XinU「XinU EP #04」特集|心境の変化、音楽的な進化を詰め込んだメジャー移籍後初EP (2/3)

「Monday to Friday」はメジャー1作目にふさわしい曲

──では、ここからはEPについて1曲1曲もう少し詳しく聞いていきます。まずは「Monday to Friday」について。この曲はXinUさん、松下さん、庄司さん(デビュー時から制作とライブに深く関与しているギタリストの庄司陽太)によるコライトですね。

今年の2月頃から庄司さんや武藤くん(XinUのバンドのピアニスト・武藤勇樹)がいろんなアイデアを出してくれて、ああでもないこうでもないとやっていたんですけど、なかなか「これだ!」という感じにならなくて、じゃあ原点に戻って、松下さんのスタジオで庄司さんと私と3人でセッションをしようと。ビートありきの制作がこれまでは多かったけど、1曲目はより強いメロディで惹き付けるものにしたかったから、ビートのことは1回置いて、ギターと歌で作ってみようとセッションしてみたんです。そうしたら「繰り返す Monday&Tuesday」というサビができて、「ああ、このメロディならみんなも一緒に歌いたくなるね。いいメロディだね」となった。これこそメジャー1作目にふさわしいという確信が持てたんです。

──確かに強いメロディがありつつ、松下さんのプログラミングによるビートが現代的でノリやすいし、そこにバイオリンの優雅な音が混ざるのもいいですよね。徐々に楽曲の全体像が明確になっていったんですか?

最初はメロディだけだったんですけど、ライブでみんなで横揺れできる曲、一体感が生まれそうな曲が欲しくて、ヒップホップビートを取り入れることにしたんです。あと、EPの1曲目ということで豪華にしたかったので、バイオリンとビオラの梶谷裕子さんに来ていただいて。キングレコードのスタジオで豪華に弦の音を入れていただきました。

──歌詞は、ちょっとした楽しみや約束を支えにして忙しい日々を乗り越えようとがんばる心の在り方を書いたものですね。

私自身、その積み重ねでどうにか生きているところがあるんです(笑)。「楽しい約束の日のために今日をがんばる!」みたいな。みんなにとっては、その楽しみがライブの日だったりもするのかなとか思いながら書きました。「繰り返すMonday&Tuesday」というサビが出てきたときに、これで1週間を表せると思って、そこから書きたいことがスラスラと出てきました。

Aile The Shotaとの会話から生まれた「Timing」

──2曲目は「Timing (feat. Aile The Shota)」。Aile The Shotaさんと一緒にやることになったきっかけは?

3年前くらいにShotaくんのラジオ番組にゲストで呼んでもらったんです。それ以前からお互いの音楽を聴いていて、私はShotaくんの声のファンだったし、Shotaくんは私の声をいいと思ってくれていたらしいんですよ。ラジオで共演したあとも、イベントとかでたまに会っては「一緒にやりたいね」と話していて、今回ようやく叶ったという。Shotaくんとコラボするならこんな感じがいいなっていうアイデアは、私の中に3年前からありました。当時Shotaくんは、エフェクティブなボーカル処理をした音源をけっこう出していたんですけど、私は彼の素の声を聴いてみたかった。そういう素の声とハモりたいなって。

──自分の声と彼の素直な声を重ねたら合うんじゃないかというイメージが湧いていた。

はい。合うだろうなとずっと思っていました。で、一緒にやることが決まったので、オンラインミーティングで「朝聴いて、さわやかな感じのする曲とかどう?」と聞いたら、彼も「最近そういうのをやってないから、やってみたいです」と言ってくれて。それから松下さんのスタジオに来てもらって、メロディのアイデアを交互に出し合いました。その中でサビの形ができて、じゃあ歌詞の方向性を決めようとなんとなく2人で会話しているときに「そういえば今日、ここに来るときの空の色がやけに青くなかった?」「いや、めっちゃ青かったですよね!」って話になって……。

──歌詞にある「アニメみたいに綺麗な空」だったよねと(笑)。

そうそう(笑)。「なんかジブリのアニメに出てくるような空の色だったよね」って。大人になって空の色の話をすることって、普段そんなにないじゃないですか。でも思わず話したくなるくらいにきれいだった。「心に余裕がないと空の色のことなんて気にしないものだよね」「心に余裕を持つことって本当に大事だよね。じゃないと自分にも他人にも優しくなれないよね」という話にもなり、そんなところからお互いの近況であるとか、最近よく思うことなんかを話していたら、Shotaくんがその場で歌詞をスマホで書き始めたんです。「なんとなくできたんで1回歌ってみてもいいですか?」と言って、「ラップでお願いします」ともなんとも言ってないのにラップし始めて。

──さすがですね。

本当に。「それ、めっちゃいいね!」ということでShotaくんのパートが大方できたので、私は私で持ち帰って、Aメロのメロディ作りと歌詞作りに取りかかりました。

XinU

──そんなふうに誰かと一緒にゼロから作ることって、今までありましたっけ?

