sumikaがサーカス小屋で見せた新しい景色──ライブツアー「FLYDAY CIRCUS」を振り返る

2024年2月から4月にかけて開催されたsumikaのホール&アリーナツアー「sumika Live Tour 2024『FLYDAY CIRCUS』」はバンドにとって、そしてファンにとって、大きな意味を持つ体験になった。3人が2023年に起きたさまざまな出来事を乗り越え、新たな希望を掲げて未来へ向かうための、確かな一歩だった。

そのツアーの全貌に迫る番組が、WOWOWにて2カ月連続で放送・配信されることが決まった。まずは神奈川・ぴあアリーナMMで開催されたツアーファイナル公演の模様が5月26日にオンエアされ、6月28日には「sumika『FLYDAY CIRCUS』」after PARTY」と題した特別番組が放送され、リハーサルからツアーに密着したドキュメンタリー映像をメンバーとともに観ながら楽しむことができる。

新たな試みに満ちたツアーに、3人はどのような思いで臨んだのか? そしてツアーが終わった今、何を思うのか? ツアーファイナルの2日後、3人に「sumika Live Tour 2024『FLYDAY CIRCUS』」の内幕を振り返ってもらった。

取材・文 / 宮本英夫撮影 / 後藤壮太郎

新しいフェーズに入ったsumikaをどんどん見せていきたい

──「sumika Live Tour 2024『FLYDAY CIRCUS』」はどのような思いを持って挑んだツアーだったんでしょうか?(参照:sumika「FLYDAY CIRCUS」閉幕、“声”を取り戻したサーカス小屋に広がった笑顔

片岡健太(Vo, G) そこには、ここ数年のライブに関する世の中の動きが関係していますね。ライブをやるにあたってのルールがコロナ禍に設けられて、そこに順応していくために、聴きに来てくださる方も、ライブをやる側も、みんながいろんな問題と向き合ってきて。その突破口みたいなものが2020年の終わりぐらいに見えてきたような気がしたんですよね。さらに2022年秋からの「Ten to Ten」ツアー(参照:sumika結成10周年ツアーで“あなた”の声が響き渡る、大切な記憶を胸にさらなる未来へ)の途中で、「次のツアーからは新しいフェーズのライブができるんじゃないか?」というイメージが湧いてきて。そのイメージを持ちながら、2023年10月から「SING ALONG」、2024年2月から「FLYDAY CIRCUS」という連動した2つのツアーをやりたいとメンバーに提案しました。

──「SING ALONG」はライブハウス、「FLYDAY CIRCUS」はホールとアリーナを舞台にしたツアーでしたね。

片岡 「SING ALONG」ツアーでは、sumikaが2023年に結成10周年を迎えて11周年に向けて歩んでいく中で、初心に戻ってライブをやりたいという思いがありました。僕らはもともとライブハウスで知り合って、そこを主戦場に活動してきたので、初心に戻ってライブをするとなると、やっぱりライブハウスでやるのが一番しっくりきた。もう1回、客席もステージも関係なく、みんなで一緒に歌おうよ、ということを「SING ALONG」ツアーでは考えていました。

──なるほど。

片岡 「SING ALONG」ツアーで畑を耕したあと、みんなの心がほぐれたタイミングで「FLYDAY CIRCUS」ツアーに突入して、新しいフェーズに入ったsumikaをどんどん見せていきたいなと。2019年までのライブの楽しみ方も、2020年から2023年の間に身に付けてきた新しい楽しみ方も、今のsumikaのモードも全部ミックスして、「やっぱりライブってめちゃくちゃすごいんだ」とお客さんに思ってもらえるようなツアーがしたいなと考えていました。

「sumika Live Tour 2024『FLYDAY CIRCUS』」神奈川・ぴあアリーナMM公演の様子。

「sumika Live Tour 2024『FLYDAY CIRCUS』」神奈川・ぴあアリーナMM公演の様子。

──実際にライブを体験して、まさにそう感じましたね。以前のsumikaらしい高揚感や楽しさに加えて、ライブ中盤ではいろんな新しい試みもあって。これまでのsumikaも、今のsumikaも、全部詰まっているようなツアーだったなと思います。

荒井智之(Dr, Cho) やりたいことをすべてやれたという手応えがあって、そのうえで、ツアーを無事に完走できたことが何よりも一番うれしいです。事前にしっかり準備もできたし、今までやってきたツアーと比べたら、初日からしっかりと仕上がっていたので、土台は大きくいじることなく、ポジティブな上積みをしていけたなと思っています。

小川貴之(Key, Cho) 僕もツアーを無事に完走できたことがうれしいし、ホッとしています。お客さん1人ひとりの反応が素晴らしくて、ファイナルでは特にそれを感じましたね。客席を見ていて、お互いを知らない人同士が音楽を通してあそこまで反応し合えるということが素晴らしいと思ったし、いいツアーだったなと素直に思います。

sumika

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あのテントの中に入れば……

──「FLYDAY CIRCUS」はサーカスをテーマにしたツアーというだけあって、セットや演出も大掛かりで凝ったものでした。

片岡 僕らはミュージシャンなので、まずは音楽を軸として、そこに対してどう演出していくのがベストなのかを考えていきました。去年の「SING ALONG」ツアーが中断してしまったあとはsumika[roof session]という形で、僕以外のメンバーでsumikaを動かしてくれて(※片岡の急性声帯炎のため、「SING ALONG」ツアーは10月に中断。年末のイベントやフェスには、小川がリードボーカルを務める別名義バンド・sumika[roof session]として出演した)。その経験が期せずしてツアーのピースに加わったことによって、セットリストの考え方の幅が広がったたんですよ。最初からサーカス感のあるセットリストだったんですけど、そのピースによって、よりサーカス感が増したというか。セットリストがしっかりしていたからこそ、演出に対してもアグレッシブに考えられたところはありますね。

