魂を込めた曲であれば、表現の形はなんでもいい
──では、1stデジタルシングル「旅にでる」「GOOD FELLOWS」について。7月のライブでも披露していた「GOOD FELLOWS」は軽快で華やかなソウルテイストのポップナンバー。そして「旅にでる」は大らかなメロディが印象的なロックチューンですが、この曲の制作はどんなふうに始まったんですか?
アコギの弾き語りです。鼻歌でメロディを作って、そこからアレンジを考えて。「今 旅に出るのさ」というサビのフレーズは最初からあって、それを膨らませていった感じかな。この曲でも歌ってますけど、過去を捨てるわけじゃなくて、全部を一緒に連れていきたいんです。“これまでと地続きの自分がちゃんといます”ということも歌わないといけないなと思って。
──「小さな足で ボクの速さで 震えたまま先へと」もそうですが、すごく率直な表現ですよね。
確かにストレートですよね(笑)。このタイミングでレーベルも移籍したんですけど、新たに出会ったスタッフの皆さんにも弾き語りのデモをいくつか聴いてもらって。「旅にでる」は「いいですね」という意見が多かったし、そこで僕自身も「自分と重なってる歌だからかな」と思ったり。そうやってみんなで磨いた感じもありますね。
──サポートメンバーの方々もそうですけど、仲間と一緒に音楽をやっていくのが合ってるのかも。
そうですね。レーベルの皆さんと初めてお会いしたときに、「雑談がしたいです」って言ったんですよ(笑)。もちろん「リリースの時期が……」みたいな話もするんだけど、これまでの経験上、雑談の中から生まれるものもあるので。そういうスキルも磨きたいです(笑)。
──雑談力を上げたいと(笑)。
そうそう(笑)。真面目な話をすると、さっきも言った通り、自分を見失ってたんですよ。人生を懸けてけてやっていたバンドが止まってしまったというのは、そういうことなので。でも、皆さんといろんな話をしたり、ちょっとずつ曲を作っていく中で、パッと晴れる瞬間があって。1曲できると少しだけ悩みから解放されて「いけるかも」と思ったり、次の日には「これだけじゃダメだよな」となったり。その繰り返しなんですけど、これから自分が“旅にでる”という感覚はずっとありますね。
──「GOOD FELLOWS」「旅にでる」はどちらも生のバンドサウンドが基調となっています。
完全にバンドの音ですよね。ドラムとベースがいて、ギターが鳴ってて。それが自分らしさでもあるのかなと思ってます。山内総一郎としての活動をスタートするにあたって、ソロプロジェクト「A-UN」(あうん)を立ち上げたんですよ。二面性というか、“変わらない山内総一郎”“変わっていく山内総一郎”が対になるような曲を届けていくというプロジェクトで。一聴すると違うように聞こえるかもしれないけど、阿吽の呼吸みたいなバランスになっている、そういう2つの側面を楽しんでもらえたらなと。
──これまでフジファブリックで培ってきたものも続けていくし、新たな表現にもトライしていく。
そうですね。キャリアを重ねてきて、だんだん「そのままの自分でいい」という気持ちにもなってきて。しっかり魂を込めた曲であれば、表現の形はなんでもありでいいと思ってるんですよね。地続きということでは、アルバム「PORTRAIT」からの流れもあるし、もっと言えば「桜の季節」(フジファブリックのデビュー曲)からもつながっていて。バンドでやってきたことに対する誇りももちろんあるし、それをずっと持ち続けて、さらにいいものを作っていきたくて。そこから外れるのは筋が通らないし、体が動かないんですよね。
──「桜の季節」もメンバー全員の「こういう音楽がやりたい」が高い純度で込められた曲ですからね。
当時のミュージックシーンのことなんてまったく考えてなかったし、手元しか見えてなかったので(笑)。あのときの状態に近いかもしれないですね、今は。もちろんまったく同じではないし、いろんな経験もさせてもらってますけど、改めて新雪に足を踏み入れるような気持ちもあるので。
一番好きな時間は戻り日です
──2ndデジタルシングル「人間だし」の制作も弾き語りから始まってるんですか?
