米津玄師「アイネクライネ」でチャレンジ、村下孝蔵「初恋」はリスペクトを込めて
──レコーディング時のエピソードがあれば教えてください。
米津玄師さんの「アイネクライネ」は、曲調や歌詞、米津さんの歌い方がとても好きだし、この曲のMVに出てくる女の子の絵やキャラクターも自分の中に強く印象に残っている曲だったので、自分はどう歌うのかというところに果敢にチャレンジできた曲でした。男性の米津さんが女性目線の歌詞を歌っていらっしゃるので、自分が歌うとこの曲はどんな“いろ”になるんだろうという興味がすごくありました。これはあとから知ったことだったんですけど、ライブで「アイネクライネ」をカバーされている方はいらっしゃるけれど、こうして「アイネクライネ」のカバーが音源化されるのは初めてなんですって!
──そうなんですね。あと今回、吉岡さんが歌う「初恋」のカバーを聴いたときに、この曲が持っている雰囲気、曲調や歌詞の感じが、いきものがかりというグループにつながっているような感覚を覚えたんです。吉岡さんが歌っても全然違和感がないと言うか。
私も違和感がなかったです(笑)。いきものがかりの男子(水野良樹、山下穂尊)もこの曲がすごく好きで。特にリーダー(水野)が「いい歌だなー、いい曲だなー」っていつも言っていたんです。今回「初恋」を歌わせていただいて、本当に大それたことではありますが、この曲にいきものがかりを感じている自分がいたんですよね。まだJ-POPという言葉がなかった時代の曲ですけど、J-POPの源流のような曲なんだなって思えたし、こういう曲たちがあるからこそ、いきものがかりのようなグループが生まれて、私もこうして歌ってこれているんだなって。そういうリスペクトがあるから、「初恋」をスッと歌うことができたんだと思いました。
「World In Union」は間違いなく一番スケールが大きい曲
──「ラグビーワールドカップ2019」のオフィシャルソング「World In Union」では、全編英語詞に挑戦していますね。
最初にスタッフさんからこのお話を聞いたときは、自分が歌えるかどうか、できるかできないかは別として、今までいきものがかりでずっと日本語の歌詞を歌ってきた自分が英語の歌詞をどう歌うのかというところにとても興味が湧きました。あと、パッと聴いた方がこれを誰が歌っているかわからないかもしれないな、いきものがかりのボーカルの吉岡聖恵が英語詞を歌ってるの!?っていうところを面白がってくれるんじゃないかなって思えたので挑戦させていただきました。
──吉岡さんは短大時代に声楽やクラシックを勉強していましたが、ホルスト作曲の組曲「惑星」第4曲「木星」を原曲にしたこの壮大な楽曲とどう向き合っていったんですか?
声楽は少し学んでいたことがあったので、最初はクラシックの歌い方でいく方向もあるかなと思ったんですけど、私はいきものがかりでポップスをずっと歌ってきたので、自分らしく歌おうと思いました。そうしたことで、英語詞であっても自分の色をこの楽曲の中に入れることができたんじゃないかなって思いました。
──英語詞を歌うということに関しては、どのような思いで挑みましたか?
日本語の発音に寄せずに、ちゃんと英語の発音で歌いたかったので、英語ができるスタッフさんや英語の先生にも教わりました。あと、この曲は英語の発音の難しさもありましたけど、歌詞とメロディが生み出す世界のスケールがとても大きいので、自分の中に持っているものよりも、心も体も大きく広げて歌いました。間違いなく自分がこれまでの人生の中で歌ってきた曲の中で、一番スケールが大きい曲です。クラシックをモチーフにした楽曲や全編英語詞に挑戦できたこと、「ラグビーワールドカップ2019」のテーマ曲として世界中の方に聴いていただけること……私にとって初めてづくしの「World In Union」になりました。
やっぱり歌が好き
──いきものがかりは路上時代にカバー曲を歌っていましたし、デビュー当時のシングルにはカップリングにカバー曲を収録していました。今回、吉岡聖恵として、1人のボーカリストとしてカバー曲を歌ったことで、何か新しい発見はありましたか?
いきものがかりで歌うときと何が違うのかを考えてみると、いきものがかりでは男子2人がそれぞれ曲を作ってきて、その曲の中にある物語を聴いてくれる人に届ける役割として、歌い手の私がいるんですけど、今回は歌い手の自分が物語を選んでいるというところが、まず一番大きく違うところなのかなって思いました。あと今回カバーをさせていただいて思ったのは、それぞれの歌の中にいる主人公のことが私は好きなんだなって。曲という短い物語の中にいる主人公や情景に惹かれているからこそ大切に歌いたいと思ったし、それが歌うことの楽しさにもつながっていったんだと思います。いきものがかりで私は“歌う”ということを当たり前のようにやってきたけれど、このカバーアルバムを作ったことで、私はやっぱり歌が好きなんだなって、今さらながら思いました。
- 吉岡聖恵(ヨシオカキヨエ)
- 1984年2月29日生まれ。2006年にデビューし、2018年1月より“放牧中”の3人組J-POPユニット・いきものがかりのボーカル。確かな歌唱力とあたたかみのある歌声は、老若男女問わずあらゆる世代のファンから支持を集めている。2018年4月、トヨタホームのCMソングとして中島みゆき「糸」をカバー。この楽曲を同月に配信リリースし、本格的にソロ活動を始動させた。10月にはカバーアルバム「うたいろ」を発表。2019年には日本で開催される「ラグビーワールドカップ」のオフィシャルソング「World In Union」の歌唱を、日本人で初めて担当することが決定している。
※記事初出時、本文に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。
2018年12月7日更新