バンドとはダチョウ倶楽部のようなもの
──今回のライブを拝見して、サニーデイはライブバンドとしての凄みが年々増しているという印象を抱いたのですが、ご本人の感覚的にはいかがですか?
いやいや、本当に一生懸命やってるだけですよ(笑)。僕らは技術的に優れたバンドじゃないから、一生懸命やること以外何もできないんです。「こいつ一生懸命やってるな。こいつに負けないようにがんばりたいな」とか「こいつ楽しそうだな」とか、そう思ってさえもらえればあとはもうなんでもいい。でもだからこそ本気でやらないといけなくて。少しでも嘘が入るとすぐにバレますから。お客さんの審美眼は本当にすごいので。
──ライブバンドとしての凄みが増していると感じた一因として、2020年に大工原幹雄さんがドラマーとして加入されたのも大きいのではと思います。
それは大きいかもしれないね。サポートではなくて正式にメンバーになって、後ろからどんどん追い上げてくるから、「こっちも負けないようにしないと」という意識が生まれたというか。ライブはバンドにとってスパーリングのような側面もあって。メンバー同士「絶対に負けねえ」という気持ちがあるんです。「ここでそんなフィルを入れられたら、こっちももういくしかないな」みたいな(笑)。それがすごく楽しいし燃えるんですよ。ライブをやっててニコニコしちゃいますもん。
──サポートメンバーと正規メンバーではやはりバンドの意識も大きく変わってくるものなんですね。
サポートでいろんな人が入ってくれるのもそれはそれで楽しいけど、正規メンバーだとずっとこのまま何十年もやる可能性がありますからね。その違いは大きいと思う。「こいつのドラムでやるしかないんだな」という感覚が常にあって、それが不自由でもあるし楽しくもある。3人で演奏していると「またそうくる?」と思うことがよくあって、嫌な気持ちと楽しい気持ちの両方があるんです。そういう意味では、ダチョウ倶楽部に近いかもしれない(笑)。
──なるほど(笑)。「どうぞどうぞ」を何回やるんだという(笑)。
そうそう(笑)。あれもやっていて嫌な気持ちと楽しい気持ちの両方があると思うんですよ。ストーンズ(The Rolling Stones)を観ていると、「(I Can't Get No) Satisfaction」をやるときにキース(・リチャーズ)が「いくぞいくぞ」という空気を毎回出していて。「この曲やるの何回目だよ」と思うんだけど(笑)。でも彼らは飽きてないんですよね。“飽きてるけど一生懸命やろうとしている”という雰囲気だと、お客さんにすぐバレると思うんです。彼らは本当に飽きてないんだろうし、だからこそずっとこの曲をやっているんだと思う。それはすごく素敵なことだと思うし、そういうところに“バンド”のロマンが詰まっていると思います。
メンバー全員が楽しくないと意味がない
──最近のライブでの印象もそうですし、昨年リリースされた「TOKYO SUNSET」やアルバム「いいね!」を代表するナンバー「春の風」など、今のサニーデイはロックなモードにあるような気がするのですが、曽我部さんの意識的にそのあたりはいかがですか?
それに関してはやっぱりドラマーの影響が大きいと思います。ドラマーが8ビートをカッコよく叩く人だと「じゃあ8ビートの曲をやろうよ」となっちゃうんです。別にそこまで意識しているわけではなくて、自然とそうなっているだけなんですけど、それはバンドの変化として大きいかもしれない。自分のソロであればアコギ1本で優しく語りかけるという表現の方法を取ることもできるけど、大工原くんのドラムが入ると歌のキーが高くなるし、ロックでガンって伝えたくなる。その変化がサニーデイにとってどういう意味を持つのかは正直自分にもわからないんだけど、やっていればそのうち見えてくるだろうし、「とりあえず乗っかろうかな」というぐらいの感覚で。
──再結成後に「DANCE TO YOU」というAOR色の強いアルバムが高く評価され、実験的な「Popcorn Ballads」「the CITY」を経て、ここに来てシンプルなロックンロールに回帰しているというのがとてもカッコいいですよね。
別に「次はロックでいこうぜ」と話し合って決めたわけではないんだけどね(笑)。ドラムが彼になったことで、自然とテンポが上がって、音がデカくなるというだけの話で。これからもサニーデイがそういうスタイルで続けていくかはわからないし、急にアコースティックなアルバムを出す可能性だって十分ありますから。
──曽我部さんのソロ作品が「永久ミント機関」や「戦争反対音頭」などダンスミュージックに接近しているのと対照的でもあります。
そうですね。ソロでは自分のやりたい音楽を自由にやってるんですけど、バンドについてはあくまで3人がやりたいことをやっているので、そこはまったく切り離されているというか。「大工原くんがこういうドラムを叩くからしょうがないよね」「田中くんがこういうベースを弾くので僕の責任じゃないです」という感覚で(笑)。彼らが出したい音を曲げてまで自分のやりたいことを押し通す必要は一切ありませんから。
──これまでのサニーデイの歴史において、曽我部さんが中心となって細かい部分まで指揮を執っていた時期もありましたか?
ありましたよ。20代の頃は僕が設計図を書いて、フィルの入れ方1つまで指示していましたから。でもそれに関しては自分の人生における大きな失敗だと思ってます。音楽的には自分の理想とするものができたかもしれないけど、メンバーにつらい思いをさせたと思うし、やっぱりバンドは人間関係ありきのものなので。自分1人ならどれだけ追い込んでもいいけど、バンドをやる以上は全員が楽しくないと意味がない。それに気付いて考えを改めたところはあります。
──それはサニーデイの再結成以降ですか?
そうです。今日は今日のテイクしか録れないし、明日は明日のテイクしか録れない。それはどっちもかけがえのないもので、それこそが今日この人といる意味なんだ、と思えるようになったんです。今になって若い頃を振り返ると「なんでこんなこともわからなかったんだろう」と思いますよ。昨日やっても今日やっても100点満点な音楽なんて、そんなものはありませんから。
──20代の頃と今のサニーデイでは、曲の作り方は正反対なんですね。
うん、そういう点においては正反対。自分たちが今日できることは手を抜かないで思いっきりやる。で、明日は明日できることをやる。今はそれだけです。曲を作るという作業は大変だけど、レコーディングは自由に演奏してもらうだけなので。「ありがとうございます」と言いながら僕が作った曲をメンバーに渡して、2人の演奏に対して「はいはい、ですよねですよね。いつもそれですよね」と思いながら形にしていって(笑)。それが楽しいんです。
──今のサニーデイは、とても風通しのいい状態にあるんですね。次のアルバムもとても楽しみです。では最後に、豊洲公演のWOWOW放送を楽しみにされている方に見どころをお伝えいただけますでしょうか。
僕らのライブは、3人の人間が楽器の音と歌で1つの世界をどうにか作り出そうとしているだけなんですけど、そういうものの素晴らしさや楽しさを感じてもらえたらうれしいです。皆さんが考えるエンタテインメントとはほど遠いかもしれないけど、これが僕らの思っているエンタテインメントなので、皆さんの心にも届けばいいなと思います。
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曽我部恵一×澤部渡(スカート) インタビュー