初めてですね。しかも2人の会話からこんなふうに自然に歌詞ができるというのが面白かったし、うれしかった。

──ShotaさんのラップパートとXinUさんの歌詞のすり合わせもされたんですか?

基本的にはそれぞれのストーリーでいいんじゃないかという話をしましたけど、サビでは2人が共感したテーマをしっかり書こうと。2人の会話がベースになっているけど、結果的にすごく普遍的なテーマを歌った曲になったんじゃないかなと思います。

──歌やラップのレコーディングはどのように進めたんですか?

歌も一緒に。歌詞ができたところでレコーディングの日を決めてShotaくんに来てもらい、まず彼のパートから録りました。その段階でもう「最高!」となったので、その熱が冷めないように続けて私の歌を録って。それもファーストテイクでOKが出たんですよ。自分でもびっくりするくらいうまくいって、心の持ちようって大事だなと思いましたね。Shotaくんのバイブスがすごくよかったことも確実に影響していて。そういう意味で、本当にいい制作と録音を経験できたと思います。

──プログラミングやアレンジは松下さんによるものですが、このチキチキしたビート感は1990年代後半のヒップホップ / R&Bをアップデートしたような印象を受けました。

ハウスとツーステップが混ざったようなテイストもあり、XinUの今までの曲になかったものだったので新鮮でしたね。ジェットコースターに乗っているようなスピード感があって、歌っていて楽しかったです。

ダメ元で実現したMichael Kanekoとの共作

──3曲目はMichael Kanekoさんが作曲および全楽器の演奏、プロデュースを担当した「Day 6」です。Aメロ、Bメロ、サビという展開の曲で、今作の6曲の中では最もオーソドックスな歌モノになっています。こんな曲を作ってほしいというリクエストはされたんですか?

ドライブに合うような軽やかな曲を、とオーダーしたんですけど、こういう憂いのある曲が送られてきて「これはこれでめちゃめちゃいいからこれでいきましょう!」と(笑)。結果的にほかの曲と全然違う感じになったので、バランス的にもすごくよかったです。そうそう、Michaelさんに曲を書いてくださいとお願いしたのは、ADRIFTのライブ(8月3日に下北沢ADRIFで開催された都市型プチフェス「XinU presents Collective MUSIC / ART / POP UP! Market」)のときだったんですよ。前からお願いしたいと思っていたんですけど、あの日のライブが素晴らしかったので、Michaelさんは演奏を終えたばかりだったのに「今度EPを出すので、タイミングが許せば1曲書いていただけませんか?」とお願いして。締め切りも近かったしダメ元だったんですが、快諾してくださって実現しちゃいました(笑)。

XinU

──歌詞はXinUさんが書いていますが、Michaelさんの曲が送られてきてから書いたんですか?

7月に伊香保の原美術館に行って、ソフィ・カルというフランスの芸術家の展示を見たんです。その中にソフィ・カルさんが経験した大失恋から日を追うごとにその痛みが癒えていくことを表わした展示があったんですけど、それが強烈なインパクトで。その影響から、ある日を起点に自分の傷がどう癒えていくのかをカウントダウンするように書いてみたら面白いんじゃないかとアイデアが浮かんできて。Michaelさんから曲が届いたとき、この独特の浮遊感みたいなものにそういう物語がすごく合うんじゃないかと思ったんです。別れの喪失感と、そこから徐々に傷を癒して前に進もうとする思いの両方が、この曲なら表現できるんじゃないかと。

──なるほど。初めはDAY 1、DAY 2、DAY 3と進んでいくけど、途中から今度はDAY 6、DAY 5、DAY 4と戻っていく。この形式はユニークですね。

サビで思いきり切なくなっているけど、そこから全部忘れてまた別々の道を歩き出そうという思いを、この型を作ったことによってうまく表現することができた。今まで私は型とか設定を作って歌詞を書くということをほとんどしてこなかったんですけど、この曲や「Monday to Friday」には時間を動かして書くという型があるし、「バースデーナイト」には設定がある。型や設定があるうえで気持ちを表現するみたいなことを今回のEPで初めてやれました。

──確かにこの書き方は新鮮だし、表現の枠が広がっている感じがします。歌い方に関しては何か心がけたことはありましたか?

Michaelさんが歌を入れてくださったデモが気だるい雰囲気だったので、私もちょっと気だるさを表せればいいなと思って歌いました。そのためにはあんまり練習しないで臨んだほうがいいだろうと。ほかの曲は家で歌い込んでから本番に臨んだんですけど、これはその場で語るように歌ったほうが雰囲気が出るだろうなと考えました。