自分の心に正直になって歌った「シリウス」
──小川さんの見せ場は、最新アルバムの収録曲の中で自らボーカルを務めるバラードナンバー「シリウス」だったと思います。気持ちのこもった歌も、星空の中に浮かぶような演出も素晴らしかったです。
小川 「シリウス」は特に気合いを入れて歌いました。今までにはないようなボルテージの上げ方を持った曲だなと思っていて。むき出しというか、今までああやって自分の中のポテンシャルを全部出し切るような歌い方はあんまりやってこなかったけど、実はそのほうが得意だったりもするんですよ。自分の心に正直に歌うような表現ができたのは、今回のツアーが初めてだったと思います。回を増すごとにトライ&エラーを重ねて、ファイナルでは一番いい歌が歌えました。
片岡 めちゃくちゃよかったよね。ファイナルは映像収録が入ったり、イレギュラーなことが多くて緊張しちゃう要素が増えがちなので、そういうときに実力を発揮しきれないことがある気がするんですけど、それを「シリウス」みたいなシンガーとして難しいバラードで、100%以上の力を出し切るのは本当にすごいなと思いました。
小川 照明も最高でした。最後まで調整に調整を加えて実現できたので、映像を観るのが楽しみです。
──荒井さんの個人的なハイライトはどこでしょう?
荒井 やっぱりバズーカじゃないですか(笑)。
──それも確かにそうですが(笑)。アルバムのインタビューのときに、打ち込みのような正確さでドラムを叩く「リビドー」について、「ライブで再現するのは難しいかも」と言っていましたけど、バッチリでしたよ。
荒井 ありがとうございます。「リビドー」に限らず、アルバム「Vermillion's」から初めて演奏する楽曲がかなりあったので、毎回緊張感はありました。ただ、33本回らせていただいて、ライブを重ねるごとに音源とは違った雰囲気を引き出せたと思うし、来ていただいた方のリアクションによって曲が成長していくのを感じていたので、ファイナルでは1つの完成形を演奏できたんじゃないかなと思います。
──ほかに新しい試みとして、メドレーパートを設けましたね。たくさん曲を聴けてお得感もすごくあり盛り上がっていましたけど、やっている側としてはどうでしたか?
荒井 お客さんの表情を確かめながら演奏していたところはありますね。1曲を通してフルで楽曲を演奏していくときには、お客さんも構えているというか、その楽曲のストーリーにしっかりと気持ちを乗せて聴いてくれている感じがあるんですけど、メドレーは次に何がくるかわからない状況の中でどんどん曲が続くので、お客さんの表情にそのときの感情がダイレクトにパッと出ている気がしたんですよ。「この曲が聴けてうれしい」という場合だと、隣の人と顔を見合わせて「キタ!」という感じになっていたり、「この曲なんだっけ?」って素の表情になってたり、お客さんの感情の動き方がすごく面白くて。お客さんが楽しそうだと「やってよかった」とテンションが上がるし、ちょっとポカーンとしている感じだと「もしかしたらこの曲を知らないかもしれないけど、好きになってもらえたらうれしいな」という気持ちになる。こっちもすごい勢いで感情が動いていて、それがすごく楽しかったんですよね。
──それは面白いですね。
荒井 1曲まるっと演奏すると、Aメロ、Bメロがあって、サビで盛り上がることが多いじゃないですか。メドレーだと、その曲のいいところをつないでいくので、その瞬間瞬間で100%の盛り上がりが連続していくみたいな、お客さんの感情のグラフが見えた気がして。どの瞬間も夢中になって、いい感情だけを感じてもらえたんじゃないかなと思っています。
ちゃんと本当のことを話したいなという気持ちになった
──片岡さんは本編ラストでかなり長いMCをしましたね。バンドが4人から3人になってもうsumikaを辞めようかと一時は思ったこと、それでも続けていくと決めたことを話して。それから「あなたはあなたの“好き”を守り通してください」というメッセージを送りました。ここ2、3年の心境について、公の場であれだけ赤裸々に話したのは初めてだったと思うんですが、あの話はこのツアーで言おうと決めていたことですか?
