結果的にドームができなくてよかった
田澤 lynch.は年末にデカいライブが控えていて、Waiveは年明け早々に武道館があるわけだけど、お互いライブに臨む気持ちは違うよね。
葉月 Waiveはそこで解散するわけですから、明確に違いますよね。
田澤 僕らの場合は、積み上げて積み上げて「そろそろ勝負に出ましょうか」っていう武道館ではないから。
左から田澤孝介(Waive)、葉月(lynch.)。
葉月 でも、Waiveとしてじゃなくても、田澤さん自身には絶対に返ってくるものがあるはずだから、絶対に次にはつながりますよね。
田澤 そうだね。ホンマに特殊なパターンやと思うよ。だって、武道館なんて冗談でも普通は立てない場所じゃないですか。今回の場合、次はないわけだから、たとえスカスカだろうがやるわけですよ。そういう意味では、最初は「どうなんだろう?」って思ったの。この再始動のプロジェクトが立ち上がった時点で、善徳から「武道館で解散しよう」って話は出ていたんです。僕自身はWaiveっていうバンドが存在したんだよということをたくさんの人に広める活動をすることを望んでいたので、その結果としてたどり着く場所が武道館やっただけ。それに、武道館だけが持つブランド力みたいなものってあるじゃない。そこも含めて「オモロそう」とは思ったけど、武道館を「埋めよう」みたいな頭ではやっていなくて。「たくさんの人がWaiveを知って集まってくれればよし」という考えだったから、最近は仲間の後押しやったりファンの人たちの熱量だったりもあって、「これ、もしかしたら本当にいいとこまで行けちゃうかも」みたいな、自分らを取り巻くうねりがすごく強くなってきていることに喜びを感じているところなんだよね。
葉月 Xを通じて見ていただけですけど、こないだの「CROSS ROAD Fest」あたりから特にすごいですよね。あと、チケットの手売りを始めたのもすごいなと思って。
田澤 あれこそ善徳のパワーやねん。あれ、自分で買ったチケットをディスカウントして売ってるんだけど、それってもうむちゃくちゃなことやん(笑)。
葉月 それまでに買ってくれた人のこととか、考えちゃいますよね。
田澤 そうそう。もちろんその人らに対してのケアも文章にして出してるし、どこまで背負うねんみたいな話なんだけど、そういう推進力も葉月と似たところがあるんじゃないかなと思っていて。目的を実現するための推進力って自分で生み出さないといけないし、生かすも殺すもすべて自分。で、その推進力が実際に周りの人を動かし始めているわけだし、SNSを通じて途中経過が俺らの目にも見え始めている。それもあって、最後のステージの捉え方がどんどん変わってきているかな。でも、何よりまずは周りの人たちに「ありがとう」やな。こんなに応援してもらえると思ってなかったし、そもそも自分たちは人を元気にする側の人間だから「応援してもらう」っていうのがちゃうやろと考えていたクチなんで。ここまで愛されると「本当に幸せやな。その分、絶対にいいステージにしなきゃな」って思いがどんどん強くなって、最後は笑って終わりたいという気持ちになってきてます。
田澤孝介(Waive)
葉月 なるほどなあ。
田澤 これは「たられば」やけど、もうちょっと早くこれができてればとかさ、人々は言い出すわけですよ。
葉月 いやあ、そればかりはね。僕らもその“うねり”が欲しいですよ。こないだ、金沢のMCで「俺らも手売りしたほうがいいかな?」って言ったら、シーンってなりました(笑)。
田澤 そうか、そこにいる人たちはもうチケットを持ってるだろうし。自分たちを知らない人たちが観るきっかけやチャンスって、もうないの?
葉月 こないだの「LUNATIC FEST. 2025」がラストビッグチャンスで、そのあとにチケットがかなり動いたので、結果は残せたと思います。
田澤 実際、「ルナフェス」の評判よかったじゃないですか。でも、lynch.は手売りじゃないよ。俺らが手売りできてるのって、終わるからやねん。武道館のあとも継続せなあかんってなったときに、このムーブができてるかと言われたら、できてないと思う。「なりふり構ってられへんねん」みたいなことが美しくなり得るシチュエーションやからやれてるだけ。「足るを知る」みたいなことが理解できる年齢だからこそ、ここまで長くやれているだけでありがたいですよ。そういう意味では、ここまで長く続けてきてさらに高みを目指し続けるlynch.は、本当にすごいし心から尊敬してる。
葉月 だから、結果的に24歳とかでドームができなくてよかったと思ってますもん(笑)。若い頃にその夢を達成できていたら、そこで燃え尽きていたかもしれないし。
その場で感じられることが絶対に現場にあるはず
田澤 もう当日のセットリストはできてるの?
