ナタリー PowerPush - やなぎなぎ
ハイクオリティな渋谷系ポップを歌う快楽
楽器になって知った楽しい気持ち
──どんなオーダーをしたらこんな曲ができあがるんですか?
1曲の中に冷たいところと温かいところがあって、それがうまく混在している曲を、と。
──「Zoetrope」の作曲家の齋藤真也さんに「クルクル回る感じの曲」ってオーダーを出した話を聞いたときにも思ったんですけど……。
アバウトすぎますよね、私(笑)。なのに本当に私のお願いした通り、基本的に音の質感はすごくひんやりしてるんだけど、サビになったら「サーカス団が飛び出してきた!」みたいな感じで明るくなる曲になっていて。「冷たいところと温かいところがあって、それがうまく混在している」世界をうまく表現してくれていることにすごい感動しました。
──楽器・やなぎなぎにとってこの曲って歌いやすかったですか?
まあ歌いやすくはなかったですね(笑)。曲をいただいたとき感動するのと同時に、すごく言葉が早いというか、符割が細かいのにビックリしましたから。たぶん今回のシングル3曲のなかで一番練習したのがこの曲だと思います。ただだからこそ、このシングルの中で一番自分の感情の起伏が見える曲になったとも思っていて。
──すごくドラマチックに朗々と歌い上げてますよね。だから「この曲では自分を楽器化、歌う機械化しようとした」ってお話を聞いているときは、正直「何言ってんだ? この人」って思ってました(笑)。
あはははは(笑)。最初にお話した通り、いただいた曲を自分の中にきちんと落とし込めるようになるとすごく楽しくなってきちゃうので。特にこの曲は繰り返し繰り返し練習したから余計に楽しくなれて。で、歌えるようになると今度は「じゃあ、このフレーズはこういうトーンにしてみよう」とか、いろいろ考える余地も多かったですし。結果的になんですけど、時間をかけたぶんそういう気持ちや考え方の流れが表現の中に出てきちゃったんでしょうね。
──でもそれは失敗ではないですよね。きくおさんとコラボしたことによって、楽器として歌おうとしたことによって、逆にやなぎさんの素の感情、エモーショナルな部分が露わになったっていうのは、すごく面白いケミストリーだと思います。
それも歌っていて楽しかった理由ですね。「あれっ!?」って(笑)。
現実を乗り越えた先に私がいた
──詞についても伺いたいんですけど「Surrealisme」というタイトルでありながら、なんでこんなにストレートなんですか? 「柔らかい時計」(サルバドール・ダリの絵画「記憶の固執」の別名)、「トロンプ・ルイユ」(だまし絵)とモロにシュルレアリスム的な作品、技法のことを歌ってみたりして。
ダリとか(ルネ・)マグリットの絵をよく見ていたっていうのが一番大きな理由なんですけど(笑)、以前からシュルレアリスム的、超現実的なことをそのまんま書いてみたくて。具体的には私が夢で見た話のことを歌ってみたんですけど、それって夢の中のことだから、実際にありえない。でも確かに私は“見た”。その見たことをそのまんま書いてみたかったんです。
──だったら「この曲はシュルレアリスムについての曲なんです」ってきちんと伝えられるアイテムのこともそのまんま書いてしまえ、と。
そうですね。ただそのダリやマグリットの絵を見ながら、シュルレアリスムな詞を書いていたら、だんだん「自分とは?」みたいな疑問が湧いてきちゃって(笑)。ある程度客観的に、夢の中で“見た”自分ではないキャラクターの動きを追う物語を描こうと思っていたのに、夢と現実が混ざるというか、けっこう自分の素直な気持ちがアウトプットされた気はしますね。
──「窮屈な枠の中で手足をばたつかせる 自ら望んだ鏡の向こう もう帰らないよ」と、新たな一歩を踏み出す宣言をしてますもんね。
超現実……現実を超えてみようとしたら、なぜか現実の自分の話になってました(笑)。
本物のチャーチリバーブを聴きにドイツを目指す
──そういえば前回のインタビューのとき「今年はフィールドレコーディングをしてみたい」って言っていましたけど、どこかに行ってみました?
この前、新潟に行って白鳥の声を録ってきました。
──おおっ、ちゃんと「いい音」を録ってる(笑)。ほかに行ってみたいところってあります?
海外とか?
──なんかレーベルの人と事務所の人が耳をふさいで聞こえないフリをしちゃってますけど(笑)。具体的にはどこに?
ドイツとか。お城や教会みたいな縦に長いというか、高さのある空間ではどんなふうに音が響くのか知りたいですね。
──デジタルリバーブの中によく「チャーチリバーブ」っていうプリセットエフェクトが入ってるけど……。
その本物のやつを聴いてみたいんですよ。
収録曲
- ユキトキ
- 音のない夢
- Surrealisme
- ユキトキ(instrumental)
- 音のない夢(instrumental)
- Surrealisme(instrumental)
※「Surrealisme」の「r」と「a」の間の「e」にはアキュートアクセント「'」が付く。
やなぎなぎ
関西出身の女性シンガーソングライター。2006年からライブハウスやインターネット上で音楽活動を開始する。動画投稿サイトに数多くのカバー楽曲を公開して注目を集め、「君の知らない物語」をはじめとするsupercellの楽曲にnagi名義でゲスト参加したことでも話題となった。繊細かつ透明感あふれる歌声と、印象的な楽曲の世界観が幅広い層から支持される。2012年2月、テレビアニメ「あの夏で待ってる」のエンディングテーマ「ビードロ模様」でメジャーソロデビュー。同曲はオリコンCDシングル週間ランキング11位にランクインした。以来、テレビアニメ「ヨルムンガンド」のエンディングテーマ「Ambivalentidea」、「ヨルムンガンド PERFECT ORDER」のエンディング曲「ラテラリティ」、「AMNESIA」のオープニングテーマ「Zoetrope」を発表。そして2013年4月、アニメ「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」のオープニングテーマを含む5thシングル「ユキトキ」をリリースする。