──ファイナル公演のMCで片岡さんが言っていましたが、2020年に行ったオンラインライブ「Little Crown 2020」(参照:sumika、“焼け野原のサーカス会場”から希望届けた初のオンラインライブ)からのつながりもあるそうですね。あのときもまさに、サーカス小屋のテントの中で演奏していました。

片岡 マインド的なところで、つながりはありますね。オンラインライブではカメラ越しにどう伝えていくか手探りな部分があって、お客さんもどう受け取っていいのかわからないところもあったと思うんですよ。でも、あのときは「これが今のベストだ」と思いたかったし、そうやってみんなで寄り添い合っていこうとしていた。あのマインドはやっぱり忘れちゃいけない。メンタル的にも、当時オンラインライブの“サーカステント”が救ってくれたものはめちゃめちゃ大きくて。「2024年にもう1回やって、あのテントの中に入ればみんな、あの頃の気持ちを思い出すんじゃないか?」と思ったんですよね。お客さんも、ステージ上のメンバーも。

片岡健太(Vo, G)

片岡健太(Vo, G)

──ファイナルのMCでは、戦後に焼け野原に建てられたサーカステントの話をしていました。焼け野原のサーカステントに娯楽を求めてたくさんの人が集まってくる。演者はそこで最高のショーを見せて、お客さんに喜んでもらう。そのイメージって、コロナ禍の状況と重なる部分もあるなと思いました。

片岡 「Little Crown 2020」をやる前に、そういう写真を見たんですよ。何もない焼け野原の中にポツンとサーカスのテントがあって、そこに行列ができている。その写真にめちゃくちゃグッときて、「やっぱりエンタメってすごいんだな」と感じました。

小川 希望を感じましたよね。

どんな仮面でも被ってやろう

──ここからは個人の見せ場の話をさせてください。今回のツアーでは、小川さんがメインボーカルを取る曲も多かったですし、パフォーマンスでもメンバーをリードする場面が多々ありましたね。

小川 「いろんなことをやってやろう」という覚悟ができたのは、自分の中では大きな進歩でした。思い返せば、年末のsumika[roof session]から地続きのところもあって。sumika[roof session]の活動を通して、「実力より上のことをしてやろう」ということではなくて、自分のできる範囲でも、やれることがいろいろあるんだなと実感しました。今回のツアーでは「どんな仮面でも被ってやろう」という思いがありましたね。結局自分が何かをやって、それで人が笑顔になっていることが、僕にとってすごく幸せなんだなと最近気付いたので。どんな仮面を被っても、その下の自分自身が笑顔ならそれでオッケーみたいな感覚でツアーを回っていました。得るものがすごく多いツアーでした。

小川貴之(Key, Cho)

小川貴之(Key, Cho)

片岡 もともと、おがりんのポテンシャルはハンパないと常々思っていて。結成10周年が見えてきたぐらいから、「小川さんの取説をアップデートしようかな」と目論んでいました。いじればなんでも永久に出てくる、おもちゃのようだなあって(笑)。

小川 (笑)。

──素晴らしく優秀なおもちゃですよ。なんでもできちゃう。

片岡 真面目な話、それまでのフォーマットをぶっ壊さないとやっていけないタイミングが、2023年だったんです。今までのsumika像のままで活動を続けていたら、「たぶんバンドがなくなるぞ」みたいな危機感が、少なからず3人ともあったはずなんですよ。そこで火事場の馬鹿力が発揮されて、2023年を走り切れたと思うので、それを一過性で終わらせるのはもったいないよねって。

──今回、小川さんはメインボーカル、ツインボーカルでかなりの曲数を歌っていましたよね。

小川 ボーカルに関しては、「なんでお前が歌うんだ?」と感じる人もいるのかなと思って、正直、毎回ステージに立つまで不安もあるんです。でも、その先でどう思ってもらえるかはやってみないとわからないし、正面からちゃんと向き合って音楽をやるというのは変わらなかったですね。

小川貴之(Key, Cho)

小川貴之(Key, Cho)

──今回のライブでは楽曲のマッシュアップコーナーもありました。「マイリッチサマーブルース」を片岡さんが歌っているところに、“雷様”に扮した小川さんが「イナヅマ」を持ち込んで。バトルするように2曲が交互に演奏されて、会場は大盛り上がりでした。

片岡 これまでは曲を切り貼りすることに対して少し抵抗があって。あくまでも“1曲”として届けることが誠意だと思っていたんです。でも、去年横浜スタジアムのライブでメドレーをやったときにお客さんが喜んでくれたのを見て、考え方が変わって。今回はマッシュアップにトライしてみました。そしたらおがりんが、勝手に雷様のキャラを持ってきたんですよ。強要したわけじゃないのに。リハーサルからああだったもんね?

小川 「雷様はどう?」って、ポロッと言ったことがファイナルまで続いちゃった。でも、曲名は「イナヅマ」だし、よく考えたら別の管轄だったという(笑)。

片岡 「カミナリじゃなくてイナヅマなんだけど……」って、ずっと思ってた(笑)。

小川 はははは。