音楽ナタリー Power Push - 山内惠介×松尾潔対談

演歌界の貴公子がR&Bのヒットメーカーと初タッグ 山内惠介物語・新章へ

違う山の登り方をしたCHEMISTRYと山内惠介

松尾 1つ象徴的なエピソードがあって。惠ちゃんがデビューした頃、自分は何やってたかなって考えたんです。

山内 2001年ですね(山内は2001年4月にシングル「霧情」でデビュー)。

松尾 そしたらびっくりしました。僕がプロデュースしたCHEMISTRYのデビュー(2001年3月にデビューシングル「PIECES OF A DREAM」を発売)とほぼ同じ時期なんです。つまり惠ちゃんとケミは同期なんですね。そのCHEMISTRYが今年5年ぶりに再始動することになって、2人から声をかけてもらった僕も十数年ぶりにケミのプロデュースを再開したんですよ。先日ワンマンライブがあったばかりなんですけど、両者の現場を行き来しながら、違う山の登り方だけど、それぞれの貴さがあるなと思って(参照:CHEMISTRY、活動再開ライブで5年ぶりにファンの前へ「ここからまたスタート」)。

山内 はい。

松尾 それがあっての今日の対談ですから。また違った愛おしさで見えるんです。惠ちゃんが16年前にデビューしてから今や紅白に2年連続出場するまでの道のりを思うと、自分の歩んできた道も改めて考えさせられて。

──お二人が歩んできたそれぞれの軌跡が今回交わったわけですね。山内さんは松尾さんのお仕事をどのようにご覧になられてきたんでしょうか。

山内惠介

山内 僕がひと言で語るのは大変おこがましいんですけど、まさにプロデューサーさんですよね。2年前、先生と出会った頃も事あるごとにCHEMISTRYさんがデビューした当時の話をされていたんです。生みの親ですから。ましてや僕が先生の歌を発売するタイミングで、そのお二人が再始動するって、やろうと思ってもできないので。すごく面白いですよね。

松尾 そうですね。ただ、いくつかの偶然も積み重ねていくとそれは必然という気がしてきますね。僕らは東京でしか会ったことないんですけど、今ではいろんな土地土地、行く先々で同じ景色を見てきたような気にさえなります。これを別の言葉で置き換えると……恋ですね。

山内 あはははは(笑)。

松尾 あるいは親友でもいい。たぶん、今惠ちゃんと一緒に福岡の街に行ったら、初めてでも懐かしい感じがすると思うんですよ。昔もここで2人でこの景色を眺めたよね、みたいな。

炭水化物、ごはんで摂るかパンで摂るか蕎麦で摂るか

松尾 今回1つ、福岡を舞台にした曲があるんですけど。

山内 はい。「黒いダイヤ」という曲を書いていただきました。

松尾 寄せましたよ、演歌に(笑)。

山内 ありがとうございます(笑)。これが最初に書いていただいた曲ですもんね。なのでこの曲をいただいたとき、僕はこれがA面になると思ったんです。

松尾 僕もそう思ってました。たぶん水森先生はこの曲を書かれるとき村田英雄さんをイメージされたんじゃないかと思うんです。

山内 九州の男という意味で。「無法松の一生」とか、そういう歌があるものですから。

松尾 男歌ですよね。

──「露天掘り」(ろてんぼり)ですとか「川筋者」(かわすじもん)とか。

左から山内惠介、松尾潔。

松尾 「♪生きんしゃーいー」ですよね。あそこの説得力。

山内 先生、こぶしが回るようになってる!(笑)

──「黒いダイヤ」は松尾さんにとって、いわゆる演歌の作詞第1号ということですか。

松尾 実はもう1個、水森先生と一緒にまずお手合わせ願った曲があるんです。それは先生が「ルールルー」って歌っていらっしゃるメロディに、あとから僕が歌詞を付けたもので。

山内 メロディが先ですか。

松尾 ポップスの世界だとほとんどがメロディが先なんです。僕は自分で詞も曲も書きますけど、だいたい「ラララ」でメロディを作って、あとで歌詞を付けて。そこから微調整していくことが多いんです。で、さっきの曲もお気に召してはいただいたんですが、水森先生が「僕のメロディに縛られずに、まず言葉を先に書いてみたらどう?」と言われて。僕もいろんな曲を作詞してきてますけど、詞先はほとんどなかったんです。

山内 えーっ! だって演歌の場合、普通は詞から曲ですよ。作詞作曲ですから。

松尾 なんなら編曲が先のこともけっこうあります。コードを決めてオケを作って、オケの上にメロディを当てて、最後に歌詞という本当に逆のことをやってるわけです。だからまさに違うカルチャーで育ってきた僕らが今回ご一緒してるっていうのは面白い話でね。炭水化物は摂ってるけど、ごはんで摂るかパンで摂るか蕎麦で摂るかみたいなものですよ。

山内 その違いは大きいですね。

「愛が信じられないなら」をいただいたときに「来た!」と思った

松尾 僕も今までパン食だった人間が初めてごはんにトライする感じで。

山内 でも、先生のごはんっておしゃれですよ。先生が書かれると絶対その匂いはするんです。

松尾 それを水森先生はじめ山内惠介チームの皆さんが面白がってくださって。しかもゼロから生み出すんじゃなく、既存の物同士を掛け合わせて、まさに化学反応を欲してらっしゃるんだなって、身の引き締まるような思いでした。そこから僕なりに水森先生のメロディを研究しまして。「黒いダイヤ」「愛が信じられないなら」「珈琲カップ」という順に制作していきました。「黒いダイヤ」でいわゆるトラディショナルな演歌というフォーマットにチャレンジしたあとに「愛が信じられないなら」を作ったのは、今考えると面白いねえ。普通「愛が信じられないなら」からいきそうじゃない?

