音楽ナタリー Power Push - YUKI

傍観者との別れ、迎えた“嵐のような思春期”

ソロデビュー15周年を迎えたYUKIが、2月1日にニューシングル「さよならバイスタンダー」をリリースした。シングルの表題曲は彼女が愛読する羽海野チカのマンガを原作としたテレビアニメ「3月のライオン」のオープニングテーマ。音楽ナタリーではYUKIにインタビューを行い、この曲に込めた思いを聞いた。

取材・文 / 松浦靖恵

ニューシングル「さよならバイスタンダー」 / 2017年2月1日発売 / EPICレコードジャパン
初回限定盤 [CD+DVD] / 1543円 / ESCL-4821~2
通常盤 [CD] / 1049円 / ESCL-4823
CD収録曲
  1. さよならバイスタンダー
  2. You can stay right here
初回限定盤DVD収録内容
  • TVアニメ「3月のライオン」ノンクレジットオープニングムービー収録DVD

※羽海野チカ書き下ろしイラストポストカード封入

「歌いたい!」とすぐに決めた曲

──「ポストに声を投げ入れて」以来、約7カ月ぶりにニューシングル「さよならバイスタンダー」がリリースされます。表題曲「さよならバイスタンダー」は人気マンガ家・羽海野チカさんの同名マンガが原作のテレビアニメ「3月のライオン」のオープニングテーマ曲として、NHK総合にてすでに1月からオンエアされていますね。

私は以前から羽海野チカ先生の作品が好きなので、オープニングテーマを歌うことになってとてもうれしいです。

──ソロデビュー15周年イヤーの幕開けにふさわしく、とてもスピード感のある曲になりました。

作曲家さんから届いたデモのアレンジが気に入ってしまい、「歌いたい!」とすぐに決めた曲でした。疾走感のある楽曲も、デモの段階とほとんど変わっていないです。

──歌詞は原作マンガを読んでから書いたそうですね。

そうですね。「3月のライオン」は将棋の世界を描いていますけど、私は特に将棋に詳しいというわけではないので、きちんとマンガを読んでから書き始めました。

極端な反骨精神で歌っていた20代

──原作マンガを読んで、どのような感想を持ちましたか?

私は勝負の世界とは無縁の歌手ですけど、プロとして将棋という勝負の世界にいる主人公の(桐山)零くんは、どんな思いでその世界に身を置いているのかとても興味が湧きました。彼は10代で、未熟な少年ではあるけれど、「自分で強くならなくちゃ」「自分の足で歩いていかなくちゃ」という思いを持っている。自分の責任を自分で負う彼の覚悟の強さに共感しました。

──歌詞の一人称を“僕”にしたのは、零くんのイメージがあったからですか?

はい。でも、歌詞に書いたことは零くんの“僕”という一人称を借りた今の自分の直球の気持ちでもあるんです。私の決意です。

──15周年という1つの節目に、自分の決意を歌詞に記したかったということですか?

自分としては15周年だとかを意識してはいなかったです。きっと私がどうあがこうがこうなることは決まっていて、たどり着くべきところにたどり着いたんだと思います。

──というと?

自分が持っている本来の気質として、私は物心が付いた頃から親戚が集まるとコタツの上に立って歌っていたような自我が強い子供でしたし、特に20代の頃は「誰にどう思われようが自分のやりたいことをまず表現するんだ」という気持ちがとても強かったので、極端な反骨精神で自分が歌いたいことを歌うということをずっとやっていました。そして、時を経てソロになり、右も左もわからない中で「自分はYUKIとして何を歌っていけばいいのか」「どんな歌を歌ったら自分はもっとも幸せなんだろう」と模索してきました。

──例えば、2003年の2ndアルバム「commune」ではさまざまなミュージシャンに曲を書いていただいていましたし、2005年の3rdアルバム「joy」では、スタッフと一緒に楽曲を選んでいましたよね。

はい。そのように制作を続けていくことで、誰かと一緒に音楽を作ることの楽しさを知りましたし、私は音楽は娯楽だと思っているので、皆さんの気持ちが軽くなれるような曲、娯楽として聴くことのできる歌をずっと歌ってきました。特に映画の主題歌やCMなどのお話をいただいく機会が増えてからは、「人の話を受け入れてみるのも面白いな」「こういう考え方や捉え方もあるのか」というところを楽しめるようになりました。そして、前シングル「ポストに声を投げ入れて」(映画「ポケモン・ザ・ムービーXY&Z『ボルケニオンと機巧(からくり)のマギアナ』」)では、ポケモンの世界観に突き進み、全力でぶつかっていきました。でもこの楽曲を作り終えたとき、「今度は好きなように歌いたい」という自我を止められなくなっている自分に気付いてしまったんです。嵐のような思春期がまたやってきたんだと思いました(笑)。