ヤユヨ「日日爛漫」インタビュー|カラフルな“卒業”アルバムを携えて前へ進む

ヤユヨが3月9日に1stフルアルバム「日日爛漫」をリリースした。

「日日爛漫」は、今年3月に大学を卒業する彼女たちが“日常”をテーマに制作したアルバム。本作にはYouTubeでミュージックビデオの再生回数が160万回を突破している「さよなら前夜」、デビュー曲「七月」、TBS系「王様のブランチ」のエンディングテーマ「おとぎばなし」、映画・チャンネルNECOオリジナルドラマ「タベホの女~女3世代満腹日記~」の主題歌「futtou!!!!」、“春”や“卒業”というワードをイメージした新曲などの全15曲が収められる。

音楽ナタリーでは「日日爛漫」のリリースに際してヤユヨにインタビュー。4人にバンド結成の経緯やアルバムの制作エピソード、今後の展望を語ってもらった。

取材・文 / 蜂須賀ちなみ撮影 / KOBA

歌声を聴いた瞬間、「絶対に軽音楽部に入ったほうがいい」と思った

──ヤユヨは高校時代の軽音楽部の友達同士で結成したバンドなんですよね。軽音楽部にはどういう思いで入部したんですか?

はな(B, Cho) 私は兄の影響で中学生のときからバンドに興味があったんです。兄がギターをやっていたので、じゃあベースをやろうと思って。

すーちゃん(Dr, Cho) 私は音楽に特に興味があったわけじゃないんですけど、高校1年生のときにぺっぺ(G, Cho)と仲よくなって体験入部に誘われたので、「とりあえずやってみようかな」と行ってみたのが始まりでした。ドラムがいいなと思ったのも、(ギターを弾く仕草をしながら)こうやって指を動かすのは難しそうやなと思ったからで。だから特にバンドが好きだったわけではないんですけど、始めてみたら楽しかったです。

ぺっぺ(G, Cho) 私は小中学生のときはバスケをやっていたんですよ。進学した高校はバスケの強豪校で、春休みから練習に参加していたんですけど、「ホンマにバスケを続けていていいのかな?」「ここで違う選択をしたら人生変わるかも」と悩んだ時期があって。小さい頃からピアノを習っていたし、当時はちょうどいろいろなバンドを知って聴き始めていた頃でもあったので、バスケ部ではなく軽音楽部に入ろうと決めました。

ヤユヨ

ヤユヨ

──リコさんは高校1年生の秋ごろに入部したんですよね。すでに軽音楽部で活動していたぺっぺさんに「実は軽音楽部に興味があるんだよね」と打ち明けたと。

リコ(Vo, G) そうですね。入学したときに見た部活紹介ではあまり惹かれなかったので体験入部にも行かなかったんですけど、文化祭で軽音楽部の活動をちゃんと見たときに「うらやましいな」「自分もやりたいな」と思ったんです。それで、ぺっぺと2人で遊んだときに「実は軽音、けっこう興味あったんよな」みたいな話をして。

ぺっぺ そのあと、クラスの子と一緒にカラオケに行く機会があったんですよ。私はこの子がどのくらい歌えるのか知らなかったんですけど、歌声を聴いた瞬間、「これは絶対に軽音楽部に入ったほうがいい」と思って。

──確かにリコさんの歌声は魅力的ですよね。それに佇まいにも華がありますが、高校生の頃からそうでしたか?

ぺっぺ いや、そういう子じゃなかったからこそ「クラスで見ているリコと違う」「こんな子クラスにおった?」とびっくりしたんです。今ほど完成された歌声ではありませんでしたが、片鱗みたいなものはあの頃から確かにありました。で、さっきリコ自身が話していたように、リコは前々から「軽音楽部楽しそうやな」と言っていて迷っているみたいだったので、引っ張ったら絶対にこっちに来るだろうと思って(笑)。

リコ あはは。

ぺっぺ なので、「その声は絶対に生かせるし強みになるから、明日にでも先生に言いに行こう」と私が彼女を強引に連れていきました。

──ぺっぺさんから見ると、歌っているときのリコさんと教室にいるときのリコさんは別人のようだったとのことですが、リコさん自身には「音楽をやっているときは別の自分になれる」という感覚はありますか?

リコ どうだろう……。でも、歌っていたらなんか気持ちいいんですよね。日常で味わえない快感があるというか。だからすごくのびのびしているなと自分でも思うし、音楽やったら感情を乗せられるし羽を広げられるという感覚はあります。歌うことももちろん好きだけど、それだけじゃなくて、体全体で表現できるのがめちゃくちゃ気持ちよくて好きなんです。

リコ(Vo, G)

リコ(Vo, G)

やっぱりバンドが好き

──バンドを始めたばかりの頃はどんな音楽を聴いていましたか?

はな 私はONE OK ROCKをきっかけにバンドの曲を聴くようになったし、こういう音楽がやりたいと思って軽音楽部に入りました。

ぺっぺ 私たちが高校に入学した頃はちょうど周りがバンドブームだったんですよ。キュウソネコカミ、go!go!vanillas、SHISHAMO、KANA-BOONが列伝ツアー(「スペースシャワー列伝 JAPAN TOUR 2014」)で全国を回っていた時期で、そのあたりの世代のインディーズバンドが世に出てきているところだったんです。

はな だけど、ヤユヨのメンバーや軽音楽部のみんなと「どんな音楽好きなん?」と情報交換していく中で、いろいろな音楽を知っていって。サニーデイ・サービスやはっぴいえんども好きになっていきましたね。

はな(B, Cho)

はな(B, Cho)

