和ぬかレビュー|「絶頂讃歌」「真っ裸」「もったいぶり」で“新章”の幕が上がる

和ぬかが「絶頂讃歌」「真っ裸」「もったいぶり」を配信リリースした。

2020年末に本格的に音楽活動を始め、2021年2月リリースの1stシングル「寄り酔い」で一躍時の人となった大学生シンガーソングライターの和ぬか。2022年8月に自身の音楽活動が“新章”に突入することを宣言し、9月に「絶頂讃歌」、10月に「真っ裸」、そして11月に「もったいぶり」という新曲を連続で発表した。

“新章”の鍵を握る「絶頂讃歌」「真っ裸」「もったいぶり」はいったいどんな作品に仕上がっているのか。和ぬかの軌跡をたどりながら、楽曲の魅力を紐解いていく。

文 / 柴那典

“新章”で放たれた多彩な3曲

「和ぬか、新章始めます。」

2022年8月末、和ぬかは自らのSNSを通じてそう告げた。「今までと何が違うのかはこれからのお楽しみですが、簡単に言うと今年中にネットから飛び出してLIVEします」と発表した。

2021年2月に1stシングル「寄り酔い」をリリースし、瞬く間に脚光を浴びた現役大学生シンガーソングライターの和ぬか。その後も「ニゲラ」「ブラウニー」などの楽曲を発表し、2022年7月には1stアルバムの「青二才」をリリースした。和ぬか自身はこのアルバムまでの活動を“第0章”と位置付けている。つまり、“新章”とは、すなわち和ぬかの“第1章”のこと。おそらく“新章を始める”というのは、ここからアーティストとしての音楽活動を本格的にスタートしていくという意思表示でもあるはずだ。

“新章”と銘打ち、まずは3カ月連続の配信シングルリリースが発表され、9月7日に「絶頂讃歌」、10月5日に「真っ裸」が、11月2日に「もったいぶり」が配信された。本稿ではこの3曲を紐解きつつ、和ぬかというアーティストの歩んできた足跡とその向かう先を考察したい。

まず大きなポイントは、この3曲がバンドサウンドを軸にした楽曲であるということ。編曲はこれまでの和ぬかのほとんどの楽曲でアレンジを手がけてきた100回嘔吐。ギター、ベース、ドラムのアンサンブルを基盤にしたサウンドメイキングには、ライブで披露することを見据えた狙いもあるはずだ。ただ、スタイルこそバンド編成で一貫しているが、ジャンルは多彩。これまでもさまざまなタイプの楽曲に取り組んできた和ぬかだが、この3曲も三者三様の仕上がりになっている。

「絶頂讃歌」は、躍動感あるラテンロックナンバーだ。ティンバレスの勢いあるイントロが耳を惹き、「♪ドンタ・ドッ・タ」というクラーベのリズムが全編にわたってダンサブルなグルーヴを生み出している。中間部のスパニッシュギターのソロもラテンのフレーバーを醸し出す。艶やかな色彩感ある曲調だ。

曲のモチーフはタイトルの通り“絶頂”。これまでも「寄り酔い」に代表されるようなセクシャルな歌詞の描写を得意としてきた和ぬかだが、この曲はかなりエロティック。歌い出しから「ほとばしく香る君のその髪が 僕の心を踊らせたんです」と肉体的な関係を思わせる言葉を連ね、サビでは「今宵も僕らは繁栄の ために愛を放つ」と歌う。つまり夜の男女の営みをテーマにしているわけだが、そのイメージを踏まえて聴くとAメロからBメロへと徐々に興奮を高めていく曲展開、サビ前のハイトーンのシャウトもすごく効果的に聞こえる。

「真っ裸」は、シティポップの風味も漂うR&Bなどブラックミュージックのテイストを持った曲。横ノリのリズムにカッティングギター、そしてイントロのスライドから1曲を通してグルーヴィにうねるベースラインが聴きどころだ。

こういうしっとりした曲調でも、歌のメロディラインには独特の癖があるのが和ぬかの持ち味である。例えばBメロの「田舎で鳴き出す捨て猫みたいな 男は都会に売りなのよ」「隙ある男に惹かれるわけなく 生きてる女のはずなのよ」と歌う箇所。不思議と耳から離れない旋律はペンタトニックのヨナ抜き音階を上下するような動きで、これが独特の“和”のテイストの由来の1つになっている。ヨナ抜き音階自体はこれまでも唱歌からポップスまで数々の楽曲のメロディに使われてきたのだが、「真っ裸」を聴いて改めて思うのは、こうしたメロディセンスと韻を踏んだ言葉と跳ねる節回しとの組み合わせがユニークな聴き心地につながっているということだ。

曲のテーマは大人の女心。「ねぇ、あたしのタフなこの胸に会いに 可愛げな目線でノックしたって まだ、はいって応答できない」という歌い出しから、年下の男の子にアプローチを受けて揺らぐ心模様が歌われている。「十九のハートが目を覚まして 情けないのよ 情けないのよ」というフレーズには昭和の歌謡曲にも通じる色気も感じる。曲名の「真っ裸」は「女のハートが真っ裸晒して」という箇所から付けられているのだが、こう書いて「まっぱ」と歌っているのも洒脱だ。

「もったいぶり」は、アップテンポなシャッフルビートのギターロック。情熱的でエロティックな「絶頂讃歌」、しっとりと官能的な「真っ裸」に対して、エネルギッシュでさわやかな聴き心地の1曲になっている。セッション風の中間部も含めて、ライブ映えしそうな曲調だ。

