音楽ナタリー Power Push - 矢井田瞳
デビューから15年 変わらない気持ちと新たな挑戦
矢井田瞳が3月2日にニューアルバム「TIME CLIP」をリリースする。
デビュー15周年イヤーの最中に完成した本作は、キャリアの集大成と新たなトライという意味から、water 、山口洋(HEATWAVE)、久保田光太郎ら旧知の面々と、宮井英俊やakkinなど今回初めてタッグを組むアレンジャーを起用。今の彼女自身が思い描く、生きるためのリアルを感じさせるアルバムに仕上がっている。
音楽ナタリーでは矢井田本人にインタビューを実施。本作の制作エピソードと共に、彼女の15年の歩みを振り返ってもらった。
取材・文 / もりひでゆき 撮影 /塚原孝顕
より人間らしい音楽を
──約3年半ぶりのニューアルバムですが、収録曲にはライブですでに披露されている曲もいくつかありますね。
「MOON」「YOUR SONG」「世界と私の間」はそうですね。2014年と2015年にやったツアーはリリースを受けてのものではなかったので、お客さんに新しい曲を聴いてもらいたいなと思って作っていたのがこの3曲です。アルバムに関して言うと、具体的にリリースを見据え始めたのは2014年の秋くらいかな。15周年の期間内には出したいなという気持ちで制作を始めました。
──その段階で思い描いていた全体像はどんなものでしたか?
テーマやコンセプトはいつも通り決めてはいなかったんですけど、いい意味で枠からはみ出した生々しいアルバムになってくれたらいいなっていう気持ちはありましたね。
──そのイメージをもう少し具体的に聞かせていただけますか?
15年やってきて改めて思うんですけど、私がカッコいいと思う音楽は、それを放つ人の魂がしっかり込められたものなんですよ。例えば、「明日もがんばろう」ってみんなに当てはまることを歌うのも大切なことではあるけど、単純にそれだけを歌うのではなく、「俺には汚い部分もあるけどがんばろう」とか「私はすごく嫉妬深いけど明日もがんばれそうだな」とか、裏側にあるものを肉付けすることで、より人間らしい音楽になるなって。そういうものが私は好きなので、自分なりのフィルターを通してそれを表現できたらいいなってなんとなく思っていたんですよね。
──なるほど。確かに本作の楽曲群は、最終的に希望とか光が見えるものばかりですが、そこに至る過程には生きることのままならなさ、不安や苛立ちみたいなものがしっかり描かれていますもんね。だからこそ、ものすごくリアリティを伴って心に響いてくる感じがありました。
デビュー当時はキレイごとだけで突っ走る強さみたいなものもあったし、無知だからこそできることもいっぱいあったんですよね。でも今はそういう部分を求められてはいないなって思ったんです。もちろん昔の曲はとても大切で、それをライブでやることの意味もあるんですけど、今の私が書く曲はそういうものではないなって。今回は特に自分と同世代の方にきちんと響くような言葉選びやサウンドにしたいという願いも強くあったと思いますね。
──そんなアルバムに「TIME CLIP」というタイトルを付けたのはどうしてですか?
今作は約3年かけてじっくり作ったアルバムなんです。その間に、友達のことを思う時間や音楽のことを思う時間、大切な人を思う時間や自分の闇について考える時間があって。そういう中で感じてきた閉じ込めたい感情や景色を曲にしていきました。それらをまとめたこのアルバムっていうのは、皆さんが大切な資料や写真をクリップでまとめる感じに似てるなあと思ったので「TIME CLIP」というタイトルにしました。
15年の歳月を一瞬で取り戻した
──アルバムには矢井田さんが生きてきたいろいろな瞬間の景色が詰まっているように感じました。全編通して聴くと、その根底には“人とのつながり”というテーマがあるんじゃないでしょうか。1曲目の「Circle」で歌われていることが象徴的ですけど。
まさにそうなんですよ。アルバムタイトルも実は「Circle」にしようか迷ったんです。人生にはいろいろなことがあって、決して楽しいことばかりではないし、“きれいな円を保ち続けること”は難しいんですよね。でも、誰かとつながれていることを感じる強さがあれば、明日もがんばれそうだなって少しでも思えるような気がしたんです。なので、全曲通して、そういったテンションで書いていたところはありました。
──“人とのつながり”を強く意識するようになったきっかけは何かあったんですか?
