変わらないのは初めてCコードを弾いたときの気持ち

──また、今回の作品はライブの光景が浮かぶ内容になっている印象も強くて。そのあたりは制作の段階で意識されていたんですか？

昔は目の前のことだけを考えて曲を作っていましたけど、今はこの曲を10年後20年後にライブでやるとしたらどんな形でやれるかなっていうことまで考えるようになりました。私はデビュー以来、同期を使ったライブをしたことがないので、生身の人間がその日にしかできないライブをするっていう大前提が変わらずにあるんです。なので曲を作るときもそこから逆算して、ライブではどんな編成でできるかな、左のギターの人にはこんなフレーズを弾いてもらったらいいんじゃないかな、とかいろいろ考えるようになって。

──「幸せ呼ぶメロディ」は会場全体でシンガロングするハッピーな景色が浮かびます。

この曲はライブに来てくれるお客さんのことを思い浮かべながら書いた曲なんです。去年、弾き語りツアーをやって気付いたことなんですけど、自分の曲のレパートリーにはもう少し人生観を描いたものや、ライブに会いに来てくれたお客さんにグッと響くものがあったらいいなと思って。そういうことを意識したことがあまりなかったので、曲を書いていても楽しかったですし、新しいテーマがあることはありがたいことでもあるなと思いました。

──改めてデビューからの15年を振り返って思うことはありますか？

前半戦は洗濯機の中に入れられてグルグル回っていたみたいな、めまぐるしい感じがありましたけど（笑）、だからこそ楽曲という財産もたくさん生まれたわけで。その上で後半戦はいろいろな人との出会いに救われてきたなってすごく思っています。1人でやることには限りがあることを実感したので、誰かと曲を作る喜びを感じていると、ここからもがんばれそうだなって思いますね。

──昔思い描いていたご自身の理想像に近づいた印象はあります？

いや、理想像みたいなのはもうそんなに意識してないんですよ。私はこうじゃなきゃいけない、こうあるべきだみたいなものを最近はどんどん破壊していく作業に入っている気がします（笑）。昔はそれこそ「歌手って言われたくない、私はシンガーソングライターなんだ」とか、そういうくだらないことを考えたりしていたけど、今はもうそういう変なこだわりはないんです。ここまでに積み上げてきたものを崩していくことで、新たな川から水が流れてくることもあるだろうし、新たな流れに乗れることもあるんじゃないかなって。そういうイメージなんですよね。

──より柔軟な思考になることで、動ける場所がどんどん広がっていくと。

そうそう。それが怖いときももちろんあるけど、でもそういう怖さを実感して生きていくことも幸せなことだと思うんです。15年経ってもいろんなチャレンジができるって幸せなことじゃないですか。

──いろんなものを壊す作業の中で、変わらずに残り続けているものって何かありますか？

残っているのは、18歳か19歳のときにギターを初めて持って、Cコードをゆっくりジャーンって弾いたときの気持ちかな。私は小さい頃からいろんな習い事をさせてもらっていたけど基本的に飽き性だから、何を習っても「こんなことを極めて何になるんだろう」と思ってたんです。でもギターに関しては、「あ、これ一生できる！」って思った。その感覚は変わらずに今も残ってるんですよね。それはすごくありがたいです。

──これから16年目以降にやりたいことは？

もっともっとライブがしたいです。音楽をやる人間として、ライブはすごくわかりやすいし、正しいような気がしているんですよ。聴きに来てくれる人と歌う人がそこにいて、一緒にその日だけの空間を作るっていうあの雰囲気がすごく健康的だなって。なので、ここからさらに精進していきたいなって思いますね。

──「It’s Time」では「すべてはここから」と歌われていますが、そういう気持ちも強いですか。

うん。自分でお尻を叩いたり、自分できっちり線引きしないと、人としてダラダラ落ちていってしまう気がするので、常に「よし！」って気合いを入れるようにしています。その気合いが「すべてはここから」っていうことなんだと思います。前を見れば素晴らしい先輩ミュージシャンの方々がいらっしゃるので、そこに追いつけるように今やるべきことを一歩一歩やっていかなきゃなって。

──4月からは東名阪ツアーも決定しています。

このツアーがちょうど15周年イヤーの締めくくりの時期なので、これまでの集大成的なものをお見せしつつ、ライブを意識して作った「TIME CLIP」の曲もたくさんお届けしつつ、パーッと打ちあがるようなライブにしたいなと思ってます。