松下奈緒「souNds!」インタビュー|念願だったいきものがかり水野とのコラボ曲に込めた思いとは

デビュー20周年を迎えた松下奈緒が、9枚目のオリジナルアルバム「souNds!」をリリースした。

2004年4月より日本テレビ系で放送されたドラマで女優デビューした松下。以降も数々のドラマや映画に出演する一方、ピアニスト、歌手、作曲家としても活躍している。

そんな松下が主演を務めた2010年放送のNHK朝ドラ「ゲゲゲの女房」の主題歌は、いきものがかりの「ありがとう」。いきものがかりのファンである松下は、いつかはいきものがかりと共作できたらと思っていた。朝ドラの間接的なタッグから14年を経て、書き下ろされた楽曲「きらりら」で念願が叶った。さらに松下は6月に公開される映画「風の奏の君へ」でデビュー作から20年ぶりにピアニスト役を演じ、劇中曲も担当。これらの楽曲がアルバム「souNds!」に収録されている。

「ここ数年に自分が経験したことをちゃんと音に残せている」と語る松下は、このアルバムとどのように向き合ってきたのか。自身が出演する映画やドラマの制作秘話も含めて、じっくりと話を聞いた。

取材・文 / 永堀アツオ

「ゲゲゲの女房」から14年

──前作「FUN」はインストゥルメンタルにこだわった作品でしたが、2年ぶり通算9枚目となるニューアルバム「souNds!」は1曲だけ歌モノが入っていますね。

今作でもインストゥルメンタルにこだわることは考えていたのですが、ライブで歌っていく中でボーカルの面白さも感じていて。歌にしかない世界観や、メロディと歌詞の組み合わせによる音作りも楽しさがあるので、何か歌モノを入れたいなと思っていました。私の中でいつか、いきものがかりさんとご一緒できたらと思っていたところ、いろんなタイミングがそろいまして、水野(良樹)さんが「きらりら」という素敵な楽曲を提供してくださりました。

──水野さんからの楽曲提供は初めてですか?

初めてなんですよ。

──松下さんが主演を務めた朝ドラ「ゲゲゲの女房」の主題歌がいきものがかりの「ありがとう」でした。大ヒットした2010年の放送から14年かかったわけですね。

「ありがとう」は自分の曲かのように大事にしている楽曲です。今回の楽曲提供は10年以上かかってやっと叶いました。最初にいただいたデモは水野さんらしいキラキラした感じが前面に出ていて、すごく楽しい曲でした。そこから河野伸さんがアレンジをしてくれて、より楽しさが加わり、最後にはflumpoolの山村(隆太)さんの力もお借りすることができました。水野さんの一度聴いたら忘れないキャッチーなメロディの強さがあるからこそできたことですけど、いろんな変貌を遂げていき、その過程を見ることができたのはとても勉強になりました。何より水野さんと山村さんとご一緒できたことがとてもうれしくて、本当に記念の曲になりました。

松下奈緒

──完成した楽曲の印象は?

ドラマ「恋愛戦略会議」(2024年3月フジテレビ系で放送)の主題歌として作っていただいたのですが、台本を通して水野さんが思う主人公(私)のイメージをうまく曲に入れ込んでくれたことがうれしくて。なんとなく恥ずかしいような、でもうれしいような……より身近に感じられた曲でしたね。

──松下さんはこのドラマで、結婚願望がなく、仕事に人生を捧げてきた38歳のキャリアウーマンである冬子(とうこ)を演じました。

冬子は年齢も同じで、共通する部分がたくさんありました(笑)。自立した女性で、仕事と恋愛、仕事と結婚という、誰しもが一度は悩んだり、迷ったりする状況がすごく理解できて。ドラマ本編で多くは語られなかったことを、最終的に主題歌でちゃんと言葉にしてもらえたという感じがありますね。

──「年収1000万円以上」「自立」「清潔感」「誠実さ」「身長180cm以上」という、冬子が結婚相手に求めていた5つの条件も理解できます?

