとにイメージして描かれたイラストが、歌詞と一緒に掲載されてるんですね。
浜野 絵本みたいにしてほしいってお願いしたんですよね。ジュンさんが曲作りに参加してくれた「なみ」の絵もすごくいいんですよ。
JxJx いいねえ。CDっていうパッケージで出した意味をこれほど感じられる作品はひさびさかも。
──新作「再会」についての話は、のちほどじっくり伺うとして……今日は浜野くんとジュンくんに出会いから現在までを振り返ってもらおうと思います。お二人が最初に出会ったのは、2004年3月に東京・下北沢440で開催された音楽イベント「wabi-sabi presents Strings Vibration Vol.2 "the sound of pacific"」でしたよね。って、僕(筆者)と友人で企画したライブイベントだったんですけれども(笑)。
JxJx そうですそうです。このイベントのフライヤーをうちのモーリスが手がけていたこともあって、僕も遊びに行ってたんですよ。そこに、高田漣さんのバックバンドとしてSAKEROCKが出演していた。
──そのときの印象は?
JxJx 初めてSAKEROCKを観て、本当にびっくりして。まずエキゾチカサウンドを若い人がやってるっていうのが驚きで。自分もそういう音楽をやってみたいっていう憧れはありましたけど、レコードの中だけで楽しむものなのかなって思ってた。その矢先に、自分たちのアイデアでエキゾチカサウンドを更新している若者たちが登場したもんだから、衝撃でしたよね。その場にモーリスもいたので、ライブが終わったすぐあとYOUR SONG IS GOODのバンド会議を敢行して(笑)。うわっ、こりゃマズイぞ、と。
浜野 ジュンさんがSAKEROCKを観て「うわっ」と思ったのは、僕らの音楽的な立ち位置みたいなことですか?
JxJx そこもあるけど、純粋に曲がカッコよかったからじゃないかな。アイデアも素晴らしいし、実際にやってた曲もめちゃくちゃカッコよかったから。自分たちがやりたいけど全然できないことを若者たちがいい感じでやってて、すごくうれしい反面、焦りもあった。で、とにかくまずこれは一緒に対バンしたい人たちだということで、角張(渉、カクバリズム社長)に電話して。「すごいバンドがいる! まずはカクバリズムのライブで一緒にやったほうがいい!」って伝えて。それで下北沢SHELTERで対バンしたんだよね。
──初めて対バンしたときのことって、浜野くんは覚えてます?
浜野 それがあんまり覚えてないんですよ。だけど、とにかく熱気がすごかった。それまで僕らは「青い部屋」みたいなライブハウスっぽくない場所でライブをやってたから、「シェルターのお客さんがなんでこんなに喜んでくれるんだろう? 俺たちハマってるのかな?」って思いながらやってました。でも、やたらと楽しかったのは覚えてます。
JxJx SAKEROCKとの初期の絡みで印象深いのは、カクバリズムからSAKEROCKの7inchアナログが出ることになって、シェルターでレコ発をやったとき。そこで対バンだった我々の気持ちが高ぶりすぎちゃって、主役を差し置いてよくわからないぐらいにアツすぎるライブをやっちゃって。結果、見事に空回った(笑)。全力でライブすること自体は間違ってないと思うけど、完全にギアを入れ間違えてしまいました(笑)。
──いきなり5速入れちゃったみたいな?
JxJx そうそう。めちゃくちゃスベッたのを覚えてます(笑)。それぐらい僕らを狂わせてくれるバンドだったんですよ、SAKEROCKは。
「スペシャボーイズ」で急接近
──そうしてお二人はレーベルメイトになったわけですが、浜野くんがJxJxくんに対して、この先輩とは気が合うなと感じたのはどういうときでした?
