ナタリー PowerPush - やなぎなぎ

ハイクオリティな渋谷系ポップを歌う快楽

「俺ガイル」雪乃と寄り添って生まれた雪解けの歌

──ただ「ユキトキ」の詞ってちょっと不思議なんですよ。というのも「俺ガイル」の主人公・比企谷八幡って「スクールカーストの最下層にいてひとりぼっちなのは実はオタクではない。彼らは友達とゲームやアニメの話で盛り上がれるから。今その状況にあるのは僕。なぜなら中途半端にハンサムで中途半端に頭がいいばっかりに自意識過剰になっているから」という事実を十分理解した上で、なんなら楽しもうとすらしていますよね。

そうですね。

──なのに誰かと関わることを祝福する春の歌を書いたのはなぜ?

どちらかというとヒロインの(雪ノ下)雪乃のほうに焦点を当てたからですね。彼女は頭がよくて1人でなんでもできちゃうから、周りをまったく頼らない。でもそれはそれで寂しいだろうな、って思ったので。そんな彼女が救われるにはどうすればいいのか?っていうことを考えて詞を書いたんです。

──そしてその救いの手段が出会いだろう、という結論に?

ええ。私自身、この1年で人と触れあう量が明らかに変わって……というか、これまであまりに人と触れあってこなかったんですけど(笑)。でもいろんな人と出会うことで前向きなことを歌えるようになって。その経験や思いを雪乃に重ね合わせてみようと思ったら、けっこうスムーズにストレートな言葉が出てきました。

雪が溶けたかと思ったら、水の中に閉じ込められた

──2曲目の「音のない夢」も北川さんのトラックですが……。

「ユキトキ」を書いていただくときに「こういう曲もありますよ」って聴かせていただいた曲なんですよ。そのときからすごく気に入っていて「これはぜひ歌いたいな」と思ったんですけど、ただ「アニメのオープニング曲っていうテイストではないな」と(笑)。

──聴くだにそういうテイストではないですね(笑)。カッコいいんだけど、ミディアムテンポのセンチメンタルな曲だし、コメディのオープニングには渋すぎますよね。

なので「ユキトキ」と続けて聴いたら面白いかな、と思ってカップリング用に提供していただきました。

──同じ北川トラックだから実は地続き。続けてスムーズに聴けるんだけど、曲の肌合いが明らかに違うから、並べてみたらシングルがいろいろな楽曲を楽しめる1枚になる、と。

そうですね。だから詞もちょっとギャップを出してみたというか。「ユキトキ」で私は救われたと思っていたのに……。

──雪解けを見たかと思いきや……。

「深い海のような場所」に閉じ込められるという(笑)。でもこの曲も最後には救いがあるんですよ。「言葉失くしたら」自分の中に何が残るんだろうって問いかけをずっとしている曲なんですけど、それでも「いつかすべてのみこんで」「息を継いで継いで水面へと」攻めに行かなきゃいけないよねっていう感じで、一応自分としては光が差して救いがある歌のつもりなんです。

──「ユキトキ」のようなポジティブな言葉をストレートに出せるようになった今のやなぎさん的に、ネガティブな状況を歌っておいて、それでも最後に「でも大丈夫」って言い切る詞って書きやすいものなんですか?

「でも大丈夫」に向かうまではけっこうしんどかったです(笑)。でもこの曲を初めて聴いたときから、水の中にいるときみたいな落ち着く感じがして、それがすごく肌に合っていて。だから詞の中の私には絶対に希望をもってほしくてがんばってみました(笑)。

やなぎなぎという楽器になりたい

──そして3曲目の「Surrealisme」なんですけど、実はこの曲が一番の新機軸ですよね。これまでのシングルの3曲目は必ずやなぎさん作曲だったのに、アレンジはもちろん作曲もお任せ。しかもボカロPのきくおさんという新しい才能を起用している。

別に曲を書くのをやめたわけではなくて今も書き続けてはいるんですけど、今回のシングルでは「ユキトキ」みたいなクールな曲を歌うのに加えて、もう1つ新しいことをやってみたいという気持ちのほうが大きくて。なんて言うんでしょう。なんか人間的じゃないことをしてみたかったというか、自分を楽器っぽく使ってみたかったというか。で、前々から好きできくおさんの曲を聴いていたので「この人なら私の声を使っていろいろ遊んでくれるんじゃないか」っていうことで声をかけさせていただきました。

──それにしても遊び過ぎですよね(笑)。バンドネオンをバックにミュージカルっぽい歌ともセリフともつかない歌メロが乗ったAメロが始まったと思ったら……。

なんか急にジャズが始まったみたいな(笑)。

──で、トリップホップみたいなフィルターかけまくりのブレイクビーツものに発展して(笑)。

どんどん曲が変化する音のラリーが面白いですよね。

※文中「Surrealisme」の「r」と「a」の間の「e」にはアキュートアクセント「'」が付く。

ニューシングル「ユキトキ」/ 2013年4月17日発売 / 1260円 /ジェネオン・ユニバーサル / GNCA-0269
ニューシングル「ユキトキ」
収録曲
  1. ユキトキ
  2. 音のない夢
  3. Surrealisme
  4. ユキトキ(instrumental)
  5. 音のない夢(instrumental)
  6. Surrealisme(instrumental)

※「Surrealisme」の「r」と「a」の間の「e」にはアキュートアクセント「'」が付く。

やなぎなぎ

関西出身の女性シンガーソングライター。2006年からライブハウスやインターネット上で音楽活動を開始する。動画投稿サイトに数多くのカバー楽曲を公開して注目を集め、「君の知らない物語」をはじめとするsupercellの楽曲にnagi名義でゲスト参加したことでも話題となった。繊細かつ透明感あふれる歌声と、印象的な楽曲の世界観が幅広い層から支持される。2012年2月、テレビアニメ「あの夏で待ってる」のエンディングテーマ「ビードロ模様」でメジャーソロデビュー。同曲はオリコンCDシングル週間ランキング11位にランクインした。以来、テレビアニメ「ヨルムンガンド」のエンディングテーマ「Ambivalentidea」、「ヨルムンガンド PERFECT ORDER」のエンディング曲「ラテラリティ」、「AMNESIA」のオープニングテーマ「Zoetrope」を発表。そして2013年4月、アニメ「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」のオープニングテーマを含む5thシングル「ユキトキ」をリリースする。