吉田山田「欲望」インタビュー|「希望」ではなく「欲望」を手に10周年に向かう

人前で演奏する怖さ

──すでに全国ツアー「吉田山田ツアー2018 <Acoustic Set>」が開催されていますが、「欲望」の収録曲の反応はいかがですか?

吉田 いろんな反応があって面白いですね。特に「もやし」はタイトルを言ったときに笑い出すお客さんもいるんですけど、山田の「もう やだ しにたい」の歌い出しで場内がシーンとなるんですよ。歌の最後には涙を流している人もいましたし、いろいろ説明せずに曲だけで人の感情を揺さぶる山田らしい曲になったなって実感がありますね。それとツアーでは山田がこの曲でリコーダーを吹くんですよ。

山田義孝(Vo)

山田 「もやし」は栗コーダーカルテットさんにアレンジをお願いしたのもあって、ツアーに行く前に栗コーダーさんにリコーダーを教えてもらったんです。これまで楽器ってカズーとタンバリンぐらいしかやってこなかったので、演奏するときに緊張して手が震えちゃって。「人前で演奏するのってこんなに怖いんだ」って発見もありました。

吉田 え、10年近くもやってきて今さら?

山田 いやあ、楽器って大変なんだね。

吉田 じゃあ吉田山田の中での給与体系の見直しを……。

山田 いやいやいや。演奏してなくても僕はほかのがんばり方をしてるから(笑)。

──11月17日にはバンドセットのツアーが始まります。2人きりで回ってきたアコースティックツアーとはガラっと変わったライブになるわけですよね。

吉田 実は今年のバンドセットのツアーでは、ここ5年ぐらい一緒にやってきたバンドメンバーとは違うメンバーで回るんです。吉田山田にとってはバンドメンバーってサポートメンバーではあるんですけど、家族みたいな存在だと思ってるし、吉田山田の一員だとも思っていて。今年のメンバーに関しては僕らもすごく悩んだんですけど、今回はレコーディングでお世話になったメンバーと一緒にライブを回ってみたいと提案させてもらったんです。レコーディングのときに生まれた何気ない会話とか、曲に対する解釈、世界観とかを共有したメンバーでライブをやる必要があるんじゃないか、そう思って今年はいつもとは違うバンドメンバーでツアーを回ります。

山田 すっごい決断をしたよね。

吉田山田

吉田 新しい世界に飛び込む気持ちでバンドメンバーを全員変えてツアーに挑むので、すごく不安もありますけど、今までとは違うライブをお見せすることができると思っています。アルバムのテーマにもなった人生をステージで表現すると言うか、吉田山田っていう1つのアーティストの命を感じてもらうライブにしようと思ってます。

山田 僕はこれまでのライブで「楽しさ」ってけっこう重要だと思ってたんです。やっぱりお客さんには「楽しかったな」って思ってほしいし、MCで笑いが起こると安心するんですよね。でも最近になって「楽しいライブじゃなくてもいいや」って思い始めてきた。楽しさより、ライブで発した一言をちゃんと持ち帰ってもらうこととか、飾りすぎていない自分が裸の言葉を伝えることのほうが大事なんだってことにようやく気付けたんですよね。アコースティックツアーでは2人の全部を伝えるつもりでライブをしてきましたけど、バンドになるとまた違った思いがあふれてくると思うし、バンドのサウンドに背中を押してもらって、僕が感じたことをしっかり伝えられたらいいな。

感謝に逃げちゃうのが怖い

──来年の10月に吉田山田はデビュー10周年を迎えます。去年から10周年の節目を強く意識してきた2人の今の心境を教えてください。

吉田 「欲望」のツアーを回っていく中で、あえてファンの皆さんへの感謝みたいなことを意識しないようにしてたんです。もちろん感謝の気持ちはありますし、それを伝えたい。ただ10周年という大きな節目に向けた活動を展開していく中で、僕ら吉田山田は自分たちのことを自分たちが知らないと届かないんだと考えているんです。ファンの皆さんへの感謝に逃げちゃうのが怖いんです。でもライブをやってると、どうしても感謝の気持ちに抗えない瞬間ってあるんですよね。だって自分たちがおよそ9年かけてやってきたことの結果が、ステージから見える景色に集約されているわけですから。感謝は伝えたいし、伝えなきゃいけないけど、10周年を迎えたときに単純な感謝じゃなくて「一緒に生きていてよかった」と思えるような自分たちでいたいし、そう思える景色をみんなで見たいんです。そのためには吉田と山田が先頭に立って、10周年に向けて突き進まなければいけないから、すごく気が引き締まる思いでこの1年を過ごさなければいけないと思っています。

山田 吉田と山田、2人がどこまで行けるのか試してみたいって気持ちがすごく強くて。だから命を削って詞を書いてるし、音の1つひとつにもこだわって、全部のレコーディングに立ち会って音作りをしてる。それにライブでは自分のダサいところも弱いところも全部さらけ出して歌ってる。今までだったら「音源聴いてください」「よかったらライブにも足を運んでください」みたいなところに留まっていたんですけど、最近は「音源を買ってじっくり聴いてほしい」「ライブにも絶対来てほしい」って思いが強いんです。僕らが音楽をやり続けることは変わらないんですけど、いつ何が起こって応援したいアーティストがいなくなってしまうかは本当にわからないですから。命がなくなるとか、声が出なくなってしまうとか、そういうことだけじゃなくて。心がすり減りすぎて歌えなくなってしまう人だって僕らは見てきたし。本当に僕ら2人が命を削って作った「欲望」をたくさんの人に聴いてほしいし、ライブにも何か受け取りに来てほしいなって思ってます。

吉田山田

──ちなみに10周年に向けて制作される“三部作”の最後の作品の構想はすでにあるんでしょうか?

吉田 「欲望」が完成するまでは「最後どうしよう」って不安だったんですけど、できあがったアルバムの音源を繰り返し聴いていく中で「こういう形かな」って構想はけっこうできてきています。まだ山田とはしっかり話せていないんですけど、きっと山田の中にもいいものが生まれていると思うから、これから2人でどう思っているかを話して、遺作になってもいいぐらいの作品を作ろうと思っています。「遺作」とか言うとネガティブに聞こえちゃうかもしれないんですけど、それくらいの覚悟じゃないときっと次が見えないから。

──相当な覚悟を持って作られる作品になるということですね。

吉田 はい。それと、SNSとかで「変身」「欲望」ときて3作目のタイトルを予想する人が出てきているんです。漢字2文字でいろいろ言われているんですけど、これ、やめてもらいたいんですよね。候補がなくなっちゃうから。

──「私のタイトルが採用された!」みたいに言われることになるかもしれませんからね(笑)。

吉田 せっかく僕らが考えた言葉が同じだったら使いにくいじゃないですか! だからね、これを読んだ人は金輪際、次のアルバムのタイトルを予想しないでください。思い付いても、心の中にそっとしまっておいてほしいですね。

吉田山田「吉田山田ツアー2018 <Acoustic Set>」 ※振替公演
  • 2018年11月25日(日)北海道 札幌PENNY LANE24
  • 2018年12月13日(木)千葉県 柏PALOOZA
吉田山田「吉田山田ツアー2018 <Band Set>」
  • 2018年11月17日(土)東京都 東京国際フォーラム ホールC
  • 2018年12月8日(土)大阪府 なんばHatch
  • 2018年12月16日(日)宮城県 Rensa
  • 2018年12月20日(木)福岡県 DRUM LOGOS
  • 2018年12月26日(水)愛知県 Zepp Nagoya