曲のテーマは告白ソング。歌い出しの「片耳に手の平添えた君が 僕の気伺う楽しげに」や「帰りの電車は五分おき 君の返事十日押し」というフレーズから、“僕”のほうが“君”へと告白してしばらく経った頃の関係が描かれていることがわかる。恋がうまくいくかどうか、焦らされている返事がOKかどうかは曲の中ではわからない。が、どちらにしても10代の青春真っ只中のような、甘酸っぱい恋心が歌われている。「勿体ぶるなら 君が沢山勿体ぶるなら 僕に君への愛を語らせてよ」と一方通行気味に募る思いを綴る歌詞の言葉と、前のめりに疾走感ある曲調がマッチしている。

初のオリジナル曲が大ヒット、広まり続ける和ぬかという存在

10代の頃から音楽に親しみ、ギターを弾いたりもしていたという和ぬか。音楽活動を始めたのは2020年12月のことだ。

まったく無名の存在ながら、TikTokとYouTubeで公開された初のオリジナル曲「寄り酔い」は瞬く間に反響を呼び、TikTokでは1カ月半で1億回再生を突破する。これを受けて楽曲が2021年2月に配信リリースされると、SpotifyやLINE MUSICなど各種ストリーミングサービスのチャートで1位となるスマッシュヒットを記録。一躍世の注目を浴びた。

当時の和ぬかは20歳の大学生。本人が発表したコメントによると「それまでは音楽活動をするつもりなんてまったくありませんでした」「小中高生のときの僕は、将来の夢を聞かれたらいつも公務員と答えていたくらい現実思考なメンズでした」とのことで、シンガーソングライターとして活動していくビジョンは持っていなかったようだ。

しかし、和ぬかの活躍は、この「寄り酔い」だけに終わらなかった。2021年には「ニゲラ」「ブラウニー」「ヨセアツメ」「The Fog」「ビーユアセルフ」と続けざまにオリジナル曲をリリース。さらに女性シンガーのnatsumiに楽曲提供した「イージーゲーム feat. 和ぬか」、客演にシンガーソングライターasmiを迎えMAISONdesに楽曲提供した「ヨワネハキ feat. 和ぬか, asmi」がともにTikTokでバズを生み、ストリーミングサービスで累計1億回再生を突破するヒットソングとなる。

そして、2022年の年始には、和ぬかの名前がさらに幅広い層に広まることになる。きっかけは毎年恒例のau「三太郎シリーズ」のお正月CMソングに楽曲「進め!そっちだ!」が起用されたことだ(参照:和ぬか、au三太郎の新CMソング担当「自分の選択は正しかったのか」迷う人への応援歌)。

「行き先が決まっている道より、道なき道のほうが楽しい」というメッセージが込められたこの曲は、痛快なロックナンバー。和ぬかにとっては初めてバンドサウンドに挑戦した楽曲でもある。

さらに「シュガーロス」を森永製菓「DARS」のキャンペーンソングとして書き下ろし、「ラブの逃走」がテレビドラマ「ロマンス暴風域」のオープニング主題歌として使用されるなど、タイアップにも旺盛に取り組むようになる。

2022年にはアーティストへの楽曲提供やコラボレーションの輪もさらに広がってきた。SixTONESの2ndアルバム「CITY」には松村北斗と髙地優吾によるユニット曲「真っ赤な嘘」を提供。川谷絵音のソロプロジェクト・美的計画の1stアルバム「BITEKI」に収録されている「まだ浅はか feat. 和ぬか」に作詞とボーカルで参加。Souに楽曲提供した「トマドイリズム」、ayahoに楽曲提供したドラマ「妖怪シェアハウス-帰ってきたん怪-」および映画「妖怪シェアハウス─白馬の王子様じゃないん怪─」主題歌の「アミ feat. 和ぬか」と、さまざまな場面で和ぬかの歌声やソングライティングが世間へと浸透していった。

そして2022年7月には1stアルバムの「青二才」をリリースした。既発曲に加えて、「ミミクリーマン feat. NEE」「ロックでキス feat. もっさ(ネクライトーキー)」と、和ぬかがリスペクトするアーティストをフィーチャリングゲストに迎えた新曲などを収めた全13曲。和ぬかはこの作品について「実験感覚で和のエッセンスを取り入れるなど、好奇心や探究心にあふれた楽曲たちを並べた。和ぬか第0章の軌跡と新章への足がかりを示した決意の1枚」とコメントしている。

こうやって改めて振り返ってみると、突如として脚光を浴び、さまざまなオファーを受けながら実験を繰り広げてきた和ぬかの“第0章”が、かなり濃密な期間だったことがわかる。

和ぬかは、かねてからアーティストとしての夢を「日本武道館に立つこと」と語っている。“新章”に向けてのコメントの中でも「いつか武道館の景色を皆さんとご一緒したいので、それまでどうかお付き合いください」と告げている。

おそらく“第1章”も相当に充実したものになりそうだ。年内に予定されている初ライブ、そしてその先の活動にも期待したい。

和ぬか

和ぬか

ライブ情報

和ぬか 1st ONE-MAN LIVE「儚さのオリジン」

和ぬか 1st ONE-MAN LIVE「儚さのオリジン」

2022年12月19日(月)東京都 WWW

チケットは12月3日12:00に一般販売がスタート。

プロフィール

和ぬか(ワヌカ)

2020年末に本格始動した大学生シンガーソングライター。2021年2月にリリースした1stシングル「寄り酔い」をリリース。SixTONESやMAISONdesへの楽曲提供も話題となり、2022年7月には1stアルバム「青二才」を発表した。2022年9月には「絶頂讃歌」を皮切りに“新章”に突入し、10月に「真っ裸」、11月に「もったいぶり」を配信リリース。12月には自身初のワンマンライブ「儚さのオリジン」を行う。