片岡 はい。「FLYDAY CIRCUS」(2023年2月~4月開催)と去年の「SING ALONG」(2023年10月~2024年9月開催)はもともと4人でいたときから予定していたツアーで。4人で企画立案したものを3人でやった形でした。3人でゼロから立ち上げたのは去年のファンクラブのツアーが初めてだったんですけど、メンバーの体調が整わず、「“片岡健太とバンドマン”ツアー(仮)」という謎のツアーになって。あれはイレギュラーオブイレギュラーだとして、3人がちゃんといる状態でゼロから立ち上げたツアーは今回が初めてだったんです。そういうものじゃないと、4人のときを振り返る資格がないなと個人的には思っていて。だからようやく話せるというか、リスナーに向けて直接話せば伝わるだろうなという信頼感があった。この考え方はちょっと古いのかもしれないですけど、ライブではテキストだけではない、画像だけではない、可視化できない空気感も含めて「伝えた」「伝わった」ということが成立すると僕は思っているんです。僕はミュージシャンなので、ライブで音楽を聴いてもらったうえで伝えるのがたぶん一番嘘なく伝わるところだと信じていたから、sumikaの会場に来てくださる選択をしてくれた方の前でちゃんと本当のことを話したいなという気持ちになって、ああいったMCをしたという流れがあります。
僕らのリアルな表情を楽しんでいただけたら
──最後に、WOWOWでの放送・配信を観られる方に、メッセージをぜひ。
荒井 自分たちのやりたいことを詰め込めたツアーだったし、ファイナルもすごくいいライブだったなと今でも思えています。ステージのいろんなところでいろんなことが起こっているので、映像を通して自分の好きなところにフォーカスしつつ、ほかの場所も気にして見たり聴いたりしてもらえると、「ここでこんなことが起きてたんだ」「こんな音が鳴ってたんだ」ということがけっこうあるんじゃないかなと。「今のsumikaはこういう感じなんですよ」ということを伝えられるライブだと思うので、放送を観て、これから先のsumikaを楽しみにしてもらえたらいいなと思っています。
──そして今回も、ツアーに密着したドキュメンタリー番組が併せて放送されるんですね。
小川 はい。まだ観ていないんですが、素材がたくさんあるという話を聞いているので、どんなものになるか楽しみです。僕らのリアルな表情を、ツアーの映像とともに楽しんでいただけたらうれしいなと思います。ツアーの1本1本が積み重なって、33本目のさいたまスーパーアリーナにつながっていて、そのプロセスがしっかりと刻まれているドキュメンタリーになっていると思うので、そこに注目していただけたら。
片岡 僕らはステージの上でも下でも、けっこう表裏のないタイプだと思っているんですけど、本当かどうか、映像で確認してください。裏ではスタッフをしばいているかもしれないし、令和にそぐわないバンド活動をしている可能性もあるので、燃やせそうな素材があるか、つぶさに見てください……って冗談ですよー(笑)。
──わかってます(笑)。でも、ライブとその裏側の両方が観られるのはいいですよね。
片岡 だいたいは表面上に出ているものだけで終わっちゃうものが多いと思うんですけど、例えば料理でも、どういう作り方をしているかを見たときに、同じようなものを作れなかったとしても「自分はこれが作れるかもしれない」と思ったりするじゃないですか。僕らだったら音楽ですけど、例えば絵が描けるとか、写真を撮れるかとか、勉強をがんばれるとか、たぶんいろんなものに転用できると思うので、僕らがツアーに取り組む過程を見ることで、自分の生活にとって何かプラスになってくれたらいいなということを思います。
プロフィール
sumika(スミカ)
2013年5月に結成。2017年にバンド初のフルアルバム「Familia」をリリースし、2018年には東京・日本武道館公演2DAYSを含むホールツアーを開催。その後も映画「君の膵臓をたべたい」「僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ヒーローズ:ライジング」「ぐらんぶる」、テレビドラマ「おっさんずラブ-in the sky-」、テレビアニメ「ヲタクに恋は難しい」「MIX」「美少年探偵団」「カッコウの許嫁」など、数々のタイアップソングを手がけてお茶の間に自分たちの音楽を広げた。2022年に結成10周年を迎え、9月に4thアルバム「For.」を発表。2023年5月に神奈川・横浜スタジアムでアニバーサリーライブを開催した。2024年2月からホール&アリーナツアー「sumika Live Tour 2024『FLYDAY CIRCUS』」を開催。5月にEP「Unmei e.p」をリリースした。9月に欧州サッカー“2024-25シーズン”のイメージソング「VINCENT」を配信リリース。2025年3月にアルバム「Vermillion's」をリリースし、全33公演の全国ツアーを行った。