デビューからの15年を振り返ると、すごく密にお仕事をしていた人と一時期離れることもあったわけで。でも、時間が経って、ふとしたきっかけでまたその方と出会うときが訪れたりもする。そういう出会いやご縁みたいなものを感じる瞬間が、去年は特に重なったので、自分の中で人とのつながりについてを改めて考える機会が多かったんです。それが自然と曲にも反映されていったんだと思います。
──鎌田雅人さん率いるバンド・waterがアレンジと演奏で参加している「YOUR SONG」は、まさにそういったひさしぶりの出会いが形になったものなんですよね。
まだ矢井田瞳としてデビューする前、SEESEE名義で曲を作ったときにお世話になった方々と15、6年の時を経てご一緒できたんです。めちゃめちゃ感慨深かったですよ。昔話に、15年分の厚みがあったりもして(笑)。実際お会いしてみたら、時の流れを一瞬で取り戻せた感じがしたのも、楽しかったですね。
──その再会は矢井田さんの思いが引き寄せたんですよね。
そうですね。今回のアルバムには、この15年間の集大成的な意味合いをサブストーリーとして入れたかったんですよ。ギタリストの西川(進)さんに参加してもらっていますし、デビュー当時からお世話になっていた人との関係もきちんと描いていきたいなって。その中で鎌田さんともう一度やることにも意味があると思ったんです。ライブでずっと弾き語りでやっていた「YOUR SONG」はレコーディング用のアレンジをどうするかが難しくて。いろいろ探っていくうちにバンドで「せーの」で録るのが一番有機的で、曲の強さも壊さないと思ったので、バンドごと参加していただいたんです。
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- ニューアルバム「TIME CLIP」2016年3月2日発売 / ヤマハミュージックコミュニケーションズ
- 初回限定盤[CD+Blu-ray] 5616円 / YCCW-10267/B
- 通常盤[CD] 3240円 / YCCW-10268
初回限定盤CD収録曲
- Circle
- MOON
- SEKIRARA
- 東京タワーと蟻
- 幸せ呼ぶメロディ
- 世界と私の間
- machine
- WAVE
- YOUR SONG
- It's Time
- My Sweet Darlin'(ボーナストラック)
- Life's Like A Love Song(ボーナストラック)
- 地平線と君と僕(ボーナストラック)
※ボーナストラックは2015年8月15日に行われた「弾き語り TOUR 2015 ~ヤイダヒトリ元気祭り ver.~」東京・LIVING ROOM CAFE by eplus公演のライブ音源。
通常盤CD収録曲
- Circle
- MOON
- SEKIRARA
- 東京タワーと蟻
- 幸せ呼ぶメロディ
- 世界と私の間
- machine
- WAVE
- YOUR SONG
- It's Time
- YOUR SONG(ボーナストラック)
- Life's Like A Love Song(ボーナストラック)
- Over The Distance(ボーナストラック)
※ボーナストラックは2015年8月15日に行われた「弾き語り TOUR 2015 ~ヤイダヒトリ元気祭り ver.~」東京・LIVING ROOM CAFE by eplus公演のライブ音源。
初回限定盤Blu-ray収録内容
- 矢井田瞳 the 15th anniversary 2015-2016 弾き語り TOUR 2015 ~ヤイダヒトリ~ digest
- 矢井田瞳 the 15th anniversary 2015-2016 LIVE TOUR "15"@ 赤坂BLITZ 12.12.2015
- 世界と私の間
- 明日からの手紙
- 雨と嘘
- B'coz I Love You
- もぎたての憂鬱
- Buzzstyle
- 君こそ道しるべ
- 「MOON」MUSIC VIDEO
- BTS Movie of yaiko
ライブ情報
矢井田瞳LIVE TOUR 2016「TIME CLIP」
- 2016年4月16日(土)愛知県 Zepp Nagoya
- 2016年4月22日(金)大阪府 Zepp Namba
- 2016年5月2日(月)東京都 Zepp DiverCity TOKYO
矢井田瞳(ヤイダヒトミ)
1978年大阪生まれ。19歳でギターを始め、同時に作曲活動も開始する。デモテープ作りを繰り返す中、2000年5月にシングル「Howling」をインディーズからリリース。同年7月にはシングル「B'coz I Love You」でメジャーデビューを果たす。結婚と産休を経て、2010年より所属事務所をヤマハミュージックアーティストへ移籍し活動を再開。2011年にニューアルバム「VIVID MOMENTS」を発表した。デビュー15周年を迎えた2015年には、弾き語りツアー「矢井田瞳 弾き語りTOUR2015~ヤイダヒトリ~」や、バンド編成でのツアー「矢井田瞳 LIVE TOUR "15"」を開催。2016年3月にニューアルバム「TIME CLIP」をリリースする。