そうなんですけど、その前に歌詞の元になるようなものを書いていて。これは僕のルーティンなんですが、朝起きて、ごはんを食べて喫茶店に行って、とりあえず日記的な感じというか、「歌詞になったらいいな」と思いながら何かを書くようにしているんです。その日は思考回路と手がつながってて、頭の中で浮かんだことをそのまま文字にしていって「人間だし、しゃあないな」みたいなことを書いたとき、ちょっと気持ちがラクになったんですよ。人間を代表してるみたいでおこがましいですけど(笑)。
──(笑)。でも、誰もが思いますよね。「人間だし、しょうがなくない?」って。
ですよね(笑)。「もしお腹が鳴くのなら そばでも食べようぜ」という歌詞もありますけど、そのとき本当にそばが食べたくて、そのあと、そば屋さんに行ったんです。それをそのまま書いただけなんだけど、「そばでも食べようぜ」って高いキーで歌う曲はないだろうなと思って。
──山内さんの日常が感じられる曲だし、フジファブリックではやれなかったかもしれないですね。
確かにそうかも。スタッフの皆さんに聴いてもらったときも「日記だね」みたいなことは誰も言わず、受け入れてくれたというか。「あ、大丈夫なんだ」と思ったし、歌詞の言葉選びでも、いろいろ冒険したいなと思ってます。
──「急かされるままに探してても 大事なもの掴めないね」も真理ですよね。特にクリエイティブにおいては、急かされて作るのはよくない気がします。
おっしゃる通り、僕も急かされるのがダメで。一番好きな時間は、移動先からの戻り日です(笑)。「今日の予定は戻るだけ」というモラトリアム感があって、曲が浮かんでくることが多いんですよ。戻り日を作るためには旅に出なくちゃいけないけど、まだツアーをやるだけの曲数がそろってないので、どんどん作らないと。あとは自分の中に余白を作ることですよね。手っ取り早いのは早起きして何もない時間を作ることなんだけど、ついつい夜更かしして、早く起きれず、「あ、もう行かなきゃ」って。
──すべての社会人が抱えている悩みですね。
(笑)。「人間だし」には「ナザレス」という歌詞もありますが、これはThe Bandの「The Weight」の冒頭に出てくる地名です。「The Weight」には「Take a load off」(荷物を降ろせよ)という歌詞があって。以前から大好きな曲なんですけど、自分のバンドが活動休止してからの時間の中で、そのフレーズがより強く響いてきた。引用というわけではないけど、「人間だし」でもそういうメッセージを伝えられたらいいなと思っていました。
──山内さんのルーツも反映されているのかも。「旅にでる」と「人間だし」のミュージックビデオの映像が対になっているのも面白いですね。
いいですよね。あのMVも“対になるものをお届けする”という「A-UN」のコンセプトとつながっていて。ここ何年か一緒に映像を作ってもらっている田辺秀伸監督にお願いしたんですけど、すごくぜいたくだし、素晴らしいMVになったなと思います。
自分のギターが好きなんですよ
──2作のシングルがリリースされたことで、ようやく本当のスタートが切れそうですね。
正直、こんなにリリースができるとは思ってなかったのでうれしいです。僕もいちリスナーとして自分の曲を聴きたいし、新しい曲をファンの皆さんと共有することで、また自分も変わっていくんだろうなと思っていて。これまでの自分を大事にしながら、新しい発見もどんどんしていきたい。そうやって表現していく中で、また何かに出会えるだろうし、成長させてもらえるんじゃないかなと。やりたいこともたくさんあるので……大変は大変ですけどね(笑)。これまでもフロントマンとしていろんなことを決定してきたんですけど、山内総一郎として活動し始めて「全然違うな」と思うこともあって。自分の判断が遅れたらプロジェクト全体の進行も遅れるし、責任感も感じながら、「がんばらないとな」と思ってます。スタッフへのLINEも早く返さないと(笑)。
──10月25日のライブも新曲が中心ですか?(※取材は10月中旬に実施)
はい。7月のライブで披露した8曲にプラスして、4曲くらい新しい曲をお届けしたいと思ってます。ソロのライブを1回経験して、音楽をやっていくこと、お客さんの前で演奏することの幸せを改めて噛み締めることができた。それを踏まえて「一緒に楽しもうぜ」という曲も作りたいし、もっとギターを弾ける曲もやりたくて。手前味噌ですけど、自分のギターが好きなんですよ(笑)。
──ギターのインスト曲もよさそう。
やりたいですね。7月のライブで披露した「海に来てしまった」という曲はもともと、ビル・フリゼールみたいな柔らかい音のギターインストのつもりで作っていたものに歌詞を付けたんですよ。そのインストバージョンも作りたいし、めっちゃギター弾きたいです(笑)。
──歌についてはどうですか?
だいぶ好きになったというか、「いいとこあるな」と思ってます(笑)。やっぱり、まっすぐに歌うというのが自分らしさかなと。ビブラートをかけないという意味ではなくて、思ったことをしっかり伝える、メッセージを届けるということなんですけどね。ちょっと生真面目に考えすぎかな?とも思うし、それこそ「肩の荷を下ろしてもいいんじゃない?」という気持ちもあるんだけど、今はこのまま進んでいきたいです。すごく幸運なことに、今は音楽を作る、演奏することに集中させてもらえていて。すべての時間を音楽に費やすのは今まで通りですけど、リスナーみんなと一緒に楽しめたり、グッとくる曲をどんどん作っていけたらな、と。そう思いながら、毎朝、喫茶店に向かってます(笑)。
ライブ情報
山内総一郎「Pre-Dawn Live In Osaka supported by UPBEAT!」
- 2025年12月1日(月)大阪府 Music Club JANUS
Wedeln's Lodge会員限定ライブ「HANASHIGAI」
- 2026年4月4日(土)東京都 恵比寿ザ・ガーデンホール
山内総一郎ワンマンライブ2026「ぶらんにゅーでい」
- 2026年4月5日(日)東京都 恵比寿ザ・ガーデンホール
- 2026年4月24日(金)大阪府 なんばHatch
プロフィール
山内総一郎(ヤマウチソウイチロウ)
1981年、大阪府茨木市生まれのアーティスト。2004年にフジファブリックのギタリストとしてメジャーデビューし、2011年からはボーカルとギターを務め、作詞作曲を手がけるように。2025年2月のフジファブリックの活動休止後、同年7月にソロライブ「The Hole In The Wall」を開催し、ソロ活動を本格始動。エイベックス内のレーベル・cutting edgeより10月22日に「旅にでる」「GOOD FELLOWS」、10月29日に「人間だし」と2作の配信シングルを連続リリース。12月1日には大阪・Music Club JANUSで「Pre-Dawn Live In Osaka supported by UPBEAT!」と題したライブを行い、2026年4月にはファンクラブ限定ライブ「HANASHIGAI」とワンマンライブ「ぶらんにゅーでい」を開催する。
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