“天使っぽい何か”が暮らす別の世界の休日の歌

──そんな人を雑に扱うことも辞さない悠木さんなんですけど（笑）、カップリングの「twinkAtrick」では“世界は穏やかで美しい”という、ものすごくいいことを歌ってますよね。

でもこの曲は「クピドゥレビュー」と同じ主人公の休日の歌なんです。

──確かに「twink' Atrick」っていうフレーズは「twinkAtrick」にも「クピドゥレビュー」にも出てきてますね。

「クピドゥレビュー」でキャラの濃い子が生まれたので、「この子の世界を膨らませられないかな」「『クピドゥレビュー』の裏側の話ができないかな？」と思って。「クピドゥレビュー」の歌詞に出てくる「twink' Atrick」をこの曲でも使ってみて、そのままタイトルにもしてみました。

──ヒロインが一緒ということは、休日の“天使っぽい何か”ってけっこうノンキですね。「雲の毛並みの 天使猫」を「夢で 追いかけて」みたりしてるし。

普段から「クピドゥレビュー」のときみたいにノリノリなわけじゃないですね。「今日はのんびりしたー」っていう日はもちろんあるはずだと思ってて。12時くらいに起きて「あー、まだ眠いわー」とか言いながら昼ごはん食べて……。

──「ちょっと遅めのブランチをいただく」みたいな、小じゃれた女の子ではない？

そうですね。そもそも12時に起きてる時点で、どうよ？って感じの人なので（笑）。で、1コーラス目で「昼ごはん食べよー」ってなって、2コーラス目で覚醒したんでしょうね。「あれ？ 今日超天気いいじゃん。外、出よっかな？」ってことで、なんか活動を開始する感じです。

──「彼方から」は「焦がしバターの パンケーキ」の匂いがしてることだし。

そうですそうです。「twink' Atrick」って“天使のイタズラ”みたいな意味の言葉なんですけど、まさに「彼方」にあるヨソの家に行って「おっ、パンケーキおいしそうだな」って勝手に食べちゃって。でも自分の家の屋根にネコが飛び乗ったときにドンッ！って音が突然鳴ったら「驚いて くしゃみ」しちゃったりもして。そんな休日の歌です。

すくすくと双葉が育つMANYOサウンド

──作詞家は「クピドゥレビュー」と同じ藤林さんだけど、作曲のMANYOさんとはお仕事するの自体初めてですよね？

初めてです。カップリングの候補曲のデモを聴かせていただいたとき「あっ、なんかこの芽が育つような感じがいいなあ」って思ったのでご一緒させてもらいました。

──「芽が育つような感じ」？

曲を聴いていたら、すごく穏やかな森の中で植物が芽吹いて双葉が出てくるような光景が浮かんできて。ただ「クピドゥレビュー」の子の羽根と同じように、森もちょっと人工的なイメージ。そのことをお伝えしたら、最終的にこの2コーラス目から突然盛り上がる感じのこの曲ができあがってました（笑）。

──再び「できあがってました」か（笑）。この曲って基本的なトーンは過去の悠木さんの楽曲と一緒。ピアノとストリングスを中心に構成された、ちょっとウエットなワルツなんだけど、2コーラス目になるとドラムとディストーションのかかったギターが重なって、とたんに明るく元気になりますよね。

その感じがすごく好きなんです。ちょっと人工的な双葉がカタカタカタって、元気にすくすく芽吹くみたいな感じがしていいなって。

──この曲は何色をイメージして歌いました？

ベビーブルーかなあ。1コーラス目はベビーブルー一色で、2コーラス目からそのベビーブルーが水玉になるイメージですね。

──前回のインタビューで、悠木さんにとってブルーは、ちょっと含みのある色、ナイショな感じがする色だって言ってましたよね。

そうですね。この曲の主人公は、他人といるのも別に嫌いじゃないんだけど、1人でいるほうが好きなのかなと思って。孤独とは違うけど1人ではあるのでブルーのイメージ。ただ目を覚ましたばっかりの1コーラス目では気持ちの色もハッキリとはしていない。ブルーはブルーでも淡いベビーブルーなんです。で、昼ごはん食べて、ヨソんちのパンケーキをつまみ食いしに行く頃には気持ちが弾み出すんですけど、やっぱり1人のままだから、気持ちの色もベビーブルーの水玉になる。そんなイメージで歌ってみました。

「確かに悪ふざけだったかなあって思ってます」

──そしてこのシングルには前作「ビジュメニア」同様、インスト2曲を挟んだ5曲目にボーナストラック的1曲が入っています。前作の5曲目「くちひげ泡バルーン お出かけサイズ」では……。

にゃーにゃーしてみました（笑）。

──で、今作の5曲目は吟遊院芹香名義のキャラクターソング「1st Love（はつ恋）宣言」なんですけど、悠木さんにはシングルの5曲目を問題作にしないといけないフラグでも立ってるんですか？

へっ!? いや、わりとよくあるアイドルソングだし、なんの問題もない。……あれ!? じゃないですか？

──じゃないです（笑）。エレクトリックなスウィングジャズ「クピドゥレビュー」と、フォークトロニカテイストの「twinkAtrick」を作った人が、ぶりっぶりの声で「みーんなー！ せりきゃんはー！ 恋をしちゃいましたー！」って……。

突然なんか言い出したぞ！って（笑）。

──はい（笑）。セリフまで入ってるベタでどアッパーなアイドルソング、いわば電波ソングを歌うか！ってビックリしました。

せりきゃんのキャラクターソングを入れようっていうお話はディレクターさんからいただいたんですけど、その後、私も含めてみんなの中で「せりきゃんは『がをられ』の世界の超トップアイドルなんだから、アイドル街道まっしぐら、どピンクな曲にしよう」「悠木碧名義じゃ絶対できないことをやろう」っていう話になって。なので曲自体は至極マジメ。ド王道のキャラクターソングを作ったつもりなんですけど、これを「クピドゥレビュー」と「twinkAtrick」と同じシングルに入れたのは、確かにある意味悪ふざけだったかなあって思ってます（笑）。