浜野 うーん……ジュンさんと気が合うと感じたことはないかもしれないですね。
JxJx あははは、ここにきて、まさかの!(笑)
浜野 いや、気が合うとかそういうんじゃなくて、僕はジュンさんのあとをずっと追ってる気がしてて。たぶん「スペシャボーイズ」(2006年4月から2008年3月にかけてスペースシャワーTVで放送されていた音楽番組。浜野とJxJxがMCを務めていた)を一緒にやってたときも、ジュンさんにとってはやりづらいところがいっぱいあったんだろうなって思うんですよ。俺はガムシャラにぶつかっていたけど、ジュンさんは番組全体を見ながらやってたから。それにジュンさんは常に優しいんですよね。
JxJx 浜野さんとグッと仲良くなったのは、やっぱりスペシャがきっかけだったかな。「スペシャボーイズ」の前、2005年に放送されてた「STUDIO GROWN」って帯番組があって、僕らはそれぞれ別の曜日のMCを担当していたんですよね。現場が一緒になることが多くて、バンド同士ではなく個別に会って話す機会が増えたのがこの頃だった。当時、浜野さんはまだ学生だったけど、音楽の話とかじゃなく、ただの世間話をするような間柄になっていった。
浜野 俺はそれが本当に申し訳なくて。音楽の話をしても、ジュンさんも俺が相手だとあまり盛り上がらなかったと思うんですよね。
JxJx 全然そんなことないよ!(笑)
浜野 SAKEROCKの音楽性を気に入って仲良くしてもらってたのに、バンドの音楽性に関しては一番ポカーンとしてるのが俺だったから。当時はSAKEROCKでやってる音楽に関して、自分のものだと自覚できてないフシもあって。だからユアソンとかカクバリズムと出会った頃のことは、あんまり覚えてないんです。
JxJx あー、なるほど(笑)。
浜野 だから「STUDIO GROWN」あたりからのジュンさんとの思い出は、すごく覚えてる。もともとSAKEROCKってバンドの出自も、僕の人柄もスペシャとは無縁なところにいたと思うんです。だけどカクバリズムに入ってああいうポップなところに引っ張り出してもらうことで、僕自身の活動もポップになっていったところはある。で、こういう立ち回り方がポップでカッコいいんだなって思ったのは、ジュンさんからの影響も大きいんです。
JxJx SAKEROCKのメンバーって全員個性的で、出会ったときからそれぞれ自分たちの道を持ってる人たちだったんだけど、その中でも浜野さんが一番いい感じでフワフワしてたのは覚えてる(笑)。
浜野 あははは(笑)。
JxJx その結果として、すぐに仲良くなれたし、そういう部分が番組でもすごく面白い感じに転がっていったんだろうね。
浜野 だから、気が合うとか合わないじゃなくて、僕がJxJx色に染まったんですよ。
JxJx (爆笑)
浜野 ジュンさんは、みんなを自分色に染めますからね。バリさん(角張社長)とかもそうだと思うし。
JxJx そんなつもりはないんだけど(笑)。
──「スペシャボーイズ」はロケ企画も多かったし、かなり密な時間を過ごしたんじゃないですか?
浜野 そうですねえ。寝食を共にするぐらいの勢いでやってましたから。
JxJxから学んだ姿勢
──当時のエピソードで記憶に残ってることは?
JxJx 浜野さんは、当時からめちゃめちゃプロ意識が高くて。ギャラの話ばっかりしてましたね(笑)。
浜野 あははは(笑)。
JxJx スペシャの番組って、ミュージシャンの人たちの音楽活動がメインにあって、プラスアルファな部分で出演するような作りになってる。いい意味で気楽な雰囲気で出演できると言うか。だから、お金のこととかをあんまりシビアに突き詰めるような現場じゃなさそうだなと思ってたんですね、僕は。だけど浜野さんは、「ちょっとギャラ安いんだよなあ……どうにかなんないですかね」って(笑)。今考えれば、それも全然間違ってないんですけどね。
浜野 僕は僕で、あとあとになって気付くんですよ。当時のジュンさんの年齢を過ぎてから、あのときのジュンさんはこういうつもりでやってたんだ、とか。スペシャみたいな会社があって、そこで仕事をやらせてもらってる意味なんかを踏まえつつの、あのテンションだったんだな。そりゃそうだなって。僕なんてもう、あの頃ずっとプリプリしてましたからね(笑)。
──どんなことにプリプリしてたんですか?
浜野 あの番組って、過酷なロケもあったじゃないですか? やたら寒いとか、やたら待つとか。そういうときに俺は「なんなんだ!」ってプリプリなってるんですけど、ジュンさんは、そういうときに気持ちをゼロ地点に置いてるって言うか。疲れてるんだろうけど、「疲れた」とか言わないし。そのスタンスはなんなんだろうなってずっと思ってたんです。だけど、数年経ったあとにわかったんですよね。ふわっとゼロでいるほうが疲れない。「これだー!」って思ったんですよ(笑)。
JxJx ドラマの現場なんて、それこそ待つ時間も長いんじゃない?
浜野 そうなんです。俳優の仕事って待つ時間が長いし、そこで「いつまで待たせるんだ」とか言ってる俳優もいるんです。そのときに俺は、あの頃のジュンさんになるんです。
JxJx あははは(笑)。
浜野 この現場で待つのはしょうがないだろうとか思いつつ、何も言わないでゼロになる。やっぱり俺は、すべてにおいてジュンさんのあとを追ってるんだなって。でも、ジュンさんはジュンさんで、怒りポイントありましたよ。俺だけがわかるプリプリポイントみたいなのが。隙あらばカマそうとしてる若いロックバンドがゲストで来たときとか、ちょっとプリついてた(笑)。
JxJx そうだったかもしれない(笑)。
浜野 ジュンさんってなんでも来いみたいな感じに見えて、意外と受け入れないんですよ。
JxJx ちゃんとバレてましたね(笑)。ニコニコやってるつもりですけど、確かに難しいなって感じる人たちもいた(笑)。
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“ハマケン”が生まれたきっかけ