アー写の石は私物の宝物

──続く「あなたはサキュレント」の作編曲は齋藤真也さんですが、いつもの齋藤さんの作風とは少し違いますよね？

真也さんとご一緒するときってけっこうデジタルロックが多いんですけど、今回は真也さんが今まで書いたことのない曲を書いてもらいたいと思ってたんですよ。で、改めて真也さんの曲をいろいろ聴いて「ボサノバはまだやったことないんじゃないか？」と思って。真也さんの特徴的なデジタルサウンドと、ボサノバが融合したら面白いかなって勝手に想像して「どうですか？」とお願いした曲です。

──アレンジも含めて、やなぎさんのイメージ通りに仕上げてくださった感じですか？

そうですね。私が「ボッサがいいです」というオーダーをしたら、「ボッサ感をめいっぱい出したほうがいいのか、それとも僕のサウンドの裏に、隠し味的にボッサが見えてるほうがいいのか」と聞かれまして、私からは「隠し味のほうで」と。結果、とても素敵な曲にしてくださいました。

──おっしゃる通り、ボサノバのリズムが生きた、とてもキャッチーなエレクトロニカになっていますね。ここでの宝物は言うまでもなくサキュレント（多肉植物）ですが、ご自身でも栽培されてるんですか？

はい、おうちでいくつか。

──この曲の作詞はやなぎさんで、多肉植物に水をやりつつ「わたしの言葉をただ聞いていて」と話しかけている女性を描いていますが、ご自身のことを歌っている？

いや、私自身は話しかけはしないんです（笑）。でも、多肉植物って葉っぱの中にお水を蓄える植物だから、「悲しいことを話したら、悲しい水が溜まっていくのかな」って。

──その発想、面白いですよね。水の味が、水をやる人の感情に由来しているという。

まあ、妄想なんですけど（笑）。

──「あなたはサキュレント」の主人公は多肉植物を癒しアイテムとして位置付けていると思われますが、やなぎさんもそういう宝物をお持ちですか？

ああー。そういう意味では多肉植物もその部類に入りますし、あと、アーティスト写真にもいっぱい映ってるんですけど、手に持ってる石とかも自分で掘ってきたもので……。

──私物なんですね。

そうなんです。あるときから石にハマっちゃって。やっぱり自然のものは見ていて落ち着くし、つい集めたくなってしまって。作業場にもいっぱいそういうものを置いていて、それを鑑賞しているときはけっこう幸せですね。

人ならざるものの歌

──7曲目のバラード「海を込めて」も自然物がモチーフですね。

この曲は貝殻がモチーフで……うん、ホントに自分が集めたりしているものばっかりですね（笑）。

──「あなたはサキュレント」の歌詞は非常に現実的かつ具体的でしたが、この「海を込めて」の歌詞は一気に抽象度が増しますね。

そうですね。「あなたはサキュレント」はわかりやすく人間目線だったんですけど、こっちは強いて言うなら貝殻目線。人ならざるものの歌ですよね。

──最近あまり見なくなった表現だと思うんですけど、要するに貝殻を耳に当てると……。

海の音がする（笑）。

──自身に海の音を込めた貝殻が、その音を「拾ったあなたに届けたいの」と願うロマンチックな詞ですね。この曲の作編曲は北川勝利（ROUND TABLE）さんですが、先ほどの齋藤さんと同様に、いつもの作風とは少し趣きが異なるような感じがしました。

北川さんの曲ってポップなイメージがありますけど、例えばアニメ「ARIA」シリーズの関連楽曲とか、すごく素敵なバラードも書かれていて。以前も「北川さんの書くバラードが好きです」ってご本人にお話ししたことがあって、それがきっかけでできたのが、前のアルバム「Follow My Tracks」に入っている「ターミナル」という曲なんです。今回も、3曲目の「over and over」（15thシングル、アニメ「Just Because!」オープニングテーマ）というポップな北川さんの曲がすでにあったので、「またバラードやりましょうよ」とお願いして作ってもらいました。

──北川さんのアレンジって、いわゆるネオアコ感だったり流麗なストリングスだったりが特徴的だと思うのですが、「海を込めて」はかなりデジタルなサウンドに仕上げられています。

最初は私もアコースティックな音を想定してたんですけど、北川さんがアレンジを詰めてくださるうちに「ちょっとR&Bっぽい雰囲気も出したい」という話になったりして、おっしゃる通りだんだんデジタル寄りのリズムとサウンドになりました。だから想定外ではあったんですけど、結果的に「これしかない」って思えるアレンジにしてくださいましたね。