STUTSの「BACK UP」|フィジカルでオープンマインドな創作活動を支えるもの

ドラマ「エルピス—希望、あるいは災い—」の主題歌を担当して話題を集めた音楽集団・Mirage Collectiveのプロデュース、そして今年6月には東京・日本武道館でのワンマンライブ実施と、昨今ますます活躍の場を広げるSTUTS。常に新しい刺激をリスナーに与え続ける彼の自由で豊かなサウンドは、どのような音楽制作の環境から生まれているのだろう。

STUTSのプライベートスタジオを訪れて実施した今回のインタビュー。使い込まれた愛器に囲まれ柔らかな笑顔を浮かべるSTUTSの口から語られたのは、意外にも“フィジカル”な制作手法と、常にそばにある“欠かせないアイテム”の存在だった。

取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 藤記美帆

STUTS楽曲ができるまで

──STUTSさんは“サンプラー(サンプリングした音を個別に任意で再生出力できる電子機器)使い”のイメージがすごく強いんですけど、実際の制作作業はサンプラー単体で進めるというよりはDAW(音楽制作ソフト)で行っている感じですか?

そうですね。取っかかりはMPCというサンプラーのソフトで作ることが多いんですけど、そこで作った原型をPro Tools(音楽制作ソフト)に流し込んで、メインの作業はPro Tools上で行っています。そこで曲としての展開をいろいろ作っていったり、楽器を弾いて重ねていったりとか。

STUTS

STUTS

──おそらく音楽を作り始めた当初はMPCだけでやっていたのかなと思うんですが……。

そうですね、はい。

──DAWを使い始めたのはいつ頃からですか?

18歳か19歳くらいのときですね。上京して、自分のパソコンを持てるようになってからはDAWで作るようになりました。本当は高校生の頃からパソコンで作りたいと思ってはいたんですけど、当時は寮生活だったので、パソコンが禁止だったんですよ。

──なるほど。ということは、MPCのみで作ることに特別こだわっていたわけじゃなくて……。

単なる環境の問題で(笑)。

──実際に楽曲を制作する際は、どういう手順で進めるんでしょうか。

基本的には、まずサンプラーでビートを作ったり、ループを組んだりするところからですね。サンプラーといってもサンプル音源を鳴らすだけじゃなくて、普通に自分の弾いたものもシーケンスとして記録できるので、ピアノやギターをなんとなく弾きながら最初のネタができていったりすることもあります。

──ビートに限らず、例えば和音だったり断片的なフレーズだったりから作曲が始まることもあると。

そうです。そこにまた音を重ねたりしながら原型ができていく感じですね。そうやってループを組んでいって、ある程度形になったら、1回MPCからPro Toolsに書き出します。で、その展開を抜き差ししたり新しいコード進行を付け足していったりしながら、曲としての展開を組み立てていく流れですね。

──MPCで音を出しながらあれこれやりつつ、「いいネタができた」という手応えがあると「これは曲にしよう」となっていく?

基本はそうかもしれないですね。そこであまりしっくりこなかったら、また最初からやり直すときもあります。

──歌が入る場合は、そこにどういう手順が加わるんでしょうか。

その展開を組んでいったものを歌ってくれる方に聴いていただいて、一旦歌を乗っけてもらいます。で、そのあとにまたビートを編集していったりして完成に近付けていく感じですね。

──ちなみに、サンプラーや楽器以外で作曲に欠かせないツールは何かありますか? 例えばメモ帳であったりとか。

ああ、メモ帳は使いますね。思いついたコード進行をパッとメモったりとか。あとはスマートフォンのボイスメモ機能を使ってメロディのアイデアを録音しておいたりとか、たまにiPhoneのGarageBandを使ったりすることもあります。

サンディスク エクストリーム ポータブルSSD

サンディスク エクストリーム ポータブルSSD

SSDはずっと登場している感じ

──STUTSさんは現在、SanDiskのポータブルSSD(ソリッド・ステート・ドライブ)[※1]「サンディスク エクストリーム ポータブルSSD」を愛用されているそうですね。それは制作のどの段階で登場する感じなんでしょうか。

最初から登場しますね。MPCでビートを作る段階から。というのも、キックやスネア、ハイハットなどのサンプル音源やソフトシンセの音源は全部SSDの中に入れているんですよ。だからもう「どの段階」というか、ずっと登場している感じです(笑)。

──そもそも外付けのストレージを使う理由というのは?

例えば、普段使っているものとは別のパソコンで作業するようなときでも、そのSSDを持っていってつなげば自分のライブラリがそのまま使えるんです。あとは、パソコンを買い換えるようなときにも移行が簡単ですし。

──なるほど。あと小耳に挟んだところでは、STUTSさんは複数台のSSDをお使いだとか。

そうですね。今、パソコンにはSSDが3つ接続されている状態です。

──その3台はどのように使い分けているんでしょうか。

1つはさっき言った音源ライブラリ用で、あとの2つにはPro Toolsのセッションデータを保存しています。2つあるのは、片方が満杯になっちゃったので同じ用途のものを買い足したからですね。大容量のHDD(ハード・ディスク・ドライブ)[※2]とかを1個用意して、そこに全部のセッションデータをまとめて保存するのもアリかなと思っているんですけど、今のところはそういう運用になっています。

──ちなみに、SSDを使い始めたのはいつ頃ですか?

5、6年前くらいからですかね。それまでは外付けのHDDを使っていました。ただ、HDDは音源ライブラリ用として使うには転送速度が遅くてかなり不便なので、当時はパソコン本体のストレージに音源データを入れていた気がします。ワンショットのサンプル音源とかはHDDに保存していたかもしれないですけど。

サンディスク エクストリーム ポータブルSSD

サンディスク エクストリーム ポータブルSSD

──本体に保存しておけば読み込みは速いですけど、容量を圧迫してしまう問題が生じますよね。

そうなんです。なので、SSDに移行してからは快適ですね。ほぼ内蔵ストレージを使うのと変わらない速度で音源の選択ができたりするんで。

──最初にSSDを購入する際、機種選びはどのようにされました?

最初は何もわからずに買ってたんですよね。ある程度名前のあるメーカーだったりとか……あ! 今思い出しましたけど、最初は自分で作ってました。SSD単体のやつとケースを別で買って。

──内蔵型SSDを外付けで使っていたんですか? なかなかの玄人ですね。

いや、どうなんでしょう(笑)。秋葉原とかへ行って、「この容量でこの値段だったらいいな」とか思ってSSDだけのやつを買って、それをケースに入れて使ってましたね。そのほうが安く買えたんで。ただ、のちにそのSSDは読み込みが不安定になったときがあって、ちょっと怖いなと思って。

──「だったらはじめから外付けのSSDを買ったほうが安心だ」というふうになった?

そうですね。はい、そんな感じです。

──それで現在は「サンディスク エクストリーム ポータブルSSD」をお使いなんですね。ちなみにSanDiskというブランドにはどんなイメージがありますか?

業界標準、みたいなイメージです。定番って感じがしますね。SSDだけじゃなく、SDカードとかにもそういう印象があります。

サンディスク エクストリーム ポータブルSSD

サンディスク エクストリーム ポータブルSSD

MIDIよりオーディオのほうが編集しやすい

──STUTSさんはさまざまなジャンルのアーティストとコラボレーションをされる機会が多いですけど、そうした共同作業の際にSSDが活躍する場面はありますか?

頻繁にありますね。自宅で作っている途中のセッションデータを別のスタジオへ持って行って、そこで作業するようなこともありますし。あとは、外のスタジオで録音したデータを持ち帰るようなときにもSSDが活躍します。そういう、データの受け渡しがめちゃくちゃ楽ですね。SSDがないとやっていけないです。

──ほかのアーティストさんも、SSDを使っている方は多いですか?

どうなんだろう……アーティストというよりは、エンジニアさんとのやりとりで活躍する印象が強いんですよね。セッションデータを丸ごとやりとりするような状況ではSSDが必須になってくる気はします。もちろんギガファイル便とか、ああいうものを使う場合も多いですけど。

──そのセッションデータにしても、受け渡しをする段階ではMIDIデータをオーディオデータに変換する必要があると思うんですけど、そうなるとデータ量がどうしても大きくなりますもんね。

そうですね……あ、でも僕の場合は基本的にオーディオで作っているので。

──そうなんですか!

最初にMIDIで弾くこともありますけど、それもまずオーディオに書き出してから編集したりしていますね。

──それはなぜですか?

なぜ……いや、なんとなく。

──(笑)。

なんか、オーディオのほうがいろいろ編集しやすいというか。

──それは珍しいご意見ですね。個人的には「MIDIよりオーディオのほうが編集しやすい」という日本語を初めて聞いた気がします。

本当ですか(笑)。いや、もちろん一般的にはMIDIのほうが編集しやすいものなのかもしれないんですけど、自分の場合はMIDIデータをいじるよりも波形をいじるほうが感覚的につかみやすいというか。もともとサンプラーで作るところから始まっているせいもあると思うんですけど、オーディオデータのほうが扱いやすく感じるんですよね。たぶん、単に慣れの問題なんですけど。

STUTS

STUTS

──なるほど、とても興味深いお話です。

変な作り方をしているというだけの話かもしれない(笑)。それに、結局データの受け渡しをするときは絶対にオーディオに書き出さないとダメなんで。

──確かに、最初からオーディオで作っていればその手間も省けますし、何かと不都合も起こりづらそうではありますね。

そうですね、はい。


※1※2 SSDはソリッド・ステート・ドライブの略、HDDはハード・ディスク・ドライブの略で、どちらも記憶装置。HDDは回転する円盤に磁気でデータを読み書きするが、SSDはUSBメモリーやSDカードと同じように内蔵しているメモリーチップにデータの読み書きを行う。一般的に、SSDは読み書き速度が速く、壊れにくいが高価。HDDは比較的安価で大容量のデータ記憶に向いているが、衝撃などに弱いとされている。