WOWOW 緑黄色社会「SINGALONG tour 2020 -夏を生きる-」|去年とは違う夏、生の音楽を届ける喜び

曲を聴いたすべての人たちへ

──リョクシャカはライブの規模をどんどん大きくしていますよね。曲作りの際に、曲が背負う人々の期待や思いが大きくなっていることを意識されたりするのでしょうか。

長屋 見たい景色は大きくなってきているけど、曲を作るときのマインドはあまり変わっていないですね。私が書く曲に関しては、第一に出てくるのはやっぱり自分自身で、そこに大勢の人が見えているかと言われればそうではない。あくまでも、自分の気持ちから広げていくという感覚だと思います。まず最初に自分自身が愛せる曲を書くし、その先でみんなにも愛される曲になってほしいと思いますね。

小林壱誓(G, Cho)

小林 僕は、「SINGALONG」に入っている「Brand New World」を初めからお客さんのことを想像して書きました。曲を作っているときにギターを弾いていたら言葉も一緒に浮かんできて、自分で「これ誰のことを歌っているんだろう?」と考えたら、「お客さんのことだ」と。それ以外の曲に関しては長屋と一緒で、周りのことは意識せずに作っていきますね。

peppe 私は、そもそもの理想として「老若男女に届く曲を作りたい」という気持ちが常にあるし、それはどんどん強くなっている気がするかなあ。

穴見 なるほどね。僕は長屋や壱誓と同じように、素の状態でゼロからイチを生み出すタイプだけど、そこから「どういう聴かせ方をするか?」ということを考える感覚は変わってきたかもしれない。例えばアルバム収録曲の「Mela!」は、みんなが参加できるような曲を作ろうとトライした曲だったし、最近も曲作りをしながらイメージするのは、ファンだけでなく“この曲を聴いたすべての人たち”なんですよね。聴いた人みんなに、マジで感動してほしいというか。

──リョクシャカファンだけではなく、テレビやラジオで曲を聴いた人や何気なく街で流れているのを聴いた人とか、そういう人たちの存在のことも見え始めているということですよね。

穴見 そうです。自分たちは今、そういうフェーズにきているのかなと考えたりします。

寂しさを感じずにいられた2時間

──「夏を生きる」は、WOWOWメンバーズオンデマンドで生配信された無観客ライブ「SINGALONG tour 2020 -夏を生きる-」で初披露されたんですよね。このライブの模様は9月27日にもWOWOWで放送されますが、この生配信ライブの手応えはいかがでしたか?

peppe WOWOW限定のライブはほかのアーティストさんたちもやっているし、いつも「いいな。私たちもやりたいな」と思っていて。なので、話が決まった頃からずっとワクワクしていました。やっぱりその日2時間だけのライブを作るのは、いつものワンマンライブに向き合う感覚とは違うものなんですよね。普通は数か所会場があって初日と最終日では演出やセットリストも変わってくるけど、今回のWOWOWのライブはすべてが“その日だけ”で、だからこそ特別感があった。なので私はリハーサルの段階から貧血になっちゃったんですけど(笑)。

──めちゃくちゃ気合いを入れていたんですね(笑)。

左から穴見真吾(B, Cho)、長屋晴子(Vo, G)。

穴見 リハ中断したもんね(笑)。あと、この日はライブスタッフさんとひさしぶりに会って一緒にものを作ることができたのがうれしかったです。自宅で動画を撮るのとはまったく違う感覚で、「みんなでものを作り上げていくって、こういうことだよな」と思って。本当に1人じゃできないことだらけなんですよね。そんな当たり前のことを改めて感じて、リハのときからすでにウルッときてました。

──この状況になってから配信ライブが行われることが多くなりましたけど、観るたびに改めて思うのは、ライブは演者だけでなく照明やカメラさんなど、さまざまな役割の人たちが一緒に作り上げる総力戦なんですよね。

小林 ホント、生配信とは思えないクオリティでした。自分でも「こんな映像観たことないぞ」と思うような、映像作品というか。そもそも演奏する身としても、今回の企画はいつもの有観客ライブとは別物として考えようと思っていました。やっぱりお客さんがいないと本番中に相乗効果で熱くなっていく感覚は味わえない。だから配信ライブはあくまでも別物として考えつつ、僕ら自身で高め合っていけるような内容を目指していきました。

長屋 フロアにもセットを組もうとか、客席も使った演出をしようとか、ハンディカメラを持とうとか、無観客ならではの演出を事前に細かくミーティングしたので、お客さんがいない寂しさを感じずにいられた2時間だったと思います。それはもちろん自分たちのためでもあり、お客さんに向けたものでもあって。私だったら配信ライブを2時間観続けるのって、家には誘惑がいっぱいあるしキツいと思うんですよ。だから、その間ずっと観てもらえるような仕掛けをいろいろ用意したんです。

小林 まずステージのセットからアガったよね。照明もカッコよくて。あと、普段のライブでは僕はステージから降りたりしないんですけど、今回はやってみたんです。そうしたら、階段から足を踏み外して思いきり落ちちゃって(苦笑)。

──ええ!? 小林さんがステージから降りる場面、衝動的に飛び降りたように見えてカッコよかったですけど、あのとき本当は落ちていたんですか?

長屋 ジャンプをミスして着地が危うかったんだよね?

小林 そうそう。足がコンニャクみたいになっちゃって(笑)。

peppe(Key, Cho)

peppe あと「にちようび」を演奏したときの演出では、観ている人たちと同じような状況をセットで作ろうと思って。ソファーを用意して、長屋に寝転がりながら歌ってもらいました(笑)。

長屋 「日曜日は何もしたくない」って歌っている曲だからね(笑)。

穴見 僕はあの日、演奏に集中できたのがよかったです。より親身になって音楽を届ける気持ちになれたし、特にセットリストは「SINGALONG」収録のまだライブで披露できていない曲ばかりだったので、どうやって観ている人たちを驚かせようかと考えてワクワクする時間が楽しかった。例えば「Mela!」では間奏を音源よりも1分半くらい伸ばしてそこでソロ回しをやっているんです。ここはけっこうヤバいアレンジになっていて、僕もRed Hot Chili Peppersのフリーばりにジャンプをかましています(笑)。

peppe 私も普段はフレーズを作り込んでからライブに挑むんですけど、今回の「Mela!」の間奏だけは何も決めずに、その場の感情で弾いたんです。できてもできなくても、どうせテンションは上がっているし、そんな自分を私自身も見てみたいなと思って挑戦しました。