葉月 ステージプランとか照明とか考えるうえで必要らしくて、10月末には提出してます。
田澤 早っ。今、11月後半だけど、俺らまだ決まってないで(笑)。まだ「何曲やろうか?」って話してるぐらい。こういうところなんでしょうね。
Waiveスタッフ ということを、昨日ライブ制作チームからも言われました(笑)。
一同 (笑)。
田澤 でも、そんなに早く決めて、あとで気が変わったりせえへん?
葉月 あればちゃんと理由を添えて、その都度相談します。
田澤 今から終わったあとの話をするのも違うかもしれないけど、そのライブが終わったあとはどうするの?
葉月 今年1年はlynch.にすべてを捧げたので、来年はソロの比重を増やしたいなと。
田澤 じゃあ、まさに20年のひと区切りのライブでもあるんだ。
葉月 今年、マジで死ぬほどlynch.やりましたからね。
葉月(lynch.)
田澤 lynch.のボーカルだからそうやねんけど(笑)。そっか、でも「死ぬほどlynch.やった」ってカッコいいな。
葉月 大変でしたもん。ライブもたくさんやったけど、リテイクアルバムも3枚組を2作品、合計で70曲くらいレコーディングしましたから。
田澤 それは捧げてるな。今回の東京ガーデンシアター公演は、そのリテイクアルバムを踏襲した内容になるの?
葉月 そこは20周年の締めくくりなので、ベストセレクションですね。特に今年は過去を振り返るような内容のツアーが続いたので、ガーデンシアターは最新曲まで含め「ベスト・オブ・lynch.」でいく予定です。さっきのシーンの話じゃないですけど、今回初めてそのへんをちょっと意識してるんですよ。自分たちが活動するシーンのことなんて僕、一度も考えたことなくて、自分だけよければいいという考えだったんですけど、今回は「これを成功させれば、ヴィジュアル系シーンがちょっと活気付くかも」と思っていて。こないだの「CROSS ROAD Fest」も外から見ていてそう感じたし、その流れで自分たちのこのアリーナ公演が成功することはシーンの未来にもつながるかもしれないし、結果としてあとから自分にも返ってくるんじゃないかと。「そういう気持ちを持ってやるのも悪くないな」と初めて思って、こないだの「ルナフェス」のMCでもそういうことを言いましたし、最近のワンマンのMCでもたまに口にするんですけどね。
田澤 その考え方はすごいな。もちろん満員になってほしいし、最終的に何をもって成功って言うかはそれぞれかもしれないけど、個人的にはこの瞬間に立ち会ってほしくて。やっぱりエンタテイナーや表現者って、目の前で見てもらってこそじゃない。音源はいわゆる記録なんで、そのときのベストを閉じ込めることはできるし、ある程度整えて作ることもできる。だから、「CROSS ROAD Fest」で僕の歌が刺さった人たちが音源を聴いたら「あれっ?」って思うんじゃないかな。だって、俺自身がそう思うんだから。
葉月 それ、どういうことですか(笑)。
田澤 ライブのほうがいいに決まってるじゃない。コンディション云々の話ではなく、何よりもまずライブで観てほしいし、その場で感じられることが絶対に現場にあるはずだから。それを感じてもらうことが、表現者冥利に尽きるわけですよ。
左から田澤孝介(Waive)、葉月(lynch.)。
葉月 デカい会場にしっかり客が入って、その人たちを盛り上げられることも表現になりますしね。
田澤 そうそう。だから俺、ライブを後ろから観るのが好きで。武道館とかも一番上のスタンドの一番後ろから観ると客席の様子含めてライブを楽しめるんだよね。
葉月 人のライブを観に行くと、お客さんを見て感動することがありますもんね。
田澤 だって俺、B'zを観に行ったとき、「ultra soul」のサビで振り返ったもん。
葉月 「お客さん、どんだけ飛んでんじゃい」って?
田澤 そう。7万人がジャンプするわけよ。だから、Waiveもlynch.もそうやって周りを巻き込めるようなライブをしないといけないよね。
葉月 と同時に、この記事を読んだ人たちも「自分も“現象”を作り上げる一員になりたい」という気持ちで会場に足を運んでほしいですね。