yaiko(矢井田瞳)|デビュー20周年に向けた新たな一歩、名曲セルフカバーを含む新作完成

矢井田瞳が自身の愛称である“yaiko”名義で新作ミニアルバム「Beginning」をリリースした。

2020年に迎えるデビュー20周年に向けたプロジェクトの第1弾としてリリースされるこの作品には、彼女がこれまで発表した代表曲「My Sweet Darlin'」「How?」「Life's like a love song」のリアレンジバージョンに、新曲「いつまでも続くブルー」を加えた全4曲が収録されている。制作にはアコースティックユニット・高高-takataka-の2人と、サウンドプロデューサーとしてUNISTのGAKUが参加。全編アコースティックなサウンドで今の矢井田の思いを心地よく響かせている。

20周年を目前に、改めて“Beginning”というワードを掲げて動き出した彼女は今、どんな思いで音楽と向き合っているのだろうか。本人に話を聞いた。

取材・文 / もりひでゆき 撮影 / 草場雄介

「来年で20周年を迎えるんだ」とハッと気付いて

──矢井田さんは2016年リリースのアルバム「TIME CLIP」以降はツアーやイベント出演などライブを中心に活動されていましたが、その間も曲作りは行っていたんですか?

やってはいました。ただ、なかなかうまく形にできなかったというか。そういう意味では、ありがたいことにライブをコンスタントにやらせていただきつつも、制作に関してちょっとしんどい時期だったかもしれないです。

yaiko(矢井田瞳)

──制作がうまくいかないことに何か理由はあったんですか?

単純に人生の波の中でそういう時期だった、ということなんだと思います(笑)。先回りしすぎて「ああ、この曲じゃダメかもな」と自分ですぐあきらめてしまうことも多かったから、そこに関して反省はしてるんですけど。

──新曲「いつまでも続くブルー」には「先回りあきらめた そんな自分にもう戻らない」といった歌詞がありますね。

そうそう、まさに今はそんな気持ち(笑)。制作がうまくいかない時期を過ごしてる最中に、「来年でデビュー20周年を迎えるんだ」とハッと気付いて。そんな状態でその節目に突入するのは自分的に悔しかったから、改めて気持ちを切り替えようと思ったんです。よし、新たな始まりのきっかけになるような作品を作ろうと。

──そうして完成したのが本作「Beginning」なわけですね。今回はご自身の愛称でもある“yaiko”名義でのリリースになります。

原点回帰と言いますか、デビュー当時からファンの方が親しみを込めて呼んでくれていた愛称で20周年に向けた活動をしてみるのもいいかもと思ったんです。昔の気持ちを思い出しつつ、ちゃんと未来にもつなげられる気がしたので。

楽しさのあまり気付けば5時間セッション

──今回は矢井田さんの代表曲のリアレンジバージョンに新曲を加えた全4曲が収録されていて、全編にアコースティックなムードが漂っていますよね。サウンド的にそういった方向性になったのはどうしてだったんですか?

これまでアコギ1本での弾き語りツアーを何度かやらせていただいてきた中で、最初は孤独で怖いなという思いもあったけど、だんだんとその面白さを実感するようになったんです。弾き語りはこんなにも自由で、アコギにはこんなにも可能性があるんだなって気付いて。しかもアコギ1本でお客さんとつながった瞬間の気持ちよさはほかでは味わえないものでもあって。なので今回は、ご縁があって出会うことができた高高-takataka-のお二人と一緒にアコースティックの世界を掘り下げた作品にしようと思ったんです。

──takatakaは高瀬亮佑さんと高田歩さんによるアコースティックユニットですよね。

yaiko(矢井田瞳)

そうそう。彼らは同期を使わずにすべて人力でパフォーマンスするんだけど、アコギのボディを叩くことでパーカッシブな音を出したり、エフェクターをたくさん使ったりして、ものすごくカッコいいライブをするんです。その姿を拝見したときに、もしtakatakaの中に私も入ることができたら、yaikoとしてもっといろんなことができるんじゃないか、可能性がもっと広がるんじゃないかなと思えて。それで今回参加していただくことにしたんです。

──アレンジャーとしてUNISTのドラマー・GAKUさんの名前もクレジットされていますが、これはどういったつながりから?

takatakaのお二人から紹介していただき、サウンドプロデューサーとして参加していただくことになりました。でね、今回の作品を作るにあたって私からスタッフさんにリクエストしたのは、とにかくみんなと一緒にリハスタに入りたいということで(笑)。今のご時世、データのやり取りだけで曲を作ることもできちゃいますけど、そうではなくちゃんと面と向き合い、その人となりやその人の鳴らす音楽を理解した上で作品を作っていきたかったんですよね。なのでサウンドはみんなで街のリハスタに入り、一緒にたくさん演奏する中から生まれていきました。スケジュールの調整とかで大変な部分もあったけど、ホントにやりがいのある楽しい時間でしたね。だって、毎回ごはんを食べるのも忘れるくらいで、気付いたら「あ、もう5時間経ってた」みたいな感じでしたから(笑)。

──バンドを始めたばかりの感覚のようですね。みんなで音を鳴らすのが楽しくてしょうがないっていう。

ホントにそんな感じ(笑)。アコギのストローク1つを取っても、みんなそれぞれ個性があって、その違いもすごく面白くて。しかも私の中には20年の間に染みついた演奏のクセみたいなものがあるんですけど、GAKUさんはそれをぶっ壊すように新しい提案をしてくださるんですよ。いつもやってるのとは違ったパターンのストロークに頭の中がパニックになるんだけど(笑)、そこを乗り越えた瞬間に新しい世界がパーッと広がってくるんです。その感覚は1人だけでやっていたのでは味わえなかったと思いますね。そもそも、1枚の作品をサウンドプロデューサーも含めて同じメンバーだけで作り上げること自体初めてのことだったから、すごく有意義な時間を過ごせました。