──なるほど。さまざまな時代の音楽を柔軟に吸収してきたからこそ、ヤユヨの音楽からは新しさも懐かしさも感じるのかもしれません。ヤユヨの結成は高校卒業後の2019年なんですよね。

ぺっぺ はい。みんなバラバラの大学に進学したんですけど、楽器は続けたいなということで、リコを除いた3人はよく集まってセッションのようなことをして遊んでいたんですよ。そこから「バンドにできたらいいな」という話が出て、ボーカルがいないから誰か誘おうということになったとき、思い当たるのがリコしかいなかったんです。だからリコを誘ったんですけど、最初は断られて。

リコ 私は幼い頃から歌手になりたいと思っていたんですけど、とはいえ、ひと言で歌手と言っても、弾き語りのシンガーソングライターとして活動したり、1人でパソコンで音楽を作ったり、バンド以外にもいろいろな形があるじゃないですか。だからなかなかバンドに決めきれなかったし、それに、自分がアーティストとしてちゃんと活動できるのか不安もあったんですよね。生半可な気持ちではやれないから一旦断ったものの、大学でも友達はできやんし、講義もそんなに面白くないし……。そんな生活の中で何が一番楽しいかといったら、ライブに行ってバンドの音楽を楽しんでいるときや、新しい音楽に出会ったとき、ぺっぺと一緒に音楽について語り合っているときでした。そこで「やっぱり自分はバンドが好きなんやな」ということに気付いて。

ぺっぺ それで最終的にリコが泣きながら「今から会える?」って電話をかけてきて。

リコ 自分の夢に向かって東京でがんばっている友達と話した直後だったので、感情があふれちゃったんですよ。

ぺっぺ 深夜のマクドで「一緒にバンドやろう」と言われたので、私も「やるなら本気でやろう」と言って。そのときが一番腹をくくったときでした。

ぺっぺ(G, Cho)

ぺっぺ(G, Cho)

──結成までのエピソードを聞いて、新しい環境にパッと飛び込めるタイプではないリコさんと、そんなリコさんを引っ張ってきたぺっぺさんとの関係性がわかりました。では、はなさんとすーちゃんさんはどんな人でしょうか?

リコ はなちゃんはヤユヨのリーダーなんですよ。だけど、いい意味でも悪い意味でもリーダーらしくないというか。

はな どういうこと?(笑)

リコ なんというか、強く主張するタイプではないんですよね、だから「もうちょっと言ってよ!」と思うこともたまにあるけど、はなちゃんがいるだけで場の空気が柔らかくなる感じがあるから、彼女がリーダーであることで保たれているものもあるやろうし。

ぺっぺ それに、何かあったら基本的に私が言うからいいバランスではあるよね。

リコ そうそう。はなちゃんはここ最近の半年間、学校の実習で活動休止していたんですけど、ひさしぶりにまた4人で活動できるようになったので、「やっぱりはなちゃんがおったほうがバランスがいいなあ」と思っているところです。

ぺっぺ すーちゃんはおとなしいし身長も高くてシュッとしているけど、この4人の中で一番女の子っぽいです。

リコ 落ち着いていそうに見えて末っ子感があるよな。

ぺっぺ よく前髪を気にしていて。

すーちゃん えー、そう?(笑)

ぺっぺ ほかの3人はちょっと大ざっぱなところもあるんですけど、すーちゃんはしっかり身だしなみを整えたりするので、そういうところを見て女の子らしいなと感じます。

すーちゃん(Dr, Cho)

すーちゃん(Dr, Cho)

4人で過ごした時間のすべてが詰まっている

──ヤユヨはこれまでにミニアルバムを2作、配信限定のもの含めシングルを3作発表していますが、フルアルバムをリリースするのは今回が初めてなんですよね。1stアルバム「日日爛漫」をどんな作品にしたいと思いましたか?

リコ 今回のアルバムのテーマは“日常”で、新曲に関しても“春”や“卒業”というワードを意識して作っていきました。私たち、今年の3月で大学を卒業するんですよ。

ぺっぺ 例えば学生やったら“進学”、社会人やったら“就職”という1つの区切りがあると思うんですけど、私たちはどこかの企業に就職するわけではないから、そういう区切りがなくて。

──確かにそういうものがないと「次の春で生活のフィールドが変わるんだ」という実感が湧きづらいかもしれないですね。

ぺっぺ そうなんですよ。自分たちも周りの大学生や友達と同じように、これから社会人になっていくから、そういうものが欲しいなと思って。私たちにとってはこのアルバムがまさにそういう存在になりました。

──そんな作品を完成させた今、どんな気持ちですか?

ぺっぺ やっぱり気が引き締まりましたね。「よし、ここからがんばらないとな」と。

すーちゃん 私は大学生活の中で「これをがんばった」と言えるものがなかったんですけど、このアルバムができあがったとき、「ああ、学生時代にこんなものが残せたんや」とうれしく思って。ぺっぺがさっき言ってくれたように、同級生が就職活動をやっている中で私たちはバンド活動をずっとやってきたので、4人で過ごした時間のすべてがここに詰まっているなあと思います。ホンマに大切な1枚になりました。

リコ 15曲通して聴いたときにはちょっとグッときたし、アルバムを完成させたことで卒業というものをより意識するようになって。今は「これまでの日常が変わってしまうんやな」という切なさと「これから音楽一本でやっていけるんや」というワクワクを感じています。

はな 15曲の中には、このアルバムに向けて作った新曲もあれば、昔から大切にしてきた曲もあるんですよ。

すーちゃん ライブではやっていたけど、まだ音源化できていなかった曲とかね。

はな そうそう。いろいろな色の曲たちが収まっているから、曲数が多いだけでなく、内容的にもボリュームのある作品になったんじゃないかなと思います。