“世界観先”で発揮された器用貧乏さ
──この5年間の活動の中で、「これが自分たちの音楽だ」というものをつかめた実感もある?
杉本 それが今回の「流星コーリング」だと思うんですよね。作っている最中は、「本当にこれでいいのか?」という不安もありましたけど、完成してみると「これまでやってきたことがしっかり形にできた」という手応えがあって。WEAVERらしいピアノサウンドを軸にしながら、小説のシーンごとにいろいろなサウンドの楽曲を落とし込めたというか。今までの経験を生かしながら「流星コーリング」の世界観を表現できたし、「今までがんばってきてよかったな」と。
河邉 うん。
杉本 2019年10月にデビュー10周年を迎えるんですが、それも大きかったんですよ、自分たちにとっては。周りから活動休止とかメンバーの脱退というニュースが聞こえてくる中、これだけ続けられたこと自体がすごいし、ありがたいなと。だからこそ、このタイミングで発表するアルバムは、これまで自分たちを応援してくれた人たち……一瞬でも興味を持ってくれた人も含めて「やっぱりWEAVERっていいな」と思ってもらえる作品にしたかったんです。スタッフさんからも「WEAVERは器用貧乏なところがある」と言われてきたし(笑)、それは自分たちもわかってたんだけど、生かす方法が中々見つからなかったんですよ。今回、「小説をもとにしてアルバムを作る」というコンセプトを立てたことで、ようやく解き放たれることができたかなと。そういう意味では、今までの活動もすべて肯定できるアルバムだと思いますね。
──“器用にいろいろなタイプの楽曲を作れる”という特徴をしっかり発揮できる作品になったと。
杉本 はい。僕もいろんなタイプの曲を書けてしまうし、河邉もさまざまな世界観の歌詞を書けるんですが、それはいいところでもあり、自分の中ではコンプレックスでもあったんです。“芯がない”と捉えることもできるので。でも、今回の「流星コーリング」の制作ではそれをいいほうに生かせた。
河邉 例えばシングルを出すときに、今までは「次はエレクトロ? それとも生のピアノトリオ?」みたいな二元論で質問されることにも違和感があったんですよね。「流星コーリング」では、そこからも解き放たれた感覚があって。詞先でも曲先でもなく、“世界観先”って呼んでるんですけど(笑)。描きたい世界観や物語が先にあることで、いろいろなタイプの曲を詰め込む理由があったというか。杉本も周りに気を遣うことなく才能を発揮できたと思うし、バンドにとっては初の試みでしたけどやってよかったなと思います。
奥野 杉本がデモ音源を作るスピード、河邉が歌詞を書くスピードもすごく速かったし、傍で見ていても2人が一番得意なことをやっているのがわかりましたね。「ID 2」にはエレクトロやEDMを取り入れた曲もありますが、かなり試行錯誤しながら作ってたんです。「こういうサウンドには、こんな歌詞が合うんじゃないか?」「そうかな?」みたいな話し合いも多かったし、その結果、どこに向けているのかわからなくなることもあって。
──「流星コーリング」の制作ではそういうことがなかった?
奥野 そうですね。アルバムに向けた話し合いの中で、「WEAVERの一番の武器ってなんだろう?」ということを話したんです。河邉の歌詞のストーリー性、杉本の旋律の美しさ、バンド全体のキラキラした感じもそうですけど、自分たちのよさを改めて確認したうえで、「河邉が書いた小説をもとにして、WEAVERの音楽を作る」というテーマがはっきりして。だからこそ、ストレスなく曲や歌詞が作れたんじゃないかなと。初心に立ち戻るだけではなく、この5年間のチャレンジも反映されていて。「流星コーリング」は、“アップデートしたリスタート”という感じなんですよね。
杉本 河邉が持ってきてくれた小説のアイデアは6個くらいあったんですけど、すぐに「流星コーリング」が一番いいと思って。時間がループするという非現実感もあるし、誰もが共感できる日常性もあって、WEAVERともマッチしているなと。
小説、書けるんだ?
──実際の制作はどんなふうに進められたんですか?
杉本 チーム全体で「どういう作品にするのか?」を把握するところからですね。まず小説の起承転結を4つのプロットに分けて、そのストーリーをみんなで共有して、その後、曲を作り始めて。まず、全体のテーマとなる「最後の夜と流星」を作って、それと並行して河邉が小説を書き進めて。8割くらいできたところで、シーンごとに曲を作っていきました。
──杉本さんはここ数年、「オーバーリング・ギフト」をはじめとするミュージカル作品の楽曲を手がけていて。その経験も生かされているのでは?