山内惠介

山内 だから僕は「愛が信じられないなら」をいただいたときに「来た!」と思ったんです。

松尾 うれしそうにしてたよね。

山内 これぞ“和から出された洋”だったので。きっとそれは演歌に寄せて書いてくださった松尾先生の世界を僕が1回いただいていたからこそ、この曲のよさが僕もわかったんです。これを最初にもらってたら、また違ったかもしれない。

松尾 そう考えると確かにこの順番に意味があるよね。僕も今初めて気付きました。

山内 これが先生のフットワークの素晴らしさなんです。ちゃんと水森先生に寄ってくださったうえでのスタートだったから。

山内惠介 ニューシングル「愛が信じられないなら」 / 2016年3月29日発売 / Victor Entertainment
カフェ盤 [CD] 1300円 / VICL-37256
ダイヤ盤 [CD] 1300円 / VICL-37257
唄盤 [CD+DVD] 1800円 / VIZL-1132
カフェ盤 CD収録曲
  1. 愛が信じられないなら

    [作詩:松尾潔 / 作曲:水森英夫 / 編曲:馬飼野俊一]

  2. 珈琲カップ

    [作詩:松尾潔 / 作曲:水森英夫 / 編曲:馬飼野俊一]

  3. 愛が信じられないなら(オリジナルカラオケ)
  4. 珈琲カップ(オリジナルカラオケ)
ダイヤ盤 CD収録曲
  1. 愛が信じられないなら

    [作詩:松尾潔 / 作曲:水森英夫 / 編曲:馬飼野俊一]

  2. 黒いダイヤ

    [作詩:松尾潔 / 作曲:水森英夫 / 編曲:伊戸のりお]

  3. 愛が信じられないなら(オリジナルカラオケ)
  4. 黒いダイヤ(オリジナルカラオケ)
唄盤 CD収録曲
  1. 愛が信じられないなら

    [作詩:松尾潔 / 作曲:水森英夫 / 編曲:馬飼野俊一]

  2. 愛が信じられないなら 男性用オリジナルカラオケ(KEY=Cm)
  3. 愛が信じられないなら 女性用オリジナルカラオケ(KEY=F#m)
唄盤 DVD収録内容
  1. 愛が信じられないなら ミュージックビデオ
  2. 愛が信じられないなら 男性用カラオケ・ミュージックビデオ(KEY=Cm)歌詞テロップ入り
  3. 愛が信じられないなら 女性用カラオケ・ミュージックビデオ(KEY=F#m)歌詞テロップ入り

山内惠介 新曲「愛が信じられないなら」
発売記念イベント(※終了分は割愛)

2017年3月30日(木)
兵庫県 阪急西宮ガーデンズ 4階 スカイガーデン 木の葉のステージ
START 14:00
2017年3月31日(金)
愛知県 アスナル金山 明日なる!広場
START 14:00
2017年4月2日(日)
東京都 ゲートシティ大崎 アトリウム
START 14:00
※スカパー!「歌謡ポップスチャンネル」にてノンスクランブル生中継放送。
2017年4月3日(月)
福岡県 イオンモール福岡伊都 1F セントラルコート
START 14:00
山内惠介(ヤマウチケイスケ)
山内惠介

1983年5月31日生まれ、福岡県出身。“演歌界の貴公子”の異名を取る演歌歌手。1999年に作曲家・水森英夫にスカウトされ、2000年に福岡から上京。2001年4月に“ぼくはエンカな高校生”というキャッチコピーのもと、シングル「霧情」でデビューした。2014年3月に発売したシングル「恋の手本」は、オリコン週間シングルランキングで初のトップ10入りを果たす。デビュー15周年を迎えた2015年には、2月にアニバーサリーシングル「スポットライト」をリリースし、この年の年末に初めて「NHK紅白歌合戦」に出場。2年連続出場となった2016年末の「紅白」では、「流転の波止場 ~究極の貴公子編~」と題し、乃木坂46とのコラボステージを披露して話題を集めた。2017年3月にニューシングル「愛が信じられないなら」をリリースした。

松尾潔(マツオキヨシ)
松尾潔

1968年1月4日生まれ。福岡県出身の音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。早稲田大学在学中にR&BやHIP HOPを主な対象として執筆活動を開始する。久保田利伸との交流をきっかけに、1990年代半ばから音楽制作に携わり、SPEED、MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。その後自身がプロデュースした平井堅、CHEMISTRYにミリオンセラーをもたらし、彼らをスターダムへと押し上げた。また東方神起やKといった韓国人アーティストの日本デビューに関わり、K-POP市場拡大の原動力となる。2008年、EXILE「Ti Amo」(作詞・作曲・プロデュース)で「第50回日本レコード大賞」の大賞を受賞。2011年、JUJU「この夜を止めてよ」(作詞・プロデュース)で「第53回日本レコード大賞」優秀作品賞を受賞するなど、ヒット曲、受賞歴多数。プロデューサーおよびソングライターとして鈴木雅之、EXILE、JUJU、由紀さおり、坂本冬美、三代目J Soul Brothers、Flowerなど数多くのアーティストに提供した楽曲の累計セールス枚数は3000万枚を超す。2014年、初めての音楽エッセイ集「松尾潔のメロウな日々」を上梓し、翌2015年には続編「松尾潔のメロウな季節」を出版。NHK-FMの人気番組「松尾潔のメロウな夜」は放送8年目を数える。