幸せのありかたは人それぞれですし、何を優先させるかはそのときの環境や状況によって変わると思うんです。でも、「そんなことを言っているからダメなんだよ」と言われるのもわかる。だから冬子を演じていて、「なんでもかんでも決めつけてしまわないことが幸せの近道なのかな?」と思うこともありました。本当にいろんなことを教えてもらえた作品だったし、主題歌だったんですよね。「『可愛くなりなさいな』 そんなこと 聞き流しましょう」という歌詞があるんですけど、確かに!って(笑)。水野さんの歌詞はどこからこの言葉を引っ張ってきたのかと驚くくらいリアリティがあるし、すごく共感度の高い、魔法みたいな言葉が本当にたくさんあるんです。たぶん私だけじゃなくて、いろんな状況下にいる方が「わかる!」と共感する言葉がたくさんあると思います。1人でいることに慣れちゃうと、誰かに甘えることが難しくなったり、自分の中で決めつけちゃうこともある。そうやって、がんじがらめになってしまった自分を解いて、心を緩めてくれるようなメッセージが込められているから、聴いてると気持ちが楽になるんですよね。それを水野さんが女性目線で生み出してることがすごいなって感激したんです。タイトルが「キラキラ」でもなく、「ヒラリラ」でもなく、「きらりら」という言葉で、パワーワードだなと思いました。

──この曲の主人公は最終的に「幸せはそうね あなたと決める」という答えにたどり着いています。

そうなんです。前半ではずっと「幸せはそうね わたしが決める」と言っていたけれど、最終的には誰かと決めることを選んだ。無理強いされていないし、決めつけるわけでもないし、うまく誘われる感じというか。優しく包み込んでくれる感じがありつつ、ポップなのに聴けば聴くほど深みを感じたりする。そこがやっぱり水野さんのマジックなのかな。

好きなことが目の前にあるのが一番幸せ

──松下さんご自身は“幸せ”をどのように考えてますか?

好きなことが目の前にあるのが一番の幸せだと思いますね。好きなことがずっとある、何年先にも一生懸命向き合うことがあるということ。何もしないことが私にとって一番の不幸だと思うので、そういう意味では今好きなことが目の前にあることがありがたいし、それが幸せにつながっているんだと思います。

──好きなことというのは、演技やピアノ演奏を含めた表現活動ですか?

はい。そうですね。もしこういった活動がなかったら私は何をしているだろうと想像したとき、ミシンで洋裁してるところくらいしか思い浮かばない(笑)。それも楽しいけど、やっぱり一番楽しいのは、自分の表現を誰かに届けること。制作過程で、こうかな、ああかなって迷ったことが最終的に1つの結論として生まれて、それを楽しみに待ってくれている人がいる。当たり前のことのようで、当たり前じゃないと思うんですよね。1つひとつ曲を作っていって、アルバムとして完成させられることがうれしいし、ドラマや映画などの作品に携われることもうれしい。これをやれていることが一番幸せですね。

──「きらりら」にフィーチャリングボーカルで参加した山村さんとは、6月7日公開の映画「風の奏の君へ」で共演されていますね。

そうなんです。これまでアーティストの方と映画でご一緒する機会がなかなかなかったんですけど、この映画で山村さんと共演できたので、楽曲でもぜひコラボしたくて。私は男性コーラスが好きなので、この曲に参加してほしいと思っていたんです。映画「風の奏の君へ」では、私と山村さんは元恋人同士という役どころで、楽曲でコラボしても違和感はない関係性かなと思って。あと、flumpoolさんが歌う映画の主題歌「いきづく feat. Nao Matsushita」にも参加する機会をいただけたので、ダメ元でお願いしたら、快く引き受けてくださったんです。私の好きな人たちがたくさん携わってくれた曲になりました。

──山村さんはコーラスに徹していますが、ご自身の歌入れはどうでしたか? 冬子として歌っているわけではないですよね?

これは自分として歌わせていただきました。もちろん、冬子を演じたからこそわかる気持ちもありますけれど、この「きらりら」の主人公は、多くの人が自分と重ね合う部分をもった女性像なので。ただ、難しいんですよ!

──言葉に力が込もっていますね(笑)。

楽しい曲だから、その気持ちのままサラッと歌えるかなと思ったら、そんなことはなくて。水野さんのデモは男性の声だったので、どこかロックっぽく、勢いがあって、はつらつとしていて、元気な曲だと思ったんですけど、私はこれまであまりアップテンポな曲を歌っていなかったので、そういう意味でもトライしたい曲ではありました。私の曲を昔から聴いてくれている方なら、どこか背伸びをしている感じがわかるかもしれないですね。