平原綾香のデビュー20周年を記念した全国ツアー「平原綾香 20th Anniversary Concert Tour 2023 ~Walking with A-ya~」が、今年9月にスタートした。
2003年のシングル「Jupiter」でのアーティストデビューから20周年を迎えた平原。これを記念して行われている今回のツアーには、共同演出として親交のある松任谷正隆が参加しており、歌手、ミュージシャン、ミュージカル俳優など、さまざまな形でエンタテインメントに携わってきた平原の軌跡を多角的に表現することに成功している。このツアーのうち、12月16日に行われた東京・東京国際フォーラム ホールA公演の模様は、12月28日にWOWOWプラスにて、全曲ノーカットで放送される。
音楽ナタリーではオンエアに向けて、平原と共同演出を務めた松任谷へのインタビューを実施。今ツアーに対するそれぞれの思いや共同演出に至った経緯、互いに抱いているリスペクトやシンパシーなどについて、たっぷりと語ってもらった。
取材・文 / 森朋之撮影 / 西岡浩記
20年をゆっくり振り返るのはステージの上
──平原さんは2003年にシングル「Jupiter」でデビューし、今年で20周年を迎えました。9月にニューアルバム「A-ya!」をリリースし、今回WOWOWプラスでも放送される全国ツアー「平原綾香 20th Anniversary Concert Tour 2023 ~Walking with A-ya~」をスタートさせています。充実した活動を行ってきましたが、この1年を振り返っていかがですか?
20周年ってこんなに慌ただしいんだなって思ってますね(笑)。この20年間はずっと忙しくて、もちろんいい日々だったんですけど、いつもの年とは違うものを感じています。ずっと忙しくしているので、一番「こんなこともあったな」とゆっくり振り返ることができるのは、実はコンサートのステージの上なんですよ。今回のコンサートは日記形式と言いますか、過去の自分、未来の自分に語りかけながら進行していくんですが、そのたびにいろんなことを感じるし、不思議な感覚になりますね。やっぱり松任谷正隆さんの魔法がかかってるんだと思います。
──今回のツアーには松任谷正隆さんが共同演出として参加しています。これは平原さんの希望だったそうですね。
私のほうから「やってくださいますか?」とお願いしたら、二つ返事でOKしてくれました。2022年12月に正隆さんが演出した「SAVE THE SNOW CONCERT」というコンサートに出演させてもらって。松任谷由実さんと私が、上村愛子さん(モーグルの元日本代表)の絵本をもとにした映像に沿って歌うステージだったんですが、そのときの演出が素晴らしかったんです。正隆さんの演出力、プロデュース力を改めて感じたし、ぜひ私のツアーにも関わっていただきたいなと。こちらとしてはプロデューサーとして参加してほしいですとお願いしたんですが、正隆さんは「共同演出だったらやるよ。一緒にやろう」という返事だったんです。たぶん私を気遣ってくださったんでしょうね。実際、私が今までやってきた方法に正隆さんの新しいエッセンスが入ってきて、これまでとは違ったツアーになっています。
──松任谷さんがもたらした新しいエッセンスとはどんなものなんでしょうか?
歌手としての平原綾香の20年だけではなく、“人間・平原綾香”のこれまでの39年間も自然に紐解いてくれました。実際の制作は、正隆さんによるロングインタビューから始まったんです。これまでの私の人生のことを、1回のミーティングで4時間くらいかけてお話したんですが、「小さい頃は引っ込み思案だったんです」というと、「どうして?」とさらに深く掘ってくれて。そういうことをコンサートの演出に取り入れているので、平原綾香のことをよく知らない人が観てもわかりやすいだろうし、ずっと応援してくれている方にとっても「こんな人だったんだな」「こんなことがあったんだ」と思えるような内容になっていると思います。
──“5歳のあーやへ”“17歳のあーやへ”といろんな時期の自分に向けた日記を読みながら進んでいく構成も、松任谷さん考案なんですか?
話す内容を考えてくれたのは正隆さんですが、「舞台の上でダイアリーを読みたいです」と言ったのは私だったかな。とにかく正隆さんが書いてくれた言葉が素晴らしくて、「この言葉があるから、次の曲が響く」という流れになっているんです。難しい言い回しは一切ないんだけど「このタイミングでこの言葉があると、泣いちゃうよね」という場面もいっぱいあって。正隆さんとはLINEでやりとりすることが多かったんですが、送られてる言葉を読んで、涙が出てくることもありました。正隆さんは私にとって初めて自分でオファーしたプロデューサーなんですが、お願いして本当によかったです。松任谷由実さんのライブもよく観させてもらっているのですが、ユーミンと正隆さんの魔法がたくさんちりばめられていて、いつも感動します。
正隆さんは私にとってベストパートナー
──「Jupiter」をはじめとする代表曲、ミュージカル楽曲、クラシック、ジャズの楽曲まで、これまでのキャリアを網羅したセットリストも素晴らしいですね。
いろんな曲を歌うことは好きだし、これまでのツアーでもやってきたんですが、いつもより曲数が多いんですよ。日記も読まなくちゃいけないし、初日の公演は水を飲むタイミングもわからなくて(笑)。1曲目の「Georgia On My Mind」でサックスを吹くんですが、私としては楽器を持った状態でステージに出たかったんです。でも正隆さんが「持って出ると、いかにも吹きますって感じになるから、ステージに置いたほうがカッコいいよ」と。まず歌って、マイクを置き、サックスを手に取り、ストラップを付けて……とやらなくちゃいけないことが多いんですよ。サックス奏者の方に「歌って、用意もなしにすぐ吹くなんて、普通はできないよ」と言われたんですが、“できない”ではなくて、むしろ“やりたくない”という(笑)。でも実際にやってみると、サックスを持たないでステージに上がるほうが、今回の演出的には確かにカッコいいんですよね。ボイスパーカッションにも注目してほしいです。ボイパ自体は以前からやっているんですが、正隆さんに「ルーパーを使ってみたら?」と提案されまして。
──ルーパーを使って声をダビングして、即興でビートを作る演出ですね。
最初は「えー! そんなことできるかな?」と思ったんですが、やっているうちにだんだんと楽しくなって。これまでにない演出も増えたので、ステージの上には私のマイクが3つ置いてあるんです。基本的には有線のマイクで歌っているんですが、アップテンポの曲でステージを右や左に動くときのためのワイヤレスマイク、それからルーパーのマシーンに繋がっているマイク。あと、ひさしぶりにイヤモニを使ってるんですよ。私はイヤモニが苦手で、ずっと使ってなかったんですけど、今回は演出や照明の関係もあるし立ち位置が細かく決まっていて、3本のマイクの持ち替えもややこしいので、「モニタースタッフさん側へ」とか「ループマイクに持ち替え」など、事前に録音した自分の声をマニュピレーターさんが箇所箇所で出してくれました。それも私にとっては新鮮でしたね。
──ステージ全体の構成、細かい演出も含め、かなり緻密に作られているんですね。
そうですね。とても緻密だし、正隆さんは私よりもさらにこだわってくださって。今まで私自身がスタッフの皆さんに「こうしよう、ああしよう」と細かいリクエストをしていましたが、今回は正隆さんがその役を担ってくれているので、本当に幸せです。私にとってはベストパートナーですね。正隆さんには「あーやは頑固だろ? 俺も頑固だからぶつかることもあるかもしれないけど、よろしくね」と言われたんですけど、一度もぶつかったことはないです。
次のページ »
今まで一番大変なツアーですけどね