杉本 そうですね。WEAVERでは0から1を作ることをずっと続けてきて、「自分にはそれしかできない」と思っていたんですよ。ミュージカルでは最初に台本と歌詞があって、それに合わせて曲を作っていくわけですが、そういう機会をもらったことで、「この作り方も自分に合うんだな」とわかって。だから「流星コーリング」の作り方もまったく抵抗がなかったし、むしろ「先に歌詞を書いてくれてもいいんだけどな」と思ってたんです。実際、「I would die for you」は、もともとは曲を先に作ってたんだけど、「1曲は詞先でやりたい」って河邉に伝えて曲を作り直しました。WEAVERでは初めてですね、詞先は。
──河邉さんの言葉の世界を生かしたかった?
杉本 そうですね。「夢工場ラムレス」(2018年に刊行された河邉の初小説)を読んだときもそうだったんですが、河邉が表現したい世界がしっかり形になってる感じがすごくあって。詞先で曲を作りたいと提案したのも、メロディに縛られずにまずは河邉が表現したいことを詞にしてほしいと思ったからなので。
──やはり河邉さんが小説を書いたことが、今回のアルバムの起点になってるんですね。最初の小説「夢工場ラムレス」を書き始めたときは、どんな心境だったんですか?
河邉 すごく純粋だったと思います。「夢の世界に入り込んで、こんな出来事が起きて……」みたいなボンヤリした形はあったんですが、それを形にすることにワクワクしていたし、気負いもなく、楽しんで書いていて。誰に頼まれたわけでもないし、締め切りとか「これで評価されなくちゃいけない」ということもなかったですからね。
──めちゃくちゃピュアな創作欲があった、と。当たり前ですが、小説を書くのは時間がかかるし、衝動だけでは最後までたどり着けないじゃないですか。よく自力で書き上げましたよね。
河邉 そうですね(笑)。やっぱり、ずっと歌詞を書いていたのが大きいと思います。メロディやサウンドの力を借りて物語を書いてきたわけですけど、そうじゃなくて、自分だけの力でどこまでやれるか試してみたいという気持ちもあったし。
奥野 確かに最初は「小説、書けるんだ?」と思いましたね(笑)。「夢工場ラムレス」を読んだときは、何かに制限されずに自由に表現している印象があったし、河邉の才能が発揮できているというか、「これが真骨頂なんだな」と。小説を書いたことで、曲に戻ったときに新しい魅力が加わるだろうなとも思いましたね。
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欲張らない制作
- WEAVER「流星コーリング」
- 2019年3月6日発売 / A-Sketch
- 収録曲
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- Overture ~I'm Calling You~
- 流れ星の声
- 最後の夜と流星
- Interlude I
- 栞 feat.仲宗根泉(HY)
- Interlude II
- Loop the night
- Nighty Night
- 透明少女
- I would die for you
- 流星コーリング ~Prologue~ feat. 花澤香菜
- WEAVER「ID 2」
- 2019年3月6日発売 / A-Sketch
-
初回限定盤 [CD+DVD]
3996円 / AZZS-82
- CD収録曲
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- くちづけDiamond
- Beloved
- Boys & Girls
- KOKO
- S.O.S.
- Shake! Shake!
- 海のある街
- Another World
- だから僕は僕を手放す
- Photographs
- 僕のすべて
- Hello Future
- Tonight
- カーテンコール
- 初回限定盤DVD収録内容
-
- くちづけDiamond
- KOKO
- Beloved
- Boys & Girls
- S.O.S.
- Shake! Shake!
- Another World
- カーテンコール
- 河邉徹「流星コーリング」
- 2019年3月6日発売 / KADOKAWA
- WEAVER(ウィーバー)
- 杉本雄治(Vo, Piano)、奥野翔太(B, Cho)、河邉徹(Dr, Cho)の3人からなる兵庫・神戸出身のスリーピースバンド。2004年に高校の同級生同士で結成され、2007年に現在の編成に。2009年10月に配信限定シングル「白朝夢」でメジャーデビュー。2010年2月にメジャー1stミニアルバム「Tapestry」を発売したのち、同年8月と9月には亀田誠治をプロデューサーに迎えたアルバム「新世界創造記」を前編と後編に分けて発表した。2014年1月末からは半年間のロンドン留学を経験。メジャー10年目に突入する2019年3月6日にはベストアルバム「ID 2」、ニューアルバム「流星コーリング」、河邉の書き下ろし小説「流星コーリング」が発表された。3月から東名阪ツアー「WEAVER 14th TOUR 2019『I'm Calling You~流星